記憶の欠片
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思い出は
遠い過去に
約束は
果てなき向こうに
記憶の欠片
雪原に、私ひとり。
遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。
懐かしいのに、それが誰か分からない。
あなたは誰?
記憶の欠片を拾い集めるように、
その声の正体を探すけれど見つからない。
途方もなく歩いていた。
辺り一面が雪原の世界は、ずっと真上に太陽があって、
そのおかげか肌寒くなくて、
夢の中なのかお腹も空かなくて、
ずっと歩き続けていた。
あなたは誰?
──詩織!
──詩織!
ここには誰もいないのに、頭の中で声が響いている。
誰?
誰?
あなたは誰?
知りたいのに、知っているはずなのに、
それが今の私には分からなかった。
どのくらい彷徨っていたいただろう。
この雪原の果てに来た。
そこは氷で覆われた世界で、
凍てつくような風が吹いていて、
恐怖を感じるところだった。
けれど、声はその先から聞こえる。
一歩ずつ近付けいていくと、氷の中に人がいた。
子供というほど幼くなくて、
大人というほど歳を重ねていなくて、
青年という表現が合う男の子が、
銀髪の髪をした彼は目を瞑り、氷に閉じ込められていた。
どこか見覚えのある彼に、
名前が出てこないことに、
自然と涙が流れていた。
私は彼を知っている。
だけど、
私の中の記憶がまるで欠けてしまったみたいに思い出せない。
あなたは、誰?
氷に触れる。
指先が触れたところから、温もりが広がっていく。
その温もりは次第に氷を溶かしていき、
凍っていた青年の肌が空気に晒される。
彼の頬に手を添える。
冷たい。
けれど、触れた指先から彼に熱が宿っていき、
時折、瞼をピクッと動かした。
「……日番谷くん」
気付けばそう呼んでいた。
記憶になくても、私は彼を知っている。
声に出して名を呼んだ途端、懐かしさが溢れ涙が零れる。
ずっと、ずっと、
あなたを見つめていた気がする。
あなたを追っていた気がする。
あなたのことが
ずっと
好きだった。
「……詩織」
目の前は彼が、瞼を開いて、私の名を呼んだ。
「ずっと待たせてすまねぇ」
そう呟いた彼は、片手を差し伸べて私を抱き寄せる。
そして近付いたかと思えば、唇に柔らかな感触が広がった。
その瞬間、全てを理解したといっても過言じゃないほど私の中に私と日番谷くんの記憶が流れ込んでくる。
目の前の彼は間違いなく日番谷くんで、
死神の日番谷くんが子どもの頃のままだったのは、
記憶の中の彼だけが成長を遂げていたからなのだと理解した。
「……たぶん、目を覚ましたら俺はまだガキのままだ。それでも…俺のことを、好きでいてほしい」
「……日番谷くんらしくないことを言うね」
「うるせぇ…」
頬を赤らめる姿はやはり変わっていなくて、
やっぱりどうしようもなく大好きで、
日番谷くんらしいなって思った。
「また、会える?」
そう聞くと、彼は静かに頷いた。
そして辺りが光の世界に包まれ、
私は意識が遠のいていった。
◇
「詩織、気がついた?」
「……乱菊さん」
腕を動かすと点滴が繋がれいたことに気付いた。
「……あの、私ってどのくらい眠っていたんですか?」
「1ヶ月よ。よかった…いま、卯ノ花隊長と日番谷隊長を呼んでくるわね」
そう言って乱菊さんは病室を出て行った。
連れてきた卯ノ花隊長の診断により、私は数日入院することとなった。
「詩織!!!」
叫んで入ってきた日番谷くんは、皆の前であることも憚らず私を抱きしめる。
「……どんだけ…心配したと……」
「ひつ、がや…くん」
日番谷くんの温もりが体全体を包み込んだ。
瞼を開くと、卯ノ花隊長と目が合った。隣にいる乱菊さんがニヤけている。
卯ノ花隊長がゆっくりと口を開く。
「日番谷隊長、雪下さんは絶対安静の状態です。そのような行動はお控えください」
「〜〜〜〜ッ!!!!」
その様子を見ていた乱菊さんが「ぷっ」と吹き出した。
「ま、ま、松本〜〜っ!!」
「え?私なにも悪くないじゃないですかあ」
あの日十番隊にいた私は、とうとう現世で愛染たちとの戦いが始まったと知り、私は十二番隊に駆けつけていた。どうにかして、日番谷くんの役に立ちたい。そう思っていたら、阿近さんが穿界門を開いてくれた。以前、缶コーヒーを差し入れたお礼なのだと言っていたので、阿近さんの感覚が私とは少し違うのだろうけど、その違いに感謝した。そして到底私の力では敵わないことは分かっていたので、霊圧を隠して見守っていた。そしたら、いつの間にか皆は雛森さんに向かって攻撃していて、だから、日番谷くんがとどめを刺そうとするのが分かった途端、身体が勝手に動いていた。日番谷くんに雛森さんは殺させない。雛森さんは日番谷くんにとって大事な家族なのだから。
私に突き刺さった刀から、私の血が流れていく。
私も彼もその場に崩れ落ちて、意識がなくなる直前に見えた景色は日番谷くんの悲しい表情だった。
◇
桜の花びらが舞う。
今日は護廷十三隊の花見。
酒や弁当を並べ、隊長や副隊長、隊士たちと所属に関係なく談笑していた。
やちるちゃんが「詩織りん!このお団子ちょーだーい!」と私の持っていた三色団子を奪う。
「やちる副隊長、こっちのみたらし団子もいいですよ?」
「さっすが詩織りん!大好きー!」
「おい。てめえいい加減にそこどけ」
「ひっつん顔がこわーい。そんなんじゃ詩織りんに愛想尽かされちゃうよお?」
やちるちゃんの言葉に周囲にいた隊士たちが一斉に吹き出す。が、すぐに視線を泳がせた。
「うるせえ!詩織もこいつを甘やかすな」
「え?でも可愛いじゃないですか。あ、もちろん日番谷隊長も可愛いですよ?」
「お前なあああ!」
クスッと笑みが溢れる。怒った口調の彼も顔は笑っている。
「も〜二人きりの世界にならないでくださいよお。あっちで詩織を奪られたって男性隊士が撃沈してるの見えません?もう、二人ともそういう空気は二人きりの時にしてくださいねえ?」
乱菊さんが揶揄うので、私も隊長も所在なさげに頷くしかなかった。
◇
花見を終えて、後片付けをしていると、日番谷くんが傍に立つ。
「あんなに酒飲んで酔ってないのか?」
「私、これでも強い方なんですよ?乱菊さんには敵いませんけど」
そう言い終えると静かな空気が部屋に流れ、自然と隊長と見つめ合っていた。
「この後少し、時間あるか?」
「え?あ、はい」
隊長に連れられ、双極の丘のだだっ広い場所へと来ていた。
隊長はおもむろに卍解をすると、静かに「夢で氷輪丸が言っていたんだ」と呟く。
背後の氷花の花びらが一つずつ散っていく。
一枚、また一枚と散っていく。
そして最後の一枚が散る。
「詩織との記憶が戻ったから、本来の年齢まで卍解時に引き上げられると」
日番谷くんの姿はまさしく大人だった。私と同じ年頃の男の子になっている。
もちろん成長した日番谷くんもかっこいい。
「氷輪丸が言ってたことは本当みてえだな」
「うん・・・すごい」
はあ、と日番谷くんはため息をつく。
そして私を抱きしめた。
「卍解の時じゃないとお前のことが抱き締められねえ」
「・・・ふふ。それは体裁を気にしてるの?」
「うっせ。カッコがつかねえだろ」
双極の丘に吹く風は穏やかで、辺りに散りばめられた氷の欠片がキラキラと輝いている。
目の前に立つ日番谷くんは、大人になったその姿でも変わらない、彼らしさがそこにあった。
「もう一度言わせてくれ。俺はお前のことが、大好きだ」
彼の瞳が真っ直ぐに私を見据える。
「うん……私も好き」
そう伝えた瞬間、彼の目が柔らかな色を宿すのが分かった。
「詩織、お前には言いたいことがたくさんある。けど……今はただ、こうして隣にいられるだけで、十分だ」
その言葉を聞いた途端、込み上げるような感情が胸を満たしていく。
同じように、私も思っていた。
どれだけ時を越えようと、この瞬間がすべてだと。
「これからも、ずっと一緒に」
小さな声でささやくと、日番谷くんは一瞬だけ目を見開き、そしてふっと笑みを浮かべた。
「ずっとな。どんなに面倒くさくても、お前の相手は俺だけだから」
その言葉に、思わず笑ってしまう。
たとえどんなことがあっても、この先も彼とともに在りたい。
それだけは確かだった。
風が吹き抜ける。
夕陽に包まれる双極の丘は、一面の花が咲いたかのように氷の欠片がキラキラと鮮やかで――、この瞬間を永遠に心に刻んだ。
おわり
遠い過去に
約束は
果てなき向こうに
記憶の欠片
雪原に、私ひとり。
遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。
懐かしいのに、それが誰か分からない。
あなたは誰?
記憶の欠片を拾い集めるように、
その声の正体を探すけれど見つからない。
途方もなく歩いていた。
辺り一面が雪原の世界は、ずっと真上に太陽があって、
そのおかげか肌寒くなくて、
夢の中なのかお腹も空かなくて、
ずっと歩き続けていた。
あなたは誰?
──詩織!
──詩織!
ここには誰もいないのに、頭の中で声が響いている。
誰?
誰?
あなたは誰?
知りたいのに、知っているはずなのに、
それが今の私には分からなかった。
どのくらい彷徨っていたいただろう。
この雪原の果てに来た。
そこは氷で覆われた世界で、
凍てつくような風が吹いていて、
恐怖を感じるところだった。
けれど、声はその先から聞こえる。
一歩ずつ近付けいていくと、氷の中に人がいた。
子供というほど幼くなくて、
大人というほど歳を重ねていなくて、
青年という表現が合う男の子が、
銀髪の髪をした彼は目を瞑り、氷に閉じ込められていた。
どこか見覚えのある彼に、
名前が出てこないことに、
自然と涙が流れていた。
私は彼を知っている。
だけど、
私の中の記憶がまるで欠けてしまったみたいに思い出せない。
あなたは、誰?
氷に触れる。
指先が触れたところから、温もりが広がっていく。
その温もりは次第に氷を溶かしていき、
凍っていた青年の肌が空気に晒される。
彼の頬に手を添える。
冷たい。
けれど、触れた指先から彼に熱が宿っていき、
時折、瞼をピクッと動かした。
「……日番谷くん」
気付けばそう呼んでいた。
記憶になくても、私は彼を知っている。
声に出して名を呼んだ途端、懐かしさが溢れ涙が零れる。
ずっと、ずっと、
あなたを見つめていた気がする。
あなたを追っていた気がする。
あなたのことが
ずっと
好きだった。
「……詩織」
目の前は彼が、瞼を開いて、私の名を呼んだ。
「ずっと待たせてすまねぇ」
そう呟いた彼は、片手を差し伸べて私を抱き寄せる。
そして近付いたかと思えば、唇に柔らかな感触が広がった。
その瞬間、全てを理解したといっても過言じゃないほど私の中に私と日番谷くんの記憶が流れ込んでくる。
目の前の彼は間違いなく日番谷くんで、
死神の日番谷くんが子どもの頃のままだったのは、
記憶の中の彼だけが成長を遂げていたからなのだと理解した。
「……たぶん、目を覚ましたら俺はまだガキのままだ。それでも…俺のことを、好きでいてほしい」
「……日番谷くんらしくないことを言うね」
「うるせぇ…」
頬を赤らめる姿はやはり変わっていなくて、
やっぱりどうしようもなく大好きで、
日番谷くんらしいなって思った。
「また、会える?」
そう聞くと、彼は静かに頷いた。
そして辺りが光の世界に包まれ、
私は意識が遠のいていった。
◇
「詩織、気がついた?」
「……乱菊さん」
腕を動かすと点滴が繋がれいたことに気付いた。
「……あの、私ってどのくらい眠っていたんですか?」
「1ヶ月よ。よかった…いま、卯ノ花隊長と日番谷隊長を呼んでくるわね」
そう言って乱菊さんは病室を出て行った。
連れてきた卯ノ花隊長の診断により、私は数日入院することとなった。
「詩織!!!」
叫んで入ってきた日番谷くんは、皆の前であることも憚らず私を抱きしめる。
「……どんだけ…心配したと……」
「ひつ、がや…くん」
日番谷くんの温もりが体全体を包み込んだ。
瞼を開くと、卯ノ花隊長と目が合った。隣にいる乱菊さんがニヤけている。
卯ノ花隊長がゆっくりと口を開く。
「日番谷隊長、雪下さんは絶対安静の状態です。そのような行動はお控えください」
「〜〜〜〜ッ!!!!」
その様子を見ていた乱菊さんが「ぷっ」と吹き出した。
「ま、ま、松本〜〜っ!!」
「え?私なにも悪くないじゃないですかあ」
あの日十番隊にいた私は、とうとう現世で愛染たちとの戦いが始まったと知り、私は十二番隊に駆けつけていた。どうにかして、日番谷くんの役に立ちたい。そう思っていたら、阿近さんが穿界門を開いてくれた。以前、缶コーヒーを差し入れたお礼なのだと言っていたので、阿近さんの感覚が私とは少し違うのだろうけど、その違いに感謝した。そして到底私の力では敵わないことは分かっていたので、霊圧を隠して見守っていた。そしたら、いつの間にか皆は雛森さんに向かって攻撃していて、だから、日番谷くんがとどめを刺そうとするのが分かった途端、身体が勝手に動いていた。日番谷くんに雛森さんは殺させない。雛森さんは日番谷くんにとって大事な家族なのだから。
私に突き刺さった刀から、私の血が流れていく。
私も彼もその場に崩れ落ちて、意識がなくなる直前に見えた景色は日番谷くんの悲しい表情だった。
◇
桜の花びらが舞う。
今日は護廷十三隊の花見。
酒や弁当を並べ、隊長や副隊長、隊士たちと所属に関係なく談笑していた。
やちるちゃんが「詩織りん!このお団子ちょーだーい!」と私の持っていた三色団子を奪う。
「やちる副隊長、こっちのみたらし団子もいいですよ?」
「さっすが詩織りん!大好きー!」
「おい。てめえいい加減にそこどけ」
「ひっつん顔がこわーい。そんなんじゃ詩織りんに愛想尽かされちゃうよお?」
やちるちゃんの言葉に周囲にいた隊士たちが一斉に吹き出す。が、すぐに視線を泳がせた。
「うるせえ!詩織もこいつを甘やかすな」
「え?でも可愛いじゃないですか。あ、もちろん日番谷隊長も可愛いですよ?」
「お前なあああ!」
クスッと笑みが溢れる。怒った口調の彼も顔は笑っている。
「も〜二人きりの世界にならないでくださいよお。あっちで詩織を奪られたって男性隊士が撃沈してるの見えません?もう、二人ともそういう空気は二人きりの時にしてくださいねえ?」
乱菊さんが揶揄うので、私も隊長も所在なさげに頷くしかなかった。
◇
花見を終えて、後片付けをしていると、日番谷くんが傍に立つ。
「あんなに酒飲んで酔ってないのか?」
「私、これでも強い方なんですよ?乱菊さんには敵いませんけど」
そう言い終えると静かな空気が部屋に流れ、自然と隊長と見つめ合っていた。
「この後少し、時間あるか?」
「え?あ、はい」
隊長に連れられ、双極の丘のだだっ広い場所へと来ていた。
隊長はおもむろに卍解をすると、静かに「夢で氷輪丸が言っていたんだ」と呟く。
背後の氷花の花びらが一つずつ散っていく。
一枚、また一枚と散っていく。
そして最後の一枚が散る。
「詩織との記憶が戻ったから、本来の年齢まで卍解時に引き上げられると」
日番谷くんの姿はまさしく大人だった。私と同じ年頃の男の子になっている。
もちろん成長した日番谷くんもかっこいい。
「氷輪丸が言ってたことは本当みてえだな」
「うん・・・すごい」
はあ、と日番谷くんはため息をつく。
そして私を抱きしめた。
「卍解の時じゃないとお前のことが抱き締められねえ」
「・・・ふふ。それは体裁を気にしてるの?」
「うっせ。カッコがつかねえだろ」
双極の丘に吹く風は穏やかで、辺りに散りばめられた氷の欠片がキラキラと輝いている。
目の前に立つ日番谷くんは、大人になったその姿でも変わらない、彼らしさがそこにあった。
「もう一度言わせてくれ。俺はお前のことが、大好きだ」
彼の瞳が真っ直ぐに私を見据える。
「うん……私も好き」
そう伝えた瞬間、彼の目が柔らかな色を宿すのが分かった。
「詩織、お前には言いたいことがたくさんある。けど……今はただ、こうして隣にいられるだけで、十分だ」
その言葉を聞いた途端、込み上げるような感情が胸を満たしていく。
同じように、私も思っていた。
どれだけ時を越えようと、この瞬間がすべてだと。
「これからも、ずっと一緒に」
小さな声でささやくと、日番谷くんは一瞬だけ目を見開き、そしてふっと笑みを浮かべた。
「ずっとな。どんなに面倒くさくても、お前の相手は俺だけだから」
その言葉に、思わず笑ってしまう。
たとえどんなことがあっても、この先も彼とともに在りたい。
それだけは確かだった。
風が吹き抜ける。
夕陽に包まれる双極の丘は、一面の花が咲いたかのように氷の欠片がキラキラと鮮やかで――、この瞬間を永遠に心に刻んだ。
おわり
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