短編
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「あ、土井先生」
「詩織くん、どうしたんだい?」
私は団子屋で仲良くなった学園長の勧めで
ここ忍術学園で事務員をしている。
廊下ですれ違った彼に声をかけた。
先生は立ち止まり、こちらに振り向く。
「先生と今度の休みに甘味処に行くって約束してたじゃないですか?」
「ああ、そうだね」
歳も近いことがあってか、土井と私が親しくなるのに時間はかからなかった。仲は良いと思うけど、練り物は食べてあげないのは、大人なら好き嫌いしないで食べろという私の老婆心だ。
「実は、小松田さんがミスしてしまって……行けなくなっちゃったんですよねぇ」
てへぺろ!と舌を出して謝る。
振り返ったままの彼の表情は真顔のまま固まっている。
一体どうしたのだろう。
「土井先生?」
ちょっと、土井先生。
表情がわかりづらいですよ。なんかリアクションとってくださいよ。
「では、私は事務室に戻りますからね」
無表情で固まったままの先生を残し、踵を返して事務室へと向かった。
ふー、小松田さんと残業かぁ……がんばるしかないなぁあ。
……休み、楽しみにしてたのになぁ。
土井先生もなにも返事しないし。
どーせ、私はそんくらいの人ってことでしょ、きっと。
いーもん、仕事が片付いたら小松田さんにいーっぱい奢ってもらうんだから!
**
数日が過ぎ、やっと仕事が片付いた夕方。
「やっと終わったね、詩織ちゃん」
「そうですね。ね、小松田さん」
「ん?なに?」
「今からあんみつでも奢ってくださいよ」
「あ、そうだね。今からだと日が暮れちゃうよ」
「あー。けど今がいいんです!いつ食べるの?今でしょ!?」
「はは、詩織ちゃんてほんと流行りが好きなんだから」
「へへ」
やったーー、あんみつ食べれる♪なんてことを思いながら、ニコニコ笑顔の私をよそに彼は現れた。
「おや? これからどこかに行くのかい?」
「あ、土井先生。これから詩織さんとあんみつ屋に行くんです」
「これから? もう暗くなるぞ?」
さきほどの小松田さんと同様のことを土井先生は言う。
「土井先生、今食べないでいつ食べるんですか?」
そして小松田さんは私が言ったことと同じことを言う。
「なんだ『今でしょ』とでも言いたいんだろうが……もうじき暗くなる。夜道は曲者が多い。残念だが明日にしなさい」
「「えーー」」
さすがに教師には逆らえないのが事務員で、小松田さんと涙を分け合ったのだった。
□□□
その晩、読書をしていると廊下から土井先生が私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「詩織くん、起きてるかい?」
読書を中断して廊下に出る。
同じように寝間着姿の彼は、引き攣ったような笑みを浮かべていた。
「どうしたんです?」
穏やかにしてはいるも、昼間のことは忘れていないぞ。
どうせ、この人は私を女だと思っていない。
「小松田くんとじゃなくて、私とあんみつ屋に行かないか?」
「は?」
やばいやばい、なに「は」とか言ってんの!
じゃなくて、何で土井先生が顔赤くしてんの!
というか、そうじゃなくて!
すっかり今日、小松田さんとあんみつ屋に行くことを止められて、いい気はしていないのだ。
誘われたところで、つい、言い返したくなってしまう。
「なんで土井先生と行かなきゃなんないんですかあ」
「そ、それは……」
だから、なんで顔が赤いんだって!
「小松田さんとは普段の事務員としての労いで行くんです。事務員じゃない土井先生は関係ないと思いまーす」
「私は!……その、詩織くんが小松田くんと一緒にどこかに行くって言うのが嫌だから……」
「えー?聞こえない!なに?!なんですかあ?!大きな声ではっきり喋ってくださあい!」
耳に手を当てて、「はい~?」と尋ねている私。
やばい、いま超絶うざい子になっている。
恥ずかしさで死にそう。
なのに土井先生は凝固してるし、怒ってくれればいいのに、なんなのこの流れは!!
「あのー、土井先生?」
超絶うざい子を止めて、彼の様子を伺う。
顔を真っ赤にさせた先生は、子どもたちを叱る時と同じくらいの声量で叫んだ。
「そもそも!もとはと言えば私と行く約束だったじゃないか!」
「けど、あの約束だってきり丸くんが勝手につけちゃったことで、どうせ土井先生は私と行きたくないんでしょ?!」
「違うぞ!私は……!」
「もういいです!」
ピシャン、叫ぶなり私は襖を勢いよく閉めた。
なんなの、始めの約束だって間にきり丸くんが入って約束にこぎつけたようなもので、土井先生なんか「じゃあ行きますか」って感じで軽く流してたじゃない!
なんなのなんなのなんなのー!
□□□
翌朝になり、くノ一長屋の廊下を歩きながら、休日の今日をどう過ごそうか考え倦ねていた。
もーこうなったら、くノ一の子たちをあんみつに誘おう!
ユキちゃんやトモミちゃんの部屋への曲り道を曲がると、部屋の前でトモミちゃんときり丸くんが話しているのが見えた。
何やら話事をしているらしく、つい私は壁に隠れてしまった。
なに?なに?まさかアオハルですか?そうなの?きゃあああ!
「でさ、土井先生めっちゃへこんでんの」
「えー、そんなに? あの土井先生が?」
「そう。土井先生も好きな子の前じゃ表情も気持ちも読み取れなくて心理術も使えなくて自分で自分を追い詰めるっていう負のスパイラルに陥ってる」
「えー、土井先生ってもっとスマートな人だと思ってた」
「俺も。ため息ばかりしてるし」
「でも相手の方は?」
「あー、俺的には両想いだと思うんだよ?」
「私もそう思うな。土井先生の前だと笑顔がかわいいし」
「確かに。あーでもほんと早くどうにかなってくれ」
そんな会話が聞こえてきて、鼓動がけたたましく響く。
え、ちょちょちょ待って!
土井先生って好きな子いたんだ……でも……やっぱり……そうだよね。
どうせ、私なんか眼中にないよね……。
っていうか、誰なのよ相手は!
あの土井先生が夢中になるような可愛い子って!!
「俺がせっかく2人であんみつ屋に行く約束取り付けたのに、小松田さんのミスの穴埋めで行けなくなっちゃったし」
「かわいそうね、土井先生も。詩織さんも」
「えっ?!!!!」
は?詩織?誰それ!
忍術学園い私のほかに小春って子がいた?
気付いたら大声を発していた。
振り返った二人が私に気付く。
「あ、詩織さん! 聞いてました?」
「うん、ばっちし!で?誰?その詩織って子は?」
まったく、私以外にとんだ幸せ者がいたもんだ!
で?どこのだれなのよ!
「「・・・・・・」」
二人の指が、こちらを指差していることに気付いた私は、そっと後ろを振り向く。
が、誰も居ない。
「だれもいないけど?」
「「詩織さんだよ!!!!」」
「え!? わたし!?」
私の中で冷や汗が流れる。どういうことなの、この状況。彼らが言ってる「詩織さん」って、私のことなの?
「まさか、私が……土井先生の好きな相手なの?」
トモミちゃんときり丸くんはお互いに顔を見合わせ、落胆した表情を浮かべる。
「なんで今の会話で分かんないんすかぁ」
「あーもう、土井先生かわいそう~」
え、ま、まって……ほんとうに……わたし?
いや、でも、とさっきまでの威勢は消え失せ現実を直視できない私がいた。
浮き足経つような心地で、心ここにあらずみたいな。
あーもう枯れ葉の山にジャンプしたい気持ちだ~~!!
そこへ、庭から私を悩ましている張本人の土井先生が姿を現した。
忍者装束でなく私服姿の彼は、昨日と同じようにどこか顔が赤い。
私を見やると「やっと見つけた」と小声で呟く声が風に乗って聞こえてきた。
急に心臓がバクバクと打ち付け、頬が熱い。
どうした、わたし。
「あの……詩織さん、私とあんみつ屋へ……行きませんか?」
「ひゃ! は……は、はぃ……」
自分でも驚くほど、蚊の鳴くような声で返事をしたのだった。
おわり(ウン十年前の自分の文章を直すメンタルにやられました……)
「詩織くん、どうしたんだい?」
私は団子屋で仲良くなった学園長の勧めで
ここ忍術学園で事務員をしている。
廊下ですれ違った彼に声をかけた。
先生は立ち止まり、こちらに振り向く。
「先生と今度の休みに甘味処に行くって約束してたじゃないですか?」
「ああ、そうだね」
歳も近いことがあってか、土井と私が親しくなるのに時間はかからなかった。仲は良いと思うけど、練り物は食べてあげないのは、大人なら好き嫌いしないで食べろという私の老婆心だ。
「実は、小松田さんがミスしてしまって……行けなくなっちゃったんですよねぇ」
てへぺろ!と舌を出して謝る。
振り返ったままの彼の表情は真顔のまま固まっている。
一体どうしたのだろう。
「土井先生?」
ちょっと、土井先生。
表情がわかりづらいですよ。なんかリアクションとってくださいよ。
「では、私は事務室に戻りますからね」
無表情で固まったままの先生を残し、踵を返して事務室へと向かった。
ふー、小松田さんと残業かぁ……がんばるしかないなぁあ。
……休み、楽しみにしてたのになぁ。
土井先生もなにも返事しないし。
どーせ、私はそんくらいの人ってことでしょ、きっと。
いーもん、仕事が片付いたら小松田さんにいーっぱい奢ってもらうんだから!
**
数日が過ぎ、やっと仕事が片付いた夕方。
「やっと終わったね、詩織ちゃん」
「そうですね。ね、小松田さん」
「ん?なに?」
「今からあんみつでも奢ってくださいよ」
「あ、そうだね。今からだと日が暮れちゃうよ」
「あー。けど今がいいんです!いつ食べるの?今でしょ!?」
「はは、詩織ちゃんてほんと流行りが好きなんだから」
「へへ」
やったーー、あんみつ食べれる♪なんてことを思いながら、ニコニコ笑顔の私をよそに彼は現れた。
「おや? これからどこかに行くのかい?」
「あ、土井先生。これから詩織さんとあんみつ屋に行くんです」
「これから? もう暗くなるぞ?」
さきほどの小松田さんと同様のことを土井先生は言う。
「土井先生、今食べないでいつ食べるんですか?」
そして小松田さんは私が言ったことと同じことを言う。
「なんだ『今でしょ』とでも言いたいんだろうが……もうじき暗くなる。夜道は曲者が多い。残念だが明日にしなさい」
「「えーー」」
さすがに教師には逆らえないのが事務員で、小松田さんと涙を分け合ったのだった。
□□□
その晩、読書をしていると廊下から土井先生が私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「詩織くん、起きてるかい?」
読書を中断して廊下に出る。
同じように寝間着姿の彼は、引き攣ったような笑みを浮かべていた。
「どうしたんです?」
穏やかにしてはいるも、昼間のことは忘れていないぞ。
どうせ、この人は私を女だと思っていない。
「小松田くんとじゃなくて、私とあんみつ屋に行かないか?」
「は?」
やばいやばい、なに「は」とか言ってんの!
じゃなくて、何で土井先生が顔赤くしてんの!
というか、そうじゃなくて!
すっかり今日、小松田さんとあんみつ屋に行くことを止められて、いい気はしていないのだ。
誘われたところで、つい、言い返したくなってしまう。
「なんで土井先生と行かなきゃなんないんですかあ」
「そ、それは……」
だから、なんで顔が赤いんだって!
「小松田さんとは普段の事務員としての労いで行くんです。事務員じゃない土井先生は関係ないと思いまーす」
「私は!……その、詩織くんが小松田くんと一緒にどこかに行くって言うのが嫌だから……」
「えー?聞こえない!なに?!なんですかあ?!大きな声ではっきり喋ってくださあい!」
耳に手を当てて、「はい~?」と尋ねている私。
やばい、いま超絶うざい子になっている。
恥ずかしさで死にそう。
なのに土井先生は凝固してるし、怒ってくれればいいのに、なんなのこの流れは!!
「あのー、土井先生?」
超絶うざい子を止めて、彼の様子を伺う。
顔を真っ赤にさせた先生は、子どもたちを叱る時と同じくらいの声量で叫んだ。
「そもそも!もとはと言えば私と行く約束だったじゃないか!」
「けど、あの約束だってきり丸くんが勝手につけちゃったことで、どうせ土井先生は私と行きたくないんでしょ?!」
「違うぞ!私は……!」
「もういいです!」
ピシャン、叫ぶなり私は襖を勢いよく閉めた。
なんなの、始めの約束だって間にきり丸くんが入って約束にこぎつけたようなもので、土井先生なんか「じゃあ行きますか」って感じで軽く流してたじゃない!
なんなのなんなのなんなのー!
□□□
翌朝になり、くノ一長屋の廊下を歩きながら、休日の今日をどう過ごそうか考え倦ねていた。
もーこうなったら、くノ一の子たちをあんみつに誘おう!
ユキちゃんやトモミちゃんの部屋への曲り道を曲がると、部屋の前でトモミちゃんときり丸くんが話しているのが見えた。
何やら話事をしているらしく、つい私は壁に隠れてしまった。
なに?なに?まさかアオハルですか?そうなの?きゃあああ!
「でさ、土井先生めっちゃへこんでんの」
「えー、そんなに? あの土井先生が?」
「そう。土井先生も好きな子の前じゃ表情も気持ちも読み取れなくて心理術も使えなくて自分で自分を追い詰めるっていう負のスパイラルに陥ってる」
「えー、土井先生ってもっとスマートな人だと思ってた」
「俺も。ため息ばかりしてるし」
「でも相手の方は?」
「あー、俺的には両想いだと思うんだよ?」
「私もそう思うな。土井先生の前だと笑顔がかわいいし」
「確かに。あーでもほんと早くどうにかなってくれ」
そんな会話が聞こえてきて、鼓動がけたたましく響く。
え、ちょちょちょ待って!
土井先生って好きな子いたんだ……でも……やっぱり……そうだよね。
どうせ、私なんか眼中にないよね……。
っていうか、誰なのよ相手は!
あの土井先生が夢中になるような可愛い子って!!
「俺がせっかく2人であんみつ屋に行く約束取り付けたのに、小松田さんのミスの穴埋めで行けなくなっちゃったし」
「かわいそうね、土井先生も。詩織さんも」
「えっ?!!!!」
は?詩織?誰それ!
忍術学園い私のほかに小春って子がいた?
気付いたら大声を発していた。
振り返った二人が私に気付く。
「あ、詩織さん! 聞いてました?」
「うん、ばっちし!で?誰?その詩織って子は?」
まったく、私以外にとんだ幸せ者がいたもんだ!
で?どこのだれなのよ!
「「・・・・・・」」
二人の指が、こちらを指差していることに気付いた私は、そっと後ろを振り向く。
が、誰も居ない。
「だれもいないけど?」
「「詩織さんだよ!!!!」」
「え!? わたし!?」
私の中で冷や汗が流れる。どういうことなの、この状況。彼らが言ってる「詩織さん」って、私のことなの?
「まさか、私が……土井先生の好きな相手なの?」
トモミちゃんときり丸くんはお互いに顔を見合わせ、落胆した表情を浮かべる。
「なんで今の会話で分かんないんすかぁ」
「あーもう、土井先生かわいそう~」
え、ま、まって……ほんとうに……わたし?
いや、でも、とさっきまでの威勢は消え失せ現実を直視できない私がいた。
浮き足経つような心地で、心ここにあらずみたいな。
あーもう枯れ葉の山にジャンプしたい気持ちだ~~!!
そこへ、庭から私を悩ましている張本人の土井先生が姿を現した。
忍者装束でなく私服姿の彼は、昨日と同じようにどこか顔が赤い。
私を見やると「やっと見つけた」と小声で呟く声が風に乗って聞こえてきた。
急に心臓がバクバクと打ち付け、頬が熱い。
どうした、わたし。
「あの……詩織さん、私とあんみつ屋へ……行きませんか?」
「ひゃ! は……は、はぃ……」
自分でも驚くほど、蚊の鳴くような声で返事をしたのだった。
おわり(ウン十年前の自分の文章を直すメンタルにやられました……)
