記憶の欠片
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あいつの付けたそれを見たとき、
見覚えがあった気がしたんだ。
記憶の欠片
その日休日だった俺は、ばっちゃんの家に立ち寄ると、近くから強い霊圧の感じた。
駆けつけた先には、雪下詩織という女が倒れていた。
飢餓状態か気絶していたのか、すぐに俺はばっちゃんの家へ運んだ。
そのとき、女のそばにストラップのような紐が落ちていて、咄嗟にその女の手首に巻き付けた。
その紐はどこかで見たような覚えがあったが、思い出せない。
布団に寝かせて暫くすると目を覚ました女は驚いた表情をして言う。
――どうして日番谷くんがここにいるの?――
俺はお前を知らない。
今日はじめて会った女の顔も名前も俺は知らない。
お前は誰だ。
じっと考え込んでいると、その女は死神になると言い出したのだ。
女の横顔は、何かを覚悟するような真剣な眼差し。
咄嗟に俺は口にしていた。お前には無理だ、と。
きっと、この女は後悔する。
この女のことなど、何も知らないのに。
その日から、休日の都度ばっちゃんの家を俺は訪れていた。
霊術院に行くために、霊圧のコントロールやこの世界の勉強を自分なりにしているみたいだ。
今日も俺は様子を見に行く。
「あ、日番谷隊長。こんにちは」
あの日から雪下は俺のことを隊長と呼ぶようになった。
「雪下、来月から霊術院に通うんだな」
入試に受かったと先日雛森伝いに聞いた。
「はい、そうですよ」
「頑張るんだな」
「隊長。稽古に付き合ってもらえますか」
持っていた木刀を俺に差し出す。
最近になって雪下が剣術が得意だと知った。
現世で剣道をやっていたらしい。
構えが新人隊士より様になっている。
「雪下、十番隊に来いよ」
「日番谷隊長・・・・・・」
雪下は一瞬、驚いた表情を浮かべると、すぐに口角をあげて微笑んだ。
「はい。もちろん」
暫く雪下と手合わせしていると、松本がやってきた。
「あ!いたいた!隊長~!この子が例の子ですね!」
「何事だ、松本」
「きゃー!かわいー!」
鯛焼きの袋片手に持っている松本に、だいたい想像がついて溜め息が漏れる。
以前から、雪下に興味深々だったからな。
すでに目の前で松本に抱きしめられて窒息しそうな雪下を横目に、縁側に腰を落ち着ける。
「隊長、この子が十番隊の新人隊士ですか?」
「時期にな」
「そしたら隊長の将来は安泰じゃないですか!」
「なっ!!どういう意味だっ!!」
「そのままの意味ですよ!素敵な奥さんじゃないですか!身長差が残念ですけど」
「松本っ!!」
「あー!隊長、顔真っ赤ですよ?」
照れてるー!と嬉々としてはしゃぐ松本に、血管がブチ切れる。
「松本!!!」
雪下を盾にして隠れる松本に、雪下は俺に視線を向ける。
「日番谷隊長のお知り合いですか・・・・・・?」
「俺の部下だ」
そう言うと、雪下は松本に視線を移す。
「ん?わたしは松本乱菊。副隊長よ」
「えっ!副隊長?!すっごく綺麗!」
「やだ嬉しい!なにこの子気に入っちゃった!」
冗談だろ。
よりによって仕事サボり魔の松本を雪下は憧れてしまったようだ。
「私、ぜったい十番隊に入ります!」
「わーい!隊長、聞きました?良かったですね!」
「松本っ!!!」
松本は先に瀞霊廷に戻り、また夕刻まで俺は雪下と手合わせをしていた。
雪下の太刀筋はしなやかで、迷いがないように感じられる。
現世の記憶もあるというし、霊圧の使い方は俺が教えているし、
雛森も鬼道を教えるというし、
霊術院は6年も待たずに卒業できるのだろう。
「雪下」
「なんですか、隊長」
俺は、雪下に十番隊にいてほしいと思った。
けれど その前に確認したいことがあった。
「初めて会ったとき、なぜ俺の名前を知っていた」
現世で俺と知り合いだったというのか。
俺はそんな記憶などない。
こんな俺でも、生きていた頃を知りたいという欲はあるのだと気付く。
「知りたいですか?」
雪下の口角が少し上がったように見えた。
「ああ」
「教えません」
そういうと、眉を寄せて微笑む。
「嘘です。なんとなく、隊長は知り合いに似てたものですから」
くす、と口元に手をあてる仕草にあわせて、手首につけられたミサンガが揺れる。
あのとき、俺が煩雑に結んだ紐を雪下は丁寧にほどいて、ミサンガにしていた。
俺はやはり、それを目にするたび何かを忘れているような感覚に陥っていた。
けれど俺は、何も知らない。
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