8.想い、あふれ
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小松田さんたちと紅葉狩りに行ってから、上級生の実習や戸部先生の助手だったり、くノ一教室のお手伝いをしたり、放課後は食満君と鍛錬に付き合ったり、きり丸君のアルバイトを手伝ったりと何だかんだと慌ただしく過ごしていた。
食堂のおばちゃんに相談して、週に一度、私も料理作りを手伝うことになって、ぼーっとする暇がさらになくなっていた。そうすることで、その間は忘れることができるから、と逃げていたのかもしれない。
けれど、その日は違った。
上級生の実技授業の一環で、町に出ていて、女装した山田先生と茶屋で一息つくことになった。町娘風を装った伝子さんが土井先生の話を持ち出したのだ。期末テストの試験問題を作るために土井先生は徹夜をしている、と。
「詩織ちゃんからも、半助に無理しないように言ってくれないかしら〜?」
「そう、なんですか……」
「やあねぇ〜、まさか貴方半助以外に行く男のとこでもあるの〜?」
からかい交じりに伝子さんが言う。
この数日、無意識に土井先生のことを考えないようにしていた。けれど、食堂に行けば自然と探している私がいた。きり丸君のアルバイトをしていても、仕事で忍たま長屋や教員長屋を歩いていても、探しているのだ。
「そ、そうじゃないですよ〜」
「詩織ちゃんにお茶でもいれてもらえたら、半助喜ぶわよ〜?」
けれど、土井先生に会うことはなくて、それはきっと向こうが私を避けているのだと気付いた途端、どう表現していいか分からないくらい悲しかった。
「そう、ですかね?」
「そうよ!だって……あら、なんだったかしら」
「なんですか伝子さん」
「とにかく!今夜お茶を頼んだわよ。私も飲みたいし」
半ば強制的に伝子さんにお願いされ、渋々承諾するしかなかった。嬉しいけれど、向こうは私を避けていると思うと複雑な気分だ。
山田先生は、土井先生が喜ぶと言っていたけれど、そんなことはないように思うのだ。
◇
その晩、土井先生の部屋に明かりが灯っていることを確認し、お茶を用意して、部屋へと持ち運んだ。
「夜分遅くにすみません。お茶を用意しました」
襖を開けると抽斗を強く閉める音が耳に届く。
それは土井先生の机からで、きっと、私には見せたくないものがあるのだろうと思った。
土井先生の視線が一瞬だけ向けられるのを感じ、山田先生の机の前に座る。
「ワシもいただるのかな?」
「ええ、どうぞ」
山田先生に湯呑みを渡す。
「期末テストは明日からですよね」
「雪下君。テストの回収に来て、職員室まで運んできてくれるといいんだけどな。そしたらすぐ土井先生も採点できるだろ」
「や、山田先生、それなら私が自分で持ってきますよ」
山田先生の提案に、土井先生が難色を示した。
そうだろうな、と思いつつ悲しくなった。
私が土井先生を意識しすぎてるせいなのか、土井先生が素っ気なく感じてしまう。前みたいに、優しい温かい眼差しを向けてほしくて、声をかけていた。
「では、帰りの挨拶を私が引き継ぐのはどうでしょう?」
「ほぅ、それはいいですな。土井先生、どうです?」
「はあ・・・・・・まあ、それならかまいませんけど」
言葉少なく、それだけ言うと再びプリント用紙に視線を移した。
もちろん土井先生が忙しい身だと分かっているはずなのに、胸が引き裂かれるような痛みが走るのが分かった。
私は彼に湯呑みを差し出すが、彼はためらいがちにそれを受け取った。
「ありがとうございます」
それでも、彼の視線はすぐにプリントに戻ってしまう。
「なにか手伝えることは、ありますか?」
私の問いに、彼はようやく筆を止め、こちらを見た。久しぶりに土井先生と目が合った気がする。
「でも、こんな時間まで手伝わせるのは……」
その声は穏やかで、でもどこか自信のなさが滲んでいた。
「できることなら、ぜひ」
彼は一瞬考えるように息をつき、机の上に置かれたプリントをそっと手渡してきた。
「少しだけなら…この問題文を読んで、意味が分かるか確認してもらえるかな?」
彼の頼みは控えめで、やさしさが溢れていて、その頼み方に、私の心にほっとする気持ちが広がる。
書き途中のプリントには術の内容を問う問題文が書かれていた。
「問題の意味だけなら、分かります。あの、この『禁宿に取り入る習い』って何ですか?」
「それは・・・・・・っくしゅん」
鼻をズズズと啜る姿に、彼が連日徹夜だったのを思い出す。私のせいで余計な負担を増やすのは良くないのだと後悔が押し寄せた。
「疲れてるのにすみません。あとは自分で調べますね。急須はここに置いておきますので」
プリントを机の上に置いて、立ち上がる。
何かを言いたそうな山田先生の視線に気付いたけれど、私はそそくさと部屋を後にした。
もしかしたら…土井先生にとったら私は迷惑な存在なのだろうかと、戸惑いのような不安が渦巻いていた。
→
食堂のおばちゃんに相談して、週に一度、私も料理作りを手伝うことになって、ぼーっとする暇がさらになくなっていた。そうすることで、その間は忘れることができるから、と逃げていたのかもしれない。
けれど、その日は違った。
上級生の実技授業の一環で、町に出ていて、女装した山田先生と茶屋で一息つくことになった。町娘風を装った伝子さんが土井先生の話を持ち出したのだ。期末テストの試験問題を作るために土井先生は徹夜をしている、と。
「詩織ちゃんからも、半助に無理しないように言ってくれないかしら〜?」
「そう、なんですか……」
「やあねぇ〜、まさか貴方半助以外に行く男のとこでもあるの〜?」
からかい交じりに伝子さんが言う。
この数日、無意識に土井先生のことを考えないようにしていた。けれど、食堂に行けば自然と探している私がいた。きり丸君のアルバイトをしていても、仕事で忍たま長屋や教員長屋を歩いていても、探しているのだ。
「そ、そうじゃないですよ〜」
「詩織ちゃんにお茶でもいれてもらえたら、半助喜ぶわよ〜?」
けれど、土井先生に会うことはなくて、それはきっと向こうが私を避けているのだと気付いた途端、どう表現していいか分からないくらい悲しかった。
「そう、ですかね?」
「そうよ!だって……あら、なんだったかしら」
「なんですか伝子さん」
「とにかく!今夜お茶を頼んだわよ。私も飲みたいし」
半ば強制的に伝子さんにお願いされ、渋々承諾するしかなかった。嬉しいけれど、向こうは私を避けていると思うと複雑な気分だ。
山田先生は、土井先生が喜ぶと言っていたけれど、そんなことはないように思うのだ。
◇
その晩、土井先生の部屋に明かりが灯っていることを確認し、お茶を用意して、部屋へと持ち運んだ。
「夜分遅くにすみません。お茶を用意しました」
襖を開けると抽斗を強く閉める音が耳に届く。
それは土井先生の机からで、きっと、私には見せたくないものがあるのだろうと思った。
土井先生の視線が一瞬だけ向けられるのを感じ、山田先生の机の前に座る。
「ワシもいただるのかな?」
「ええ、どうぞ」
山田先生に湯呑みを渡す。
「期末テストは明日からですよね」
「雪下君。テストの回収に来て、職員室まで運んできてくれるといいんだけどな。そしたらすぐ土井先生も採点できるだろ」
「や、山田先生、それなら私が自分で持ってきますよ」
山田先生の提案に、土井先生が難色を示した。
そうだろうな、と思いつつ悲しくなった。
私が土井先生を意識しすぎてるせいなのか、土井先生が素っ気なく感じてしまう。前みたいに、優しい温かい眼差しを向けてほしくて、声をかけていた。
「では、帰りの挨拶を私が引き継ぐのはどうでしょう?」
「ほぅ、それはいいですな。土井先生、どうです?」
「はあ・・・・・・まあ、それならかまいませんけど」
言葉少なく、それだけ言うと再びプリント用紙に視線を移した。
もちろん土井先生が忙しい身だと分かっているはずなのに、胸が引き裂かれるような痛みが走るのが分かった。
私は彼に湯呑みを差し出すが、彼はためらいがちにそれを受け取った。
「ありがとうございます」
それでも、彼の視線はすぐにプリントに戻ってしまう。
「なにか手伝えることは、ありますか?」
私の問いに、彼はようやく筆を止め、こちらを見た。久しぶりに土井先生と目が合った気がする。
「でも、こんな時間まで手伝わせるのは……」
その声は穏やかで、でもどこか自信のなさが滲んでいた。
「できることなら、ぜひ」
彼は一瞬考えるように息をつき、机の上に置かれたプリントをそっと手渡してきた。
「少しだけなら…この問題文を読んで、意味が分かるか確認してもらえるかな?」
彼の頼みは控えめで、やさしさが溢れていて、その頼み方に、私の心にほっとする気持ちが広がる。
書き途中のプリントには術の内容を問う問題文が書かれていた。
「問題の意味だけなら、分かります。あの、この『禁宿に取り入る習い』って何ですか?」
「それは・・・・・・っくしゅん」
鼻をズズズと啜る姿に、彼が連日徹夜だったのを思い出す。私のせいで余計な負担を増やすのは良くないのだと後悔が押し寄せた。
「疲れてるのにすみません。あとは自分で調べますね。急須はここに置いておきますので」
プリントを机の上に置いて、立ち上がる。
何かを言いたそうな山田先生の視線に気付いたけれど、私はそそくさと部屋を後にした。
もしかしたら…土井先生にとったら私は迷惑な存在なのだろうかと、戸惑いのような不安が渦巻いていた。
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