日々の僕たち

 アイツとはもう絶縁だ。

 話すことは他人の悪愚痴ばかり
 さらに自分の境遇を嘆き
 少しでも口を挟もうモノならば
 「誰もオレのことを分かってくれない!」
 などと騒ぎ立てる。

 袖触れ合うも多少の縁
 その例えが正しいのならば
 俺はアイツの善き理解者になりたかった。

 しかし。

 実際には 俺はアイツの不満のハケ口
 アイツが俺に望んだのは
 自分の言うことを聞く イエスマン。

 友人などと言う上等な者じゃなかった。

 
 覚悟を決めた その翌日
 登校して教室へ入る。

 アイツがいたが 目を合わせないようにして自分の席に着いた。

 鞄から教科書、ノートを取り出し授業の準備をしていると
 人の気配がする。

 アイツだ。

 空いていた 向かいの席に座ると
 焼けた声で何やら話始める
 俺が無視を決め込んでいるからか、何を喋っているのか判らない。

 アイツはただマシンガンのように言葉を放つ
 やかましい事この上ない
 なんでアイツは こんなに声が大きいんだろう。

 俺が無視をしていると判ったのか
 声は さらに大きくなり
 語気も荒くなる。

 もういい加減にしてほしい。

 でもここで俺が一言返したらアイツの思う壺だ
 ひたすら我慢。

 その時、朝のホームルームのチャイムが鳴った
 同時に 俺の頬にアイツの平手打ち が飛んできて
 「バチーン」盛大な音を立てて 俺の顔面にヒット
 左の鼻の穴から 生暖かいものが流れ落ちる
 「バカヤローふざけるな!」
 一言 残してアイツは席を立ち、去っていった。

 クラス委員長が慌てて俺に駆け寄る
 「大丈夫か、何があったんだ?」

 何があったって?  白々しい、聞こえていただろう
 「何でもありませんよ」
 鼻の穴にポケットティッシュを突っ込みながら 答えた。

 「保健委員、彼を保健室へ!」
 しかし返事がない。

 少し経ってから
 「今日は休みでーす」
 どこからともなく返事が聞こえた。

 「ああっ、そうだった! あいつ 肝心な時に」
 委員長が うろたえている そんなに大ごとなのか?
 
 確かに 鼻だけじゃなくて、口の中も 切れている
 生臭い味が口いっぱいに広がって、気分が悪くなってくる。

 俺はティッシュを口に当てながら
 「保健室なら一人でも行けますよ」
 立ち上がろうとしたが、ふらついて上手くいかない。

 「無理するな、お前 顔が腫れ上がってるぞ」委員長に支えられて再び 席に着く。

 アイツめ、こっ酷く ヤッテくれたな
 何やら大声で言い訳をしているが 見苦しい。

 「俺は悪くないぞ! あいつの 自業自得だ」
 「何を見てんだよ、俺を見るな!」
 
 ハハッ、誰もオマエのことなんか見てないよ
 後ろめたいことが有るから、そう思うんだろ?
 自意識過剰も、はなはだしいな。

 そういう 俺の意識は、何か徐々に遠のいていくぞ?

 「委員長、俺が診ているから 保健の先生を呼んできてくれ」
 担任の先生の声だ、いつの間に来たんだろう····
 
 「俺のせいにするなよ、関係ないだろ!」
 アイツの 大声が聞こえる。

 うるさいヤツだ。



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