10.それはまるで
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翌日、自室で採点作業をしていると、利吉くんがやってきた。山田先生は待ってましたと言わんばかりに、押し入れから溜まっていた洗濯物を取り出した。
「父上、なんですかこれは」
「見たらわかるだろう。洗濯物だ」
「はあ……あ、今日は手土産を持ってきたんです。ちょうど途中で詩織さんに会ったので、一緒に食べませんかと誘ったのですが、断られてしまいました」
利吉くんの視線が鋭く私に向けられたのを感じる。
彼が雪下さんにどんな気持ちを抱いているのか、もちろん、これまでの行動からも以前から分かってはいたが。
「私が、お茶をいれますね」
視線を外し、隣室でお茶の用意をしながら、2人の会話に耳を傾けた。
「ところで父上。詩織さんはどこか体調でも悪いのですか?」
「そうなのか?」
用意したお茶を持って部屋へと戻ると、利吉くんから眼差しが向けられた。
「土井先生は何か知ってらっしゃるんじゃないですか?」
「利吉、本当は雪下君に会うためにここに来たんじゃないのか?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか」
利吉くんは軽く笑いながらも、視線は私から外さない。
「お前、こういうことになると嘘が下手だな」
「父上・・・余計な一言です」
利吉くんは冷静に返そうとするが、その耳は微妙に赤くなっている。
「冬休みも近いですし、詩織さんの住まいが心配でして。それが気になってきたまでですよ」
「そうか。それなら、半助の長屋に泊めたらどうだ?学園にも近いし、きり丸もいるし」
「土井先生と一つ屋根の下に?」
利吉くんの声が大きくなる。
「我が家に来ても男二人でむさ苦しいだろ?半助のところなら、ゆっくりできるんじゃないか?」
「……土井先生はどうお考えですか?」
利吉くんの視線が真っ直ぐ私に向けられる。
まるで、彼は私の答えを試しているように。
普段の私なら「大家さんに空きがないか聞いてみます」とでも答えていただろう。しかし、今は違う。
「決めるのは雪下さんです」
自分の言葉が、雪下さんへの気持ちを認めているようで、思わず顔が熱くなるのを感じた。
隠せるものなら隠していたい。
けれども、目の前にいる気持ちにブレのない彼にせめても対抗したい気持ちだったのだ。
「そういうことですか」
山田先生が遠慮がちに笑った。
「まあまあ、雪下君のことを思うなら、二人ともあんまり硬くならずに素直に気持ちを伝えるのも手だぞ?」
利吉くんは微妙に眉をひそめながらも、「父上、あなたが茶化すと余計ややこしくなるんですよ」と小さく溜息をつき、私に向けて言った。
「ならば、詩織さんに決めていただきましょう」
そしてそのまま部屋を出て行ってしまった。
利吉くんのいなくなった部屋で、山田先生が静かに呟いた。
「半助、利吉の好きにさせといていいのか?」
哀愁漂う声だった。
「半助が抽斗を開くたび、わしは嬉しかったんだがな。お前にも止まり木ができたようで」
「私の仕事は生徒を立派な忍者に育てることですから」
「それは詭弁じゃないか?もっと素直になったらどうだ?」
素直に、真っ直ぐな気持ちを伝える。
子どもの頃は当たり前だったことも、大人になってからは難しくなる。
それでも、きり丸の言うように「仲直り」してまた彼女と和やかに笑っていたい、彼女の力になりたい、そっと側にいたいと思ってしまう。
なんとかなるなら、なんとかしたい。
『なんとかなりますよ』
『私の座右の銘なんです』
照れ笑いする彼女の表情が脳裏に浮かんだ。
「山田先生。ご心配おかけしてすみません。少し外の空気を吸ってきます」
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