だれも嘘はついていません
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嘘だと言って欲しかった。
新学期が始まる四月一日の朝の空には、清々しいくらいに雲一つ無い晴天が広がっている。事務員の私は一足先に学園に戻り、新年度に向けた事務準備を進めていた。事務室から見える敷地の一部から、桜の蕾みから花びらが芽吹き始めているのが見える。机の上に、桜の咲いた枝をそっと置いた。朝方の土井先生とのやり取りを嫌でも思い出された。
校門前を通ると桜が満開に咲いていて、綺麗だななんて眺めていると「この桜も貴女と同じで一足先に咲いたようですね」と温かな声で土井先生が門の向こうから姿を現し、おはようございます、と私に向かって挨拶した。
「おはようございます。きり丸くんは?」
「乱太郎たちと来るって言うので、私だけ先に」
そう言って、先生が「まさか学園の桜がもう咲いてるとは思ってなかったです」と悔しそうに笑うと、身体に巻いていた風呂敷を下ろした。
「来る途中に桜が咲いていたので、思わず見せたくなってしまいました」
風呂敷から取り出されたのは、桜の枝だった。先生から手渡され、私はそれを受け取る。可愛らしい薄桃色の桜が均等に花弁を広げていた。
「まさか、これを渡しに?」
「ええ、そうです」
彼が頬を染めるのが分かった。この綺麗に咲いた桜を誰かに渡すために持ってきたのか。なにも私に見せなくてもいいのに。そう心の中で呟いた。先生がこうして花を見せたいと思う相手がいたことに少なからずショックを受けている。そもそも、先生は花を折って持ってくるほどの衝動に駆られる相手がいるのに、どうして私にわざわざ見せつけるのか。気付けば心の声は喉から出ていた。
「どうして……です?」
「え?」
素っ頓狂な声が返ってくる。慌てて言葉を紡いだ。
「いえ、ではこれは……お返しします」
そう言って桜の枝を先生に返す。
「先生にも、こうやって桜を見せたい方がいらしたんですね」
枝を受け取った先生の眼差しは桜の花びらに向けられている。その柔らかな眼差しに、つい桜にさえ嫉妬を抱きそうになった。
「はは、バレてましたか」
目の前の先生はいつものようにカラッと笑った。途端にチクッと胸の奥が痛む。失恋後に自覚するなんて虚しいのに。
「でも私の気持ちは相手には届かなかったみたいです。なので折角ですから、この桜を受け取ってくれます?」
そう言って私の手のひらに桜を握らせ、彼は颯爽と去ってしまった。手のひらに残った桜を無碍に地面に投げ捨てることもできず、事務室まで持ってきて、机の上に置いている。清々しいほどの青空と、綺麗に咲き誇った桜は私の胸中とは全く矛盾したものだった。けれど、土井先生から貰ったという事実と、桜を渡したかった相手がいるという現実に気持ちが定まらないでいる。
嘘だと言ってほしかった。私の気持ちは相手には届かないようなので。誰のことだったのだろう。もしかしたら、私の知らない素敵な人なのだろう。憂鬱な気持ちを抱えたまま、止めていた事務作業の手を動かした。
新学期が始まる四月一日の朝の空には、清々しいくらいに雲一つ無い晴天が広がっている。事務員の私は一足先に学園に戻り、新年度に向けた事務準備を進めていた。事務室から見える敷地の一部から、桜の蕾みから花びらが芽吹き始めているのが見える。机の上に、桜の咲いた枝をそっと置いた。朝方の土井先生とのやり取りを嫌でも思い出された。
校門前を通ると桜が満開に咲いていて、綺麗だななんて眺めていると「この桜も貴女と同じで一足先に咲いたようですね」と温かな声で土井先生が門の向こうから姿を現し、おはようございます、と私に向かって挨拶した。
「おはようございます。きり丸くんは?」
「乱太郎たちと来るって言うので、私だけ先に」
そう言って、先生が「まさか学園の桜がもう咲いてるとは思ってなかったです」と悔しそうに笑うと、身体に巻いていた風呂敷を下ろした。
「来る途中に桜が咲いていたので、思わず見せたくなってしまいました」
風呂敷から取り出されたのは、桜の枝だった。先生から手渡され、私はそれを受け取る。可愛らしい薄桃色の桜が均等に花弁を広げていた。
「まさか、これを渡しに?」
「ええ、そうです」
彼が頬を染めるのが分かった。この綺麗に咲いた桜を誰かに渡すために持ってきたのか。なにも私に見せなくてもいいのに。そう心の中で呟いた。先生がこうして花を見せたいと思う相手がいたことに少なからずショックを受けている。そもそも、先生は花を折って持ってくるほどの衝動に駆られる相手がいるのに、どうして私にわざわざ見せつけるのか。気付けば心の声は喉から出ていた。
「どうして……です?」
「え?」
素っ頓狂な声が返ってくる。慌てて言葉を紡いだ。
「いえ、ではこれは……お返しします」
そう言って桜の枝を先生に返す。
「先生にも、こうやって桜を見せたい方がいらしたんですね」
枝を受け取った先生の眼差しは桜の花びらに向けられている。その柔らかな眼差しに、つい桜にさえ嫉妬を抱きそうになった。
「はは、バレてましたか」
目の前の先生はいつものようにカラッと笑った。途端にチクッと胸の奥が痛む。失恋後に自覚するなんて虚しいのに。
「でも私の気持ちは相手には届かなかったみたいです。なので折角ですから、この桜を受け取ってくれます?」
そう言って私の手のひらに桜を握らせ、彼は颯爽と去ってしまった。手のひらに残った桜を無碍に地面に投げ捨てることもできず、事務室まで持ってきて、机の上に置いている。清々しいほどの青空と、綺麗に咲き誇った桜は私の胸中とは全く矛盾したものだった。けれど、土井先生から貰ったという事実と、桜を渡したかった相手がいるという現実に気持ちが定まらないでいる。
嘘だと言ってほしかった。私の気持ちは相手には届かないようなので。誰のことだったのだろう。もしかしたら、私の知らない素敵な人なのだろう。憂鬱な気持ちを抱えたまま、止めていた事務作業の手を動かした。
