日々の僕たち

 朝のホームルームが終わり
 授業が始まるまで二十分ほど時間がある
 この時間は 授業を迎えるにあたって
 準備、確認のためにあるのだけれど
 放送部が学校からのお知らせ、その他 予定を放送する時間でもある。

 「ピンポンパンポーン」

 おっ、始まったようだ。

 「イエーイ! 皆んな、オハヨー!」
 「今日も元気に行ってみよーう!」

 「さて、まずは学校からのお知らせです」
 「今月は衛生月間です」
 「各自、昇降口に備え付けてあるアルコールを使って手を消毒してから校舎に入ってください」

 「次に」

 「来月の七夕祭りの話し合いが、放課後の四時 第二会議室で行われます」
 「係の生徒及び各クラス委員長は忘れずに出席してください」

 「学校からのお知らせは以上です」

 「最後に 陸上部からのお知らせです」
 「今月末に他校との間で行われる競技会の話し合いが」
 「放課後、二年C組で行われます」
 「陸上部員は忘れずに参加してください」

 「各お知らせは以上になります」

 「最後にお便りの紹介です」

 「最近学校の周りでゴミが目立ちます」
 「タバコの吸殻、空き缶などなので」
 「本校の生徒が捨てた物ではないと判りますが」
 「清掃ボランティアの方々の手に余るゴミの量です」
 「自分はボランティアに協力していますが、まだまだ 人手が足りません」
 「我こそは! と思う生徒は、是非協力をお願いします」

 「う〜ん、確かに 最近 ゴミが目立つよね」
 「我こそは! と思う君、そう君のことだよ」
 「ボランティア活動に協力してください」

 「さて、今朝の放送はここまで」
 「またお昼に会いましょう。それじゃあバイバ〜イ!」

 ····朝から元気だな。

 まあ、陰気な放送というのも困るけどね。

 進学することを選んだ以上、学校へ通うのは当たり前だけどさ
 朝起きれば憂鬱な気分。

 多分、皆んな同じだと思うよ?

 そんな気分で登校して、毎朝聞くのが 陰気な 放送。

 嫌だなぁ〜

 そう考えれば、放送部のおかげで
 とりあえず前向きの元気がもらえる
 僕の通う学校は恵まれているのかもしれない。

 ちなみに今朝の DJ は 僕の妹。

 正確に言えば 僕のことを調べるために 魔界からやって来た
 見習いサキュバス。

 家に居付いて、ちゃっかり 妹 なんて言ってる。

 この事実を知るのは僕と、妹が所属する写真部の部長だけ
 他の皆んなは 妹の魔力で洗脳されて
 僕の妹だと言う事を疑いもしない。

 そろそろ一限目が始まる
 授業を受ける準備をしよう。

 

 以前は 居眠りばかりの僕だったけど
 今は真面目に授業を受けているので学力がグングン上がっていく
 そんな訳で少し退屈な授業だったけど 油断は禁物。

 家に帰ったら授業の復習だ。

 一限目が終わり、休み時間に
 教科書とノートを鞄にしまっていると、何やら人らしき者の気配が。

 顔を上げると妹がいた
 右手にデジカメを持っている。

 「てへへ〜」
 「お兄ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」
 
 僕はしれっと返す
 「嫌な予感しか、しないんだけど」

 「ぶー! 美術部からの依頼なんだよ」
 妹は腕を前で組んで頬を膨らます。

 美術部から? 
 「部長からは何も聞いてないけど」
 何かあったら 副部長の僕にも話が来てるはず。

 「部員さんからの個人的なお願いなんだよ」
 「誰でもいいから眠っている人の顔を撮ってきてって」
 「そういう訳で 早く 居眠りして」
 妹はニコニコしながらカメラを構える。

 そういえば 眠りをテーマに絵を描いている部員がいたっけ
 「それは無理だね、あれは僕の黒歴史だ」
 「他を当たってくれないか」
 僕は 毅然 と答える!

 しかし 妹には通用しない
 僕の方に顔を近づけてきて
 自分の唇に人差し指を当てる。

 「どうしようかなぁ〜」
 僕にしか聞こえないように囁く

 ····おでこか、頬にキスをして逃げるつもりだな
 過去のトラウマがよみがえる!

 しかたがない。

 「今回だけだからな?」
 
 「判ってるよ、お兄ちゃん」
 妹は、そう言うと微笑んだ。

 まさに魔性の微笑みだ!

 僕は机に突っ伏すと 顔を横に向けて 目を閉じた。

 「さすがお兄ちゃん、あ! もうちょっと口をだらしなく開けて」

 これは、なかなかに難しい注文だぞ
 とりあえず口を少し開けてみる。

 パシャ、パシャパシャパシャ!
 シャッター音が聞こえる。どうやらこれで良かったようだ

 「おっけー!」
 「お兄ちゃん、ありがとう」

 「どういたしまして」
 久しぶりだから少し緊張したぞ。

 僕が顔を上げると妹が頬にキスをした
 「ふふふっ」
 「また後でね〜」
 妹はそう言い残し、サササッと教室から出て行った。

 クラスメイトの視線が僕に集中する
 好奇心
 やっかみ
 怒り
 その他 様々な思いが絡み合い
 僕を貫いた。

 「ううっ、僕 何か悪いことしましたか?」
 
 
 
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