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ただまっすぐの道
何も周りにない
あるのははるか先にある湖だけ
湿原地帯を私たちはただ歩いた。
緑と往復するための木道があるだけ。
夏休みの林間学校に来ている。
班行動で順番に次の地点へと進んでいく。
『あっちー。まじあっちー』
『暑いって言わないでよ。余計暑くなるじゃない』
『こんなとこ歩いてなんになるんだよ』
『そんなの先生に聞きなさいよ』
『湿気が多いって分かってて歩くってバカだろ』
『もー私に八つ当たりしないでよ』
私の前をノロノロと歩く和谷。
こいつとは保育所からの腐れ縁だった。
家も近所でよく遊ぶ間柄だった。
『水筒がぬるくなってるし』
『考えて飲まないからよ、ばか』
クラスの子も私たちをお似合いだと言う。
誰かが黒板に相合傘を書いてたこともあった。
私は自分の気持ちがわからなかった。
それに最近、距離ができたように思う。
家に遊びに行っても、碁をやるばかりで休日はいない。
ちょっとだけ寂しい。
『なにぼーっとしてんだよ、行くぞ』
『あ、ごめん』
『大丈夫か?荷物重いなら持つぞ?』
一瞬ドキっとしながら、自分でもてると言って歩いた。
暑くて、湿気ってて、辺境地にいる。
私たちはただ木道を歩いた。
「林間学校?」
「覚えてないのか?」
「いや、覚えてるけど‥それが?」
中学を卒業して、
プロの道を進んでいる和谷と普通の高校生活を送っている私。
たまに一人暮らしの和谷をからかいにいく。
「なんか、最近思い出すんだよなー」
「なにを?」
「ただ暑いだけだったのに、今じゃ懐かしいもん」
「なにそれ、歳とった老人の台詞じゃん」
「はは、そーかも」
和谷のアパートはクーラーが壊れてて蒸し暑い。
まるで湿原地帯、あのときの。
「なんかあの頃って、もう戻ってこねーじゃん。小学校のときって早く大人になりたいと思ってたのにさ」
そうだね、としか言えなかった。
和谷が昔のことを思い出すとは思わなかったから。
「俺さ、小学校のころからお前のこと好きだったんだよなー」
「え?」
「いや、言うつもりなかったけど、お前最近彼氏できたらしいじゃん」
「そう、だけど?」
「俺ももう好きなのやめようかなって」
「なにそれ」
いきなり何を言い出してるわけ
暑さで考えが鈍くなってる?
「返事は彼氏と別れてから教えて」
「は?なんで」
「だってお前も俺のこと好きだろ?」
「え?ちょっと待って、誰が言ったの?」
「お前見てれば分かるし」
「なんで和谷に指図されなきゃいけないのよ、私は別れないから、もったいないし」
「はー?」
「クーラー直したら考える」
それで頭が冷えたら私のこといらなくなるでしょ。
「じゃあ来月の給料で直すから」
「はいはい」
アパートの外も蒸し暑かった。
季節は夏。
和谷も私も夏季休暇中だった。
(なにが好きだ、よ)
木道じゃないアスファルトの道がまっすぐに伸びてる住宅街を私はただ歩いた。
***
「俺のこと嫌いになった?」
「そう。自分のことで精いっぱいだから」
「俺、お前のこと助けるからさ」
「いや、むり」
和谷が変なこと言うから。
頭の中であいつの言葉がずっとぐるぐるしてて、
気持ち悪くて、なにかしないとスッキリしないと思った。
彼氏のことはまあ好きだった。
好きになるのに理由はない。
とにかくタイミングだと思う。
タイミングが合うだけで相思相愛になれると思う。
偶然とか運命とか全部タイミングの問題。
今の彼氏と別れるのは、別れるタイミングは今だから。
和谷と付き合いたいとかじゃなくて、
別れるのもタイミングを間違えたら変になるから。
「クーラー直したから来いよ」
和谷から電話があった。
もう季節は9月。けどまだ暑い。
和谷の部屋は涼しかった。
「彼氏と別れた?前と雰囲気違うじゃん」
「そう?」
男っていうのは、そういうのが分かるらしい。
彼氏がいるかいないか、雰囲気で分かるんだって。
友達のヨウコが言ってた。
「そうか、俺と付き合いたいかー」
「別に言ってない」
「照れるなよ」
「照れてない」
和谷が恋に積極的とか想像できない
今は私をからかってるだけ
和谷と付き合うタイミングは今じゃない。
全然、私には関係ないんだから。
「それよりお前さ、学校どうなの?」
「なんで?」
「いや、中学は俺とよくつるんでたし、友達とかいんのかなって」
「いるに決まってるでしょ。やめてよ心配なんかさ」
私たちはどこへ向かってるんだろうと思った。
ずっと友達の延長戦なのかなって。
こんなどうでもいい会話しかしないのは無駄な気がする。
「もう帰る」
「おう、じゃーな」
すぐバイバイができるのは、それほど愛着がないから。
またアスファルトだけの道を歩く。
遠くに見えるビル街が陽炎になっている。
私もゆらゆらと消えていきたいくらい。
何も考えたくない。
あの小学校のときにみた
あの景色をもう一度見たくなった。
なにもない緑と遠くに湖があって、木道があるだけの場所。
私は携帯を開く。
メールを送り、満足気に空を見た。
『今度の休みに沼ッ原湿原に行こう』
すぐに返事は来た。
『俺たちの初めてのデートだな!』
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