日々の僕たち

 授業終了のチャイムが鳴る。

 「よ〜し、今日はここまでだ」
 「家に帰ったら、ちゃんと今日の復習しておけよ」
 教師がチラリとクラス委員長の方を見る。

 委員長が「起立!」と、声を張る。

 ガタガタと椅子の音が鳴り全員起立
 教室が静まり返る 頃合いを見計らって
 「礼!」委員長に続いて生徒が
 「ありがとうございました!」

 それを聞いた教師は
 「よーし」
 と言いながら持ってきた資料を教卓の上でトントンと 整えて
 教室から出て行った。

 生徒がワッと湧き上がる。

 「放課後どうするよ?」
 「バッカ!まだ一教科 残ってるよ」

 「今日は宿題 出なかったじゃん、どうしたんだろうね」
 「そんなに勉強したいの?」
 
 「ツア〜ァ!相変わらず、かったるい授業だな」
 「なんか余裕かましてんだけどさ、成績の方大丈夫なのか?」

 ザワザワとした教室内。

 僕は 次の授業の支度をしながら聞き耳を立てる。

 中学生の時の授業は大半がリモートだった
 それでも同じ地域の生徒たちだったから、授業の合間に SNS で盛り上がったりしてたけど。

 高校に上がると状況は一変。

 地元から少し離れた進学校へ入学したんだけど、中学の時の仲間はほとんど 地元の公立へ入学。

 僕は初日の SNS アドレス交換から つまづいて、その後も クラスに馴染めない。

 ひとりぼっちになってしまった。

 正しくは一人だけ 親しい相手がいるんだけど、ちょっとね。

 チョンチョン!
 後ろの生徒に背中を指で突かれる。

 そして僕の背中に指で何やら文字を書いている
 「ゴメン、なんて書いてあるのか判らない」僕は小さな声で答えた。

 「ふふふっ」
 相手は止めずに文字を書き続ける。

 「本当に判らないんだ」
 僕がそう言うと、相手の右手が僕の方に差し出された
 手紙を持っている。

 僕はその手紙を受け取ると、静かに開いた。

 いい加減覚えてよ!
 放課後図書室で待ってる
 明日の授業の予習 ね
 終わったら 本屋へ 付き合って
 読みたい小説があるの。

 どんな小説だろう 興味があるけど、きっと教えてくれないだろうな。

 僕もついでに参考書を買おう。

 「判ったよ」
 僕がそう言うと背中を一回 突かれた
 彼女いわく OK の合図だ。

 機嫌を損ねるとグーパンチが飛んでくる。

 僕にだって 予定があるのに、彼女はお構いなしに 自分の要求を突きつけてくる。

 話し合えば判ってくれるけど
 なぜか僕が駅前の和菓子屋で、ういろうと抹茶を奢らなければならない。

 なんか 理不尽だけど、一人ぼっち よりはマシだね。

 実際、彼女といると楽しいし。

 でも彼女は僕のことをどう思っているんだろう?

 いつか 勇気を出して聞いてみよう。
 


終 
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