記憶の欠片
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それは突然に
記憶の欠片
「私が三席ですか?」
現世での任務を終えて執務室へ向かうと、日番谷隊長の言葉に耳を疑った。
だって、霊術院を異例の2年で卒業してしまったし、十番隊に配属されてまだ半年しか経っていないというのに。
今でも周りの視線は痛いくらいなのに・・・というか、日番谷くんと同じ職場で働きたいと思っていたけど、この特例的扱いは・・・
「お前の力量なら三席がちょうどいいだろう」
「で、でも・・・私にはまだ早すぎますっ」
「詩織、私も三席に賛成なのよ?」
「乱菊さん・・・で、でも」
そこへ地獄蝶がひらりと飛んできた。
伝令は旅禍の侵入―・・・
伝令を聞き終えた日番谷くんは小さく溜め息を漏らすと、たたみかけるように私に言った。
「お前のことを信用して三席にしたんだ。暫くは俺も松本も隊を不在にすることが増えるだろうしな」
「・・・日番谷隊長」
「・・・松本、行くぞ」
羽織が風に揺られて翻る。
その背に向けて涙が流れた。
尺魂界に来てから、日番谷くんが遠い存在だと思っていたから。この数年、ずっと日番谷くんの背中だけを追っていたから。
信頼してる、か・・・。
私に対して特別な感情が少しでもあればいいのに。
覚えていないのだからしょうがない。
だけど・・・
「そんな顔してどないしたん?」
「っ! 市丸隊長・・・!」
突然背後から感じた霊圧に振り返る。
声をかけられるまで全く気付かなかった・・・。
「あの・・・隊長も副隊長もさっきの伝令で外に出てますけど・・・」
目を開くことが少ない市丸隊長は、本当に何を考えているか分からなくて、それがたまに怖かったりする。
「あんさんに用があるんや」
「私に・・・ですか?」
三番隊隊長が、こんな私に一体なんの用なのだろう。
「おたくの隊長、ここを裏切る気やのん気付いとったか?」
「・・・え?」
「この旅禍騒ぎで、おたくの隊長は何か企んどるつもりらしいで?」
市丸隊長の話がまったく飲み込めなくて、ただ彼の真意を探ってみる。けれど分からない。
「まあ、信じなくてもええけどな」
面白そうな笑みを浮かべて市丸隊長は姿を消した。
今のは一体、なに・・・?
日番谷くんが・・・裏切る?
・・・そんなわけない。
日番谷くんは日番谷くんだ。あの頃の日番谷くんだ。
私が十番隊に入ってすぐのとき。
周囲の反応はやはり冷たかったり、妬みだったり、私が日番谷くんにゴマをすったとか、色目を使ったとか、根も葉もない噂を立てられたことがあった。
『詩織、悔しくないの!? あんなに好き勝手に言わせて!』
『乱菊さん・・・でも言い返したところで同じですよ』
『もう!隊長もさっさと詩織と付き合って周りを認めさせればどうです!?』
『ちょっ!乱菊さんっ!!』
『・・・・・・そうだな、よし。雪下、ちょっと付き合え』
『え??』
すごく顔を赤面させた私が、隊長と向かったのは鍛錬場で、私と隊長はみんなの前で真剣勝負をさせられた。隊士たちに私の実力を見せつけるという考えがあったらしい。
隊長の考えは功を成し、私の噂は気付けば消えていた。
『雪下、どうした?』
『まさか勝負をするとは思いませんでしたよ』
『これで嫌でも雪下を認めざるを得ないだろ』
そう言ってニッと笑った日番谷くんの顔が、夕日に照らされたあの日。やっぱり私は日番谷くんが好きなんだと改めて気付かされた。
私は日番谷くんのために、戦う。
もう斬魄刀は始解まで会得していて、
そうだ、あのとき―・・・
仕事を終えて街を歩いていたら十三番隊の朽木さんに、
『これから現世任務ですか?』
『たしか、詩織だったな』
『任務、お気を付けて』
なんてない会話をして、けれど朽木さんは音信不通になってしまって、六番隊に連れられて戻ってきたときには罪人になっていて・・・
市丸隊長の話といい、旅禍といい、
思えば朽木さんの現世任務から何かが変わっているような・・・
ハッと我に返り、机上の置かれた書類に取り掛かる。
今の私にできることはこれくらいで、
日番谷くんを信じることだけ。
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