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※悲恋
✦ 最初から知っていた ✦
「いーなー、こんな恋愛したいなぁー」
和谷のアパートで寝そべりながら漫画を読んでくつろぐ私に、和谷は冷めた視線を送っている。
「お前なぁ、いい加減帰れば?」
「いーじゃん別に」
「…ったく」
なんだかんだ言いながら、私をそのままにしてくれるのを知っている。何でなんだろう、と考えてみたことがあった。
恋愛漫画の読み過ぎで、もしかして私のこと好きなのかななんて思ったりした事もあったけど、
「ねぇ、義高。これって私のだっけ?」
「どれ?ん、そう」
そんなことは決してない。
でも気持ちはそれを認めたくなくて、
必死に違う答えを探す自分がいる。
「なぁ、その漫画ってそんな面白い?」
「おもしろいよー。和谷も読む?」
「や、いいわ」
「幼馴染が付き合うって王道パターンよね」
興味無い様子の和谷は、もう私ではなくて碁盤を見ていて、その背中に熱い視線を送ってみた。
ねえ、私たちだって幼馴染なんだよ?
和谷は私のことどう思ってるの?
「ねぇ、義高」
「ん?」
「なんでもない」
こっちに見向きもしないのに、声は冷たいのに、そんな和谷を私は好きになっている。
さっきから名前で呼んだりしてるのに、和谷は一言だって私の名前を呼んでくれない。いつも、なぁ、とか、おい、とかそんな呼び方で、和谷にとって私は何なのか分からなくなる。
こんな無駄な恋は辛いだけだと分かっているのに、終わらせ方が分からないから、こうして私は想いを募らせるばかり。
「さーてと、そろそろ帰ろうかな」
「おう、気をつけて帰れよ」
やっと私のほうを向く和谷は、先程よりも少し明るい表情で、それが余計に悲しくなった。なのに、私を見てくれることが嬉しくて矛盾している。
「ねぇ、和谷。また来てもいい?」
「んー、まぁいいけど」
本当に嫌なら断ればいいのに、和谷の返事はどっちでもない。
「そうだ、今度どっか遊びに行こうよ」
「はぁ?まぁいいけど」
本当に興味無いなら断ればいいのに。
「じゃあ行きたい場所あったらメールしてね!じゃあまた!」
パタンと閉めたドアの向こうで、私がどんな表情だったか和谷には分かんないだろう。
苦し紛れに和谷との接点を増やそうとしてみても、和谷は返事さえも有耶無耶にしてしまうから、私は為す術もない。のれんに腕押し、豆腐にかすがい。
いつから私たちはこうなってしまったんだろう。
昔はもっとお互いのことが分かり合えていたはずなのに、今はちっとも分からない。
[行きたい場所、決まった?]
メールを送った3日後に返信は来た。
その3日間はとても長くて、1日に何度もセンターに問い合わせをしてはため息を吐いた。
[ごめん、手合いとかで忙しいから無理そう]
返信はその一行だけだった。
和谷からのメールはいつも[ごめん]からで始まる。だからこうなる事は少し想像していた。けれど実際に来ると胸が痛い。
そして断る理由はいつも似たような理由で、嫌だ、なんて言わないことも私は気付いていたし、それは私への優しさなのだと分かっていたのに、そのときの私は、もう、この関係に耐えられなかったのだと思う。
気づいた時には、感情たっぷりの文章を綴ったメールを送った後だった。
[ねぇ、和谷にとって私って何なわけ?嫌なら全部断ってよ!変に期待させないで。私は和谷といたいから頑張ってるのに、和谷はいつも素知らぬ顔してさ。ねぇ、私の名前知ってる?今まで呼んだことあった?中途半端に優しくしないで]
やってしまった。
もう全てが終わった。悲しいことに。
送ったメールが削除できればどれだけ嬉しいだろう。
絶対返事は来ないと思っていたのに、
送って数時間後に返事は来た。
異常な早さに操作する指先が震える。
[意味分かんないんだけど。お前の名前は雪下詩織だろ。期待ってなに?俺がいつお前に期待させたわけ?お前こそ俺にどうしてほしいわけ?]
文面からでも伝わる和谷の怒り。
メールでさえも、私をお前って呼ぶのだから、ちっとも私の気持ちを理解していない。
まるで救われる要素もないのに、いつも以上に長い文や、気持ちを書いてくれたことに嬉しいと感じてしまう私がいるのだから、本当に救いようがない。
それでも、もうこの恋を終わらせたい気持ちと、同じくらい好きでいたい気持ちが溢れて涙が止まらなかった。
[この前はごめんなさい。つい今まで溜めてたことをぶつけてしまいました。ちゃんと会って謝りたいので家に行ってもいいですか?]
数日経ってやっと文章にしたメール。
送信ボタンを押すのにも時間がかかった。
泣き腫らした私に残った感情は、ただ今の状況を受け入れることだけだった。たとえ、和谷がすでに私を嫌っていたとしても仕方がなかったと受け入れなきゃいけないんだと、ようやく頭が理解したんだ。
[俺のほうこそごめん。家には来なくて大丈夫。言い忘れてたけど俺、彼女ができたから]
涙は流れるのに不思議と悲しくはなかった。
それよりも、
[え!彼女できたん!?おめでとう!早く言ってよ!彼女いんのに私を部屋に入れないでよ!彼女可哀想やん!彼女大切にしなよ!]
嘘か本当か分からないけれど、単純に私は喜んでしまったのだ。好きな人の幸せを願う。
あーもう、私は自動的に失恋じゃない。
だけどもうそこには、前までのモヤモヤとした気持ちはなくて、背筋を伸ばして空を見上げる私がいた。
最初から知っていた
(君が私を見ていないことくらい)
