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「乗り物酔いしたんで、前のほう移ります」
そう担任に伝えて俺はバスの後部座席から、最前列にいるアイツの真後ろに席を移動した。
乗り物酔いなんてしていないけど、帽子を目深に被り、それっぽく装う。バスに揺られながら、前から聞こえるアイツの声に俺は耳をすましていた。
✦ campfire ✦
キャンプファイヤーの火の粉がバチバチと音をたてながら、空高く舞い上がっていくのを見つめていた。今日が林間学校の最終日。
――キャンプファイヤーで告白すると成功する――
そんな根も葉もない噂話なんて、信じる気はないけれど、もし今年のプロ試験に合格したら、今年が最後の学校生活だから、俺はアイツに告白すると決めていた。
「和谷も踊るのか?」
「いや、俺はいいよ」
夕食を食べ終えた生徒たちは、外に出てキャンプファイヤーの火を囲うように散らばりながら、音楽が流れてくるのを今か今かと待っている。
自由参加型のレクレーションに、意外にも多くの生徒がオクラホマミキサーを踊ろうと、輪を作りつつあった。
俺は周囲を見渡してアイツを探す。
指定ジャージを着た生徒たちであふれかえった場所で、しかも夜で薄暗くてよく分からない。
そうこうしているうちに曲が流れ出す。
「和谷、踊ろうよ」
クラスの女子に手を引かれて、強制的に輪の中に俺は入る。参加する気はなかったんだけどな。軽快な音楽に合わせてステップを踏みながら、視線をあちこちに向けてアイツを探した。
「和谷、どこ見てんのよ」
「べつに」
3人くらい過ぎたところで、少し離れた先のベンチに雪下が座っているのが目に止まった。
「ちょっと、わりい」
軽く触れていた手を離して輪から外れた俺は、アイツの元へと駆け寄った。ベンチに座る雪下は、そこだけが周囲と違う雰囲気を纏っていて、妙に心をざわつかせた。
「向こうに行かなくていいのか?」
本当はそう思うどころか、チャンスだと思っているのに言葉が見つからない俺はそう尋ねた。
「そっちこそ。行かなくていいの?」
お前の隣にいたい、なんて言えない俺は黙って雪下の隣に腰をかけて、みんなの方を眺めた。雪下もそれ以上なにも言わず、俺と同じ方向を眺めていた。
やっぱり雪下が好きなんだな、と俺は強く思った。隣にいるだけで、胸が高鳴って口から心臓が飛び出してしまいそうだ。
ちらりと横顔を盗み見る。
長い睫毛が揺れて、くりっとした瞳が俺を映す。
(いま、告白するか?)
緊張が俺を弱気にさせる。
俺らしくもねえ。何やってんだ。
そうこうしているうちに音楽が鳴り終わり、生徒たちの笑い声が響き渡る。クラスメイトが俺たちに気付いて「こっちに来いよ」と呼びかける声が聞こえる。
まだ、そっちには行きたくないんだ。
そう思う俺を余所に、雪下が言う。
「呼んでるよ、行かなくていいの?」
キャンプファイヤーの火に照らされた雪下は、頬が赤らんで見えた。
俺はまだ隣にいたいんだ。
伝えたいことがあるんだ。
口を開くと同時に、オクラホマミキサーが再び流れ出す。軽やかなテンポに気持ちが急いてしまう。
まるで目の前で火が燃えてるかのように、吸い込む空気が熱い。満天の夜空に向かって火の粉が舞い上がっていく。
言わなきゃ、
言わなきゃ、
突然音楽が止まり静まり返った。
ふう、と口から息を吐き出して心を落ち着かせる。
「ずっと好きだったんだ」
やっと出た声は少し擦れていた。
雪下は目を見開いたまま「今、なんて言ったの?」と小さく口を動かして聞き返す。
「雪下のこと、ずっと好きだった」
言葉ひとつひとつに思いを込める。
生まれて初めての告白に緊張していた。
雪下のキュッと結んでいた口元が緩む。
「好きだったんだよ。私だって、ずっと」
耳まで真っ赤にした雪下がそこにはいた。
「お前、可愛すぎ」
なにも言葉が思い浮かばなくて、気付いたらそう言っていた。可愛い、なんて普段言わないのに。
そこへ軽快な音楽が流れ込む。音響機器が直ったのだろう。またみんなの笑い声がより一層響き渡る。
「ちょっと、和谷くん!?」
「ほら、踊ろうぜ?」
雪下の手を取り、みんなの輪へと入り込む。
この嬉しさをどう伝えればいいのかなんて、踊る以外に俺は考えられなくて、雪下の俺を握る指先の感触がただそこにはあって、それだけで幸せなのに、照れた雪下の笑顔がさらに俺を幸せにさせた。
end
藤田麻衣子さんの『campfire』より
歌詞は女の子目線です
