記憶の欠片
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どんなにもう一度会いたいと願っても
会うことはできないと思っていた
記憶の欠片
「ッヤア、ッメェエエンッッ!」
「いけぇ!雪下!」
額から汗が滴り落ちるのを感じながら、
相手の小手先に竹刀を振りかざす。
「コテェエエエエ!」
「雪下、調子いいじゃない」
「ありがとうございます」
「今度の大会に期待してるわよ!」
先輩たちに礼をして更衣室へと私は向かった。
あの頃から何年も経って、私は大学生になった。
ちゃんと、今まで剣道を続けてるよ。日番谷くん。
もういない彼のことを、私はいまだに忘れないでいる。
私が剣道を始めた原因は、同級生だった日番谷くんだ。
日番谷冬獅郎、彼は私の転校先の小学校にいた。
彼は、剣道をやっていて、気弱だった私を剣の道に引きずり込んだのだ。
私にとって、日番谷くんは――
あの出来事がなければ、私はいまごろ日番谷くんと一緒にいたかもしれないのに。
「詩織ちゃん、いつもありがとうね」
玄関を出ると空は晴天から曇天に変わっていて、今にも雨が降りそうだった。
天気予報では土砂降りが降ると言っていたっけ。
「いえ、私にできることはこれくらいですから」
「雨が降りそうだから、気をつけてね」
おばさんに挨拶をして帰り道を歩いた。
大通りに出たところで、徐々に降り始めた雨は土砂降りに変わっていた。
折りたたみ傘を鞄から取り出すと、付けていたストラップが揺れた。
あの日、あのとき日番谷くんから貰ったストラップ。
急に降り始めた雨は、あの日と同じように視界さえも奪うような激しい雨だった。
だから、私が日番谷くんを思い出すことは必然で、
うわの空で交差点で信号待ちしていた私は、
居眠りしていたトラックに轢かれてしまった。
あの日、
『わたし、日番谷くんなんか・・・・・・好きじゃないから!』
そう言って、
プレゼントされたストラップを川へ投げ捨てしまったことを
ずっと、誰にも言えずに、胸に仕舞ってきた
『冬獅郎が帰ってこないの』
その報せを聞いたとき、
自分のしてしまったことに震えが止まらなかった
『川で見つかったとき、これを握りしめてたの』
『冬獅郎が詩織ちゃんに渡すって言ってて』
『よかったら、もらってくれないかしら』
私は、日番谷くんが好きだった。
プレゼントされるところを同級生に揶揄われて、
恥ずかしくて思わず、投げてしまった。
好きじゃないって嘘を吐いた。
許されないことをした。
ようやく、日番谷くんのもとに逝ける。
そこは、暖かい空気が漂っていて
私は穏やかな眠りについていた。
「ん・・・・・・」
瞼を開くと、見知らぬ場所にいることを理解した。
どこかの家だろうか。
誰かが私に布団をかけてくれていた。
「気付いたか」
「・・・・・・ひ、ひつが、や、くん」
息をするのを忘れるほど、目の前の人物に驚きを隠せない。
なぜか、私の目の前には日番谷くんがいた。
あの頃より少し成長した日番谷くんがいた。
「な、なんで・・・・・・どうして日番谷くんがここにいるの!?」
「お前・・・・・・どうして俺の名前を・・・・・・」
「え・・・・・・」
眉間に皺を寄せて、怪訝そうな表情で日番谷くんは聞いてきた。
まるで、今まで会ったこともないみたいに。
「わ、たしのこと・・・覚えて、ない?・・・・・・っ!あ、ああああ!」
突然私に激痛が走る。
走馬灯のように、なにかが私の中を走り抜け、私は意識を手放した。
薄れゆく意識の中で、日番谷くんの声が響いた。
――おい!どうした! 雛森!来てくれ!――
彼の声は
あの頃と変わらないまま
→
1/9ページ