8.想い、あふれ
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一年は組の子どもたちの前で泣いてから、
逃げるように事務室に隠れて数刻経ったころ、彼が訪れた。襖越しに彼の声が聞こえる。
「あの・・・・・・先ほどはすみませんでした・・・・・・どこか体調が悪いんですか?それとも・・・・・・は組の生徒がなにかしてしまいましたか?それとも・・・・・・私がなにかしてしまいましたか?」
様子をうかがう声色。襖を開けないのは彼なりの優しさなんだと分かっているのに、【襖を開けて、私のことを抱きしめてほしい】と思っている。
それが、どういうことなのか、土井先生に対してどういう気持ちなのか、やっと分かった。
けれど、気持ちを押し殺すことが精一杯だった。
「先ほどはすみませんでした。私のことは・・・・・・・・・お気になさらないでください。早くみんなのところへ戻られたほうがいいですよ」
本当は気にしてほしいし、私のそばにいてほしい。
なによりも、私の名を呼んでほしい。
だけど、そんな自分勝手なことを伝えても彼を困らせるだけに決まってる。
「そう、ですか・・・・・・」
困惑した声が返ってきたあとも、しばらく土井先生はそこにいるのが分かった。私の頬を静かに涙が流れていく。
この襖を開けて、土井先生の胸に飛び込んでいけたら、どれだけ嬉しいか。
襖越しに、土井先生の気配を感じている。
「あの・・・・・・明日、お休みですから町へ出かけませんか?」
「いえ、明日はきり丸君のバイトのお手伝いがあるので」
「そうですか・・・・・・そしたら・・・・・・」
土井先生は考え込んでいるようだった。
私の機嫌をどうしても直したいのだろう。
それそうなんだろう。
心配させてしまっているのは私なのだから。
でも、
今の私はそんな優しい彼に優しくされると余計につらい。
どうしたら、彼がこのままここを離れてくれるんだろう。
そう考えていると、事務室に向かう足音が聞こえてきた。
「あれぇ?土井先生、僕になにかご用ですか?」
「あ、いや・・・・・・小松田くんじゃなくて・・・・・・」
「さっき乱太郎君たちが心配してましたけど、行かなくていいんですか?」
「あ・・・・・・うん、いま向かうよ・・・・・・」
遠ざかっていく足音が聞こえ、静かに胸を撫で下ろした。
事務室の抽斗にしまったままのマスクとグラサンを咄嗟に手に取り、装着する。
同じタイミングで襖が開かれ小松田さんが入ってきた。
「わ!詩織さん!なんでこんなところに隠れているんですか!しかもグラサンにマスク!どうしたんですか!」
「・・・・・・イメチェンです」
鼻声混じりの言葉にバレてしまうかと思ったけれど、「ああ!花粉症ですか!」と小松田さんは返した。
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