記憶の欠片
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偽りの私を
好きと言ってくれて
ありがとう
記憶の欠片
「報告は以上です。日番谷隊長」
「ああ…」
松本の報告に生返事する、松本は盛大にため息をついた。
「会いに行ったらどうですか?」
失恋したとは限らないじゃないですか!
ひょっとしたら緊張してただけかも知れないんですよ?
俺をなぐさめるように言う部下を横目に空を仰ぐ。
現世の空はまるで俺のことを嘲笑っているかのような潔い蒼さだった。
あの日から詩織に会っていない。
詩織も松本以外に連絡をとっていないみたいだった。
俺と詩織の間にはまるで心の距離まで離れていってしまったように思えた。そもそも心の距離だって縮んでいたのかさえ怪しくなる。
「そろそろ愛染たちが動き始める頃だ」
空座町を戦闘可能状態にし、その対戦を待つばかりだった。
全部が片付いて瀞霊廷に戻ったら、詩織にもう一度気持ちを伝える。その思いだけで何とか平静を保っていた。
『もう一度聞かせて』
もし記憶が戻ったら、俺は同じ気持ちのままなんだろうか。
いや、そんなことはない。
何があっても、俺は詩織のことが好きだし、どんな事情があったとしても、俺は……
──緊急速報!緊急速報!
──空座町北西に破面出現!
破面が出現し、俺を含め総隊長率いる隊長・副隊長たちが各所で対戦を始めた。
「こんなガキが隊長ってマジかよ」
相手の戯言を流し、刀を抜く。
破面は強かった。
卍解した俺でさえやられそうになった頃、かつての護廷十三隊だった奴らが現れた。
目の前で見せつけられた実力差に、歯がゆく感じた。
これでは詩織を守れないような気がした。
「シロちゃん!!」
現れた雛森は「愛染隊長は私が…倒すの」と、まるで、絶望という希望を背負っているような表情を浮かべ刀を手にしていた。
愛染がようやく姿を現した。
けれど雛森はすぐに傷を負ってしまった。
倒れた雛森を四番隊を初め、檜佐木たちが介抱する。
俺はこのとき、この場に詩織がいないことに安堵していた。
血の広がる世界に、
アイツにいてほしくない。
安全な場所で笑顔でいてほしい。
隊長たちが愛染に向けて一斉に攻撃を仕掛けていく。
とどめを刺す俺の前に、
突然、なにかが視界に映った。
グサッと刀が、それと愛染を貫通する感触が手のひらに伝わる。
同時に遮ったものが、
いつも見慣れていた、
会いたいと思っていた、
今度会ったら想いを伝えたいと思っていた、
詩織だった。
「なにやってんだよ!!」
一護の叫びにまるで夢でも見ていたかのように
悲惨なまでの現実を突きつけられた。
俺の切ったものは愛染ではなく雛森で、
その雛森を庇うように詩織の身体に刀が突き刺さっていた。
「ぅおおおおおおおお!!!!!」
「日番谷隊長!だめだ!止めるんだ!」
もうそこにいつもの冷静さはなかった。
無惨にも俺は愛染に敗れ散った。
薄れゆく意識の中で、詩織の生気のない顔に手を伸ばす。
どうして詩織がここに。
どうして。
やっと手を伸ばした指先に触れた詩織は冷たかった。
そこで俺の意識も遠のいた。
──日番谷くん
──日番谷くん
ただ白い世界の中で、詩織が俺を呼ぶ声だけがこだましていた。
遠い遠い誰かの記憶のようなものが脳裏を駆け抜ける。それが誰でもない俺の現世の頃の記憶なのだと必然的に理解した。
そこは小学校の教室で、
担任の先生が「転校生が来ました」と女の子を連れて、
雪下詩織、と黒板に彼女の名前を書く。
栗毛のふわっとした髪の毛や、緊張で何度も瞬きをしていた姿が可愛いと思った。
俺は詩織に一目惚れをしていた。
習い事の剣道に詩織を誘ったり、
一緒に登下校したり、
とにかく一緒に過ごす時間が多かった。
詩織の誕生日に、ブレスレットをプレゼントした。
けれど、その場を見ていた同じクラスの男が、囃し立てて、
そのせいで詩織はブレスレットを川に投げた。
雨が降る中、そのブレスレットを探していた。
やっと見つけたとき、足元を滑らせてしまった俺は川に流され溺れ死んだ。
息のできない苦しい中、ブレスレットを握る手のひらだけは絶対に離さないようにずっと、ずっと握り締めていた。
あの時、俺が握って死んだブレスレットは、ちゃんと詩織に届いていたのだと知り、嬉しくなるのと同時に、ずっと大人になるまで肌身離さず身につけていた詩織に、大好きでは言い表すことのできない強い想いが俺の中に芽吹いていた。
『また聞かせてね?』
「隊長……!!」
気が付くと四番隊の病室だった。カーテンを開けていた松本が慌てて駆け寄る。
「詩織は!?」
腕に刺さった点滴の管を無視して俺は起き上がる。
周囲に詩織の霊圧は感じない。
「……隊長……詩織は………」
目の前の松本は明らかに視線を落とし、言いにくそうに言葉を躊躇う。
「詩織はどうしたっ!?」
心臓がうるさい。
手が震える。
現実を見たくない自分がいる。
詩織が死んだなんて聞きたくない俺がいる。
そんなわけない。
黙ってる松本に、苛立ちと焦燥感と遺失感がぐちゃぐちゃに混ざる。
「まだ、意識が戻りません」
誓ったんだ。
今度こそ、ちゃんと伝えるって
→
好きと言ってくれて
ありがとう
記憶の欠片
「報告は以上です。日番谷隊長」
「ああ…」
松本の報告に生返事する、松本は盛大にため息をついた。
「会いに行ったらどうですか?」
失恋したとは限らないじゃないですか!
ひょっとしたら緊張してただけかも知れないんですよ?
俺をなぐさめるように言う部下を横目に空を仰ぐ。
現世の空はまるで俺のことを嘲笑っているかのような潔い蒼さだった。
あの日から詩織に会っていない。
詩織も松本以外に連絡をとっていないみたいだった。
俺と詩織の間にはまるで心の距離まで離れていってしまったように思えた。そもそも心の距離だって縮んでいたのかさえ怪しくなる。
「そろそろ愛染たちが動き始める頃だ」
空座町を戦闘可能状態にし、その対戦を待つばかりだった。
全部が片付いて瀞霊廷に戻ったら、詩織にもう一度気持ちを伝える。その思いだけで何とか平静を保っていた。
『もう一度聞かせて』
もし記憶が戻ったら、俺は同じ気持ちのままなんだろうか。
いや、そんなことはない。
何があっても、俺は詩織のことが好きだし、どんな事情があったとしても、俺は……
──緊急速報!緊急速報!
──空座町北西に破面出現!
破面が出現し、俺を含め総隊長率いる隊長・副隊長たちが各所で対戦を始めた。
「こんなガキが隊長ってマジかよ」
相手の戯言を流し、刀を抜く。
破面は強かった。
卍解した俺でさえやられそうになった頃、かつての護廷十三隊だった奴らが現れた。
目の前で見せつけられた実力差に、歯がゆく感じた。
これでは詩織を守れないような気がした。
「シロちゃん!!」
現れた雛森は「愛染隊長は私が…倒すの」と、まるで、絶望という希望を背負っているような表情を浮かべ刀を手にしていた。
愛染がようやく姿を現した。
けれど雛森はすぐに傷を負ってしまった。
倒れた雛森を四番隊を初め、檜佐木たちが介抱する。
俺はこのとき、この場に詩織がいないことに安堵していた。
血の広がる世界に、
アイツにいてほしくない。
安全な場所で笑顔でいてほしい。
隊長たちが愛染に向けて一斉に攻撃を仕掛けていく。
とどめを刺す俺の前に、
突然、なにかが視界に映った。
グサッと刀が、それと愛染を貫通する感触が手のひらに伝わる。
同時に遮ったものが、
いつも見慣れていた、
会いたいと思っていた、
今度会ったら想いを伝えたいと思っていた、
詩織だった。
「なにやってんだよ!!」
一護の叫びにまるで夢でも見ていたかのように
悲惨なまでの現実を突きつけられた。
俺の切ったものは愛染ではなく雛森で、
その雛森を庇うように詩織の身体に刀が突き刺さっていた。
「ぅおおおおおおおお!!!!!」
「日番谷隊長!だめだ!止めるんだ!」
もうそこにいつもの冷静さはなかった。
無惨にも俺は愛染に敗れ散った。
薄れゆく意識の中で、詩織の生気のない顔に手を伸ばす。
どうして詩織がここに。
どうして。
やっと手を伸ばした指先に触れた詩織は冷たかった。
そこで俺の意識も遠のいた。
──日番谷くん
──日番谷くん
ただ白い世界の中で、詩織が俺を呼ぶ声だけがこだましていた。
遠い遠い誰かの記憶のようなものが脳裏を駆け抜ける。それが誰でもない俺の現世の頃の記憶なのだと必然的に理解した。
そこは小学校の教室で、
担任の先生が「転校生が来ました」と女の子を連れて、
雪下詩織、と黒板に彼女の名前を書く。
栗毛のふわっとした髪の毛や、緊張で何度も瞬きをしていた姿が可愛いと思った。
俺は詩織に一目惚れをしていた。
習い事の剣道に詩織を誘ったり、
一緒に登下校したり、
とにかく一緒に過ごす時間が多かった。
詩織の誕生日に、ブレスレットをプレゼントした。
けれど、その場を見ていた同じクラスの男が、囃し立てて、
そのせいで詩織はブレスレットを川に投げた。
雨が降る中、そのブレスレットを探していた。
やっと見つけたとき、足元を滑らせてしまった俺は川に流され溺れ死んだ。
息のできない苦しい中、ブレスレットを握る手のひらだけは絶対に離さないようにずっと、ずっと握り締めていた。
あの時、俺が握って死んだブレスレットは、ちゃんと詩織に届いていたのだと知り、嬉しくなるのと同時に、ずっと大人になるまで肌身離さず身につけていた詩織に、大好きでは言い表すことのできない強い想いが俺の中に芽吹いていた。
『また聞かせてね?』
「隊長……!!」
気が付くと四番隊の病室だった。カーテンを開けていた松本が慌てて駆け寄る。
「詩織は!?」
腕に刺さった点滴の管を無視して俺は起き上がる。
周囲に詩織の霊圧は感じない。
「……隊長……詩織は………」
目の前の松本は明らかに視線を落とし、言いにくそうに言葉を躊躇う。
「詩織はどうしたっ!?」
心臓がうるさい。
手が震える。
現実を見たくない自分がいる。
詩織が死んだなんて聞きたくない俺がいる。
そんなわけない。
黙ってる松本に、苛立ちと焦燥感と遺失感がぐちゃぐちゃに混ざる。
「まだ、意識が戻りません」
誓ったんだ。
今度こそ、ちゃんと伝えるって
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