日々の僕たち

 朝のホームルームが始まる 二十分前
 そろそろ 教室が賑やかになってくる時間です。

 私は自分の席で読書中
 ピッと背筋を伸ばしてね。

 でも、これから打ち明けるのはココだけの話しですよ?

 実は読んでいる内容なんて頭に入ってきません
 私の頭は憧れている彼のコトでいっぱいです。

 今日は少し遅れているけど
 寝坊でもしたのでしょうか
 それとも
 途中で何かあったのかな
 まさか 交通事故にでも遭って。

 そんな事はないか。

 彼はバス通学です
 でも、そのバスが事故を起こして。

 どうして悪い方に事を考えてしまうのかな。

 それも、彼の登校がいつもより遅れているから
 本当にどうしたんだろう。

 そう言えば。

 以前、隣のクラスの女子が彼のコトを好きだと言う話を聞いた覚えがある
 もしかして今朝はどこかで逢っていて、それで遅れているのかな。

 まさか、ねぇ?

 仮に、仮にですよ? 逢っているとしても
 忙しい朝に逢わなくったって
 学校に来ればいつでも逢えるのに。

 あれ、オカシイな
 いつのまにか彼が誰かと付き合っているコトが前提になっていますね
 でも、彼も健全な男の子
 人を好きになるコトもあるでしょう。

 「私だったらいいのにな」

 小さく呟く。

 もはや小説をめくる手も止まり、開かれたページに 目を落とすだけ。
 
 辛い。

 でも全て彼への思いを伝えられない 自分のせいだ。

 でも待って。

 本当に心から彼のコトを好きなのかな
 正直わからない。

 だったら彼に思いを寄せるだけの方がいいのかも。

 多分ね。

 止まっていた 手を動かし 新しいページをめくる。

 その時 クラスメイトが慌てた様子で教室へ入ってきた。

 そして。

 「アイツ死んだってよ!」大声で彼の訃報を伝える。

 「マジかよ」

 「嫌だーホントに?」

 騒がしかった 教室が一瞬で 静まり返る。

 「昨日の夜 ランニングしてる時に車に跳ねられたって」

 「先生からも話があるけどさ」

 「心の準備をしておいた方がいいだろう?」
 彼の訃報を伝えたクラスメイトは涙を流している
 無理もない
 彼の親友だったからね。

 「ふう」
 私は小さく ため息をつくと
 小説を閉じた。

 教室の窓越しに 青空を見上げる
 これからは、いつでも彼に会えるのかな。

 多分それは無理だね
 私と彼はただのクラスメイト
 彼から見れば 私は名前も知らない女子の一人だから。

 
 
終 
64/127ページ
スキ