日々の僕たち


「おそ〜い!」
 待ち合わせ場所に現れたカレシに向かって一言。

 「ハーハー、ワルイ!色々とあってさ」
 カレシは息を整えながらスマホを見る
 「なんだよー、まだ5分あるじゃん」

 「ふふふっ、あなたが走って来るから」
 そう、走って来るカレシの姿は滑稽でね
 それを見ていたら思わずイタズラしたくなったの
 ゴメンなさい。

 「なんだよ〜遅れ無いように走って来たんだぜ」
 カレシは頬を一回膨らますと、スマホをポケットに押し込んだ。

 「ゴメンネ」
 ワタシはウインクしながらカレシの手を取る。

 「チョット待って、もう少し休ませて」
 カレシは両手を膝に付き、うつむきながら肩で息をしている。

 ワタシはナップサックから水筒を取り出してカップにお茶を注ぐ
 「ドコから走って来たの?」
 
 たずねるワタシに顔を合わせたカレシの口元にカップを寄せると、口を開けた。

 カップを口に付けて、ユックリと飲ませる。

 「ゴク、ゴク、ゴク、プハーッもう一杯!」

 とくとくとく····
 
 空になったカップに再びお茶を注ぐ。

 カレシを見ると上半身を起こして両手を腰に当てている。

 「はい、どうぞ」
 カップを差し出すと
 右手で受け取り、お茶をイッキに飲み干した。

 「いやー、助かったよ」
 カレシからカップを返してもらうと、水筒の栓を閉めてカップを被せる。

 「で、ドコから走って来たのかな」
 身だしなみを整えるカレシに再びたずねる。

 「ん〜、駅からだよ」
 待ち合わせ場所から、それほど遠くない
 なんで走って来たのだろう?

 「訳わかんねーけどさ」
 ふむふむ。

 「電車が途中で止まっちまって」
 線路内の安全確認かな。

 「10分遅れで駅に着いたんだよ」
 うーん、ギリギリ····かな?

 「だったらスマホで連絡をすれば良かったのに」
 この辺りの道は車が多いから走るのは危ないよ。

 「そんな言い訳みたいなマネ出来ねーだろ」
 カレシはピシャリと言った。

 ワタシの身体の芯をシビレる様な感覚が走った。


 少し前のワタシは男の子が怖かった
 野蛮な態度、荒っぽい言葉遣い
 他にも挙げれば切りが無い。

 だからね
 男の子を好きに成るなんて一生無いと思ってた。

 でも
 1年半前にカレがコクハクをして
 ワタシは断る事も出来たのだけど
 『そんなコトをしたら酷い目に遭う』
 そう思ってコクハクを受けたの
 カレは喜んでいたけど
 ワタシは悲しかった。

 その日の晩
 交換したばかりのカレのSNSアドレスにお別れのメッセージを打ち込むか
 スマホを前にして迷っていたら、カレからお休みなさいのメッセージが届いてね
 思わず、お休みなさいと返したら
 『ありがとう』って。

 その返信を読んでワタシは思ったの
 今まで誤った路を歩んで来たのではないかと。

 翌朝はカレのためにお弁当を作った
 ワタシの料理の腕前は自分で言うのも何ですけど、ナカナカの物
 でも誰かのためにお弁当作りなんて初めて。

 焦っていると、後から起きて来た母が一言
 『オトコ?オンナ?』
 
 オトコと答えると
 肘でワタシを小突いて、簡単なアドバイスをしてくれた。

 そして出来上がったお弁当。

 早めに家を出て学校へ
 カレの教室をチラ見すると生徒も少なく、何よりもカレがいます!
 ワタシはサササッとカレに近寄ると
 「良かったら食べて」
 そう言って机の上に弁当箱を置いて立ち去ろうとすると、急に手を掴まれてフリーズするワタシにカレが一言。

 「いただきます!」

 全身が熱くなり解凍されたワタシがカレを見ると満面の笑顔
 「あ、ありがとうございます」
 思わず頭を下げてカレの教室を出て。

 出て。

 どうやって自分の教室に戻ったのか
 覚えが無い。

 キャー、あの頃は初々しかったなぁ。

 では、今は?

 キャー、聞かないでぇ。

 「····」

 「····ーい」

 「おーい、どうしたー」
 カレシの呼び声で現実に戻される。

 「なにをボーっとしてるんだ」
 
 「そ、そのうち教えてあげるわ」

 「ところで今日はどうする」

 「とりあえず歩きましょう」
 ワタシはカレシの手を取って歩き出す。

 「ドコへ行くんだよ」

 「風の吹くまま気の向くままってね」
 そう、今日と言う時は始まったばかりなのだ。
 
 

終 
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