記憶の欠片
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ずっと「好き」だという気持ちだけで
あなたを追いかけてた
でも……
記憶の欠片
遠くで声がする。
でもなんて言ってるのか聞こえない。
どうか、
私のことを忘れないで
「わっ!!!」
目が覚めると、ちょうど乱菊さんが私の顔を覗き込んでいて、反射的に声を上げてしまった。
「も〜やだ、驚かさないでよ」
「す、すみません……」
乱菊さんは現況を一通り教えてくれた。
日番谷くんが愛染隊長に敗れて痛手を負ったこと。
愛染隊長たちが虚圏に姿を消したこと。
雛森さんがまだ意識を取り戻していないこと。
説明されながら、あの出来事は現実だったのだと理解しながらも素直に受け入れるのは難しかった。
「どうして詩織はあの場にいたの?」
花瓶の水を入れ替えた乱菊さんが尋ねる。
「十番隊で執務をしてたら愛染隊長がいて、気がついたらあの場にいたんです」
「……そう……あ、別に疑ってるわけじゃないのよ?」
慌てて乱菊さんは訂正する。
その姿に嘘ではないことが分かる。
でも、やはり少しだけ胸が傷んだ。
あのとき日番谷くんから向けられた眼差しが忘れられない。
背筋が凍るような、ぞっとする感じ。
もしかしたら、私は本当に嫌われたかもしれない。
もう、信じてもらえないかもしれない。
もう、私のことも思い出すことなんてないかもしれない。
「……詩織?」
頬を生ぬるい何かが伝い、それが涙だと気付くのに時間がかかった。
怖い。
護廷十三隊に入ったとき、日番谷くんが私のことを思い出せなくても近くにいられれば良いと思ってた。
でも、もう。
突然視界が消えた。
顔に柔らかい感触が伝わる。
乱菊さんの胸だ。
「………私に話してくれない?」
日番谷くんとの思い出を話したのは初めてで、
何から伝えればいいのか戸惑いながら、言葉を紡いだ。
現世で私と同級生だったこと、
私のせいで日番谷くんが死んでしまったこと、
そのときのプレゼントを今でも大切にしていること、
乱菊さんは驚きながらも言葉を挟まず聞いてくれた。
「……隊長のために、護廷に入ったの?」
「はい……バカみたいですよね」
「……詩織、今まで辛かったね」
「……信じてくれるんですか?」
「もちろん決まってるじゃない!どうして今まで教えてくれなかったの!?」
乱菊さんが心配そうな眼差しを私に向ける。
「ごめん、こんなこと言って。でもこれだけは分かって。私は詩織の味方よ?」
「乱菊さん……」
再び頬を涙が伝う。
「最初は思い出してくれなくてもいいと思っていました」
けど、気付かないうちに、本当は思い出してほしいと願っていた。
また仲良く過ごしたい、もっと近くにいたい。
そんなことを思うようになっていたのだ。
「……でも、もう………諦めます」
心の中であの頃の日番谷くんに、サヨナラを言った。
もう、あの頃の私を思い出さないで。
→