6.からくれない
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数日後、火薬委員会の硝煙庫の掃除が行われた。前日に土井先生から一年は組の補習があるからと頼まれたのだ。
終わり次第行きますから、と言われ私は顧問代理をしている。実際には委員長代理の久々知君が指揮を執っている。といっても、伊助君は補習で、2年生と4年生は学園長の思いつきで校外にいるらしく、実質二人だけだった。
「詩織さん、この前の実習はすみませんでした」
「ううん、気にしないで。久々知君のせいじゃないよ。それより、2人しかいないから、別の日に替えても良かったんじゃない?」
「(勘右衛門に2人きりになるチャンスだよと言われて来たものの・・・心臓が止まりそう・・・)あ、えっと、今日は天気も良いので」
「そっか、うん。じゃあ始めよっか」
久々知君の指示通り、火薬の入った壺などを移動させたり、掃き掃除をしたりと作業を進めた。
硝煙庫は思っていた以上に中が広かった。
作業をしながら、時折ポケットに手を当てている私がいた。
「詩織さん、ポケットに何か入ってるんですか?」
「うん。まあね」
実は、先日紅葉狩りで拾った紅葉を押し葉にして、和紙に貼り付け栞にしていた。
そっとさりげなく渡すには、このタイミングがいいと思ってポケットに忍ばせていたのだ。
内心、土井先生が来るのを今か今かと待ち遠しい。
「あの、詩織さん」
「どうしたの?」
久々知君に呼ばれ、振り向くも彼は恥ずかしそうに言い淀んでいる。
「あ、あの、ですね」
「うん」
思わずこっちまでドキドキが移ってきてしまいそうだ。
「あの…昨日、小松田さんと紅葉狩りに行くという話を聞いてしまったのですが・・・・・・私もご一緒してもよろしいですか?」
「うん、みんなで行こう」
私の返事に、久々知君は顔を紅く染めてホッとしたような表情をした。
可愛らしいな、と思いながらきっとくノ一女子に人気なのかもしれないと思った。
作業は、時間がかかったものの何とか終わらせることができた。
けれど、土井先生はまだ現れない。
どうしよう。
ポケットに手を伸ばし、忍ばせたままの紅葉の栞に触れる。
「じゃあ後はここの鍵を締めるだけなので」
「あ!」
土井先生が来るまで待ちたかった私は、考えなしに言葉を発する。
「どうかしました?」
「忘れ物がないか確認しようかなって」
締めた鍵をもう一度開ける。
硝煙庫に入り、辺りをゆっくりと見渡す。けれど忘れ物は見当たらなかった。
「忘れ物はなさそうですね」
「うん。ごめんね。一緒に確認してくれてありがとう」
これ以上引き伸ばす理由も見つからず、
もう仕方ないか、と思い鍵穴に鍵をさした時だった。
「すまない、補習で遅れてしまって」
突然の登場に、思わず振り返った。
「もう掃除は終わりました」
「すまないな、兵助。雪下さんもありがとうございます」
久々知君から鍵を受け取る様子を見つめていると、土井先生と視線が重なった。
「………」
どうしよう。
いま、渡してしまおうか。
でも、久々知君の前で渡すのは恥ずかしい気がした。
「…?どうかしましたか?」
土井先生が問いかける。
「いえ…」
鍵は事務室まで運ぶだろうから、その時に渡そう。
そう思っていると、土井先生は踵を返した。
「すみません。まだ補習の後片付けが残ってるので」
そう言うと慌ただしく彼は行ってしまった。
待ってください、言いかけた言葉が喉元で詰まる。
あんなに渡したかったはずなのに。
渡すのが少し怖くなっていた。
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