日々の僕たち

 「こんなことになるなんてなぁ」
 
 親友の親父さんが亡くなった
 二人揃って同じ大学へ行くつもりでいたけど、親友の方は経済的に難しいとのことだ
 奨学金をもらうことも考えたけど
 借金は作りたくないと、親友は言った
 いつまでも二人肩を並べて模型を作ることが出来ると思っていたのに。

 「仕方がないよ僕の見通しが甘かったんだ」
 そんな言い方するなよ
 神様じゃあるまいし、人生を思うがままに出来るやつなんていないよ。

 それよりも。

 「学校を辞めるって本当か?」
 恐る恐る聞いてみる。

 「うん」
 「お父さんが借金をしていて、僕も働いて返さないと」
 親友は弱々しく答えた。

 「借金と言ったって、親父さんの死亡保険金とかで返せないのか?」
 少々不謹慎だが聞いてみた。

 「借金の額が、百万とか二百万程度じゃないんだ」
 「それに借りていた相手が」
 親友は急に黙り込む。

 だいたい俺にも察しがつく
 「親父さんは何だってそんなに金が必要だったんだ?」
 そこなんだよ、一介のサラリーマンが何に金を使っていたのか。

 「お父さん浮気をしていて」
 「相手の女の人に貢いでいたんだって」親友はさらっと答える。

 「貢いでいたって?」
 「だったら相手の女にも借金を返させるとか」浅はかな考えだけど、これぐらいしか思いつかない。

 「それがお父さんが死んでから音信不通なんだ」
 
 音信不通か。これ以上は突っ込んだ話を聞かない方がいいのかも知れないが、俺は親友の力になりたい。

 「そういえば 働くと言っていたけど、何の仕事をするんだ?」
 親友は本屋でアルバイトをしているけど、さすがにバイト程度の時給じゃどうにもならない。

 「まだ決まってないよ」
 「お金を借りた 相手は漁船に乗れって言ってたけど」

 漁船か。よく聞く話だけど本当だったとは!
 まてよ、そういえば。

 俺はスマホを取り出し 電話をかけた
 「もしもし、店長をお願いします」 
 
 「店長ですか?違いますよ、予約じゃありません」

 「店員の募集 まだやってますか?」

 「違いますよ俺じゃありません」

 俺はスマホを親友に渡した
 「もしもし?」

 「なんだお前か、うちの店員になるのか?」

 「店員の募集してるんですか」

 「だからさっきから言ってるだろ? 忙しいんだ、すぐに決めてくれ」

 親友は俺の方を見た
 俺は黙って頷く。

 「判りました、よろしくお願いします」

 「だったら今すぐ店に来てくれ」
 「履歴書は用意してあるからな、身分を証明する物とハンコを持って来てくれ」

 「分かりました 急いで向かいます」
 プツッ電話が切れた
 親友は俺にスマホを返すと
 「どういうことなの?」

 「この間店に行った時な」
 「店員を募集していることを聞いたんだ」
 「高給優遇らしいぞ」
 
 「それ本当なの?」
 親友の疑問も判らないでもない
 何しろあの店長だからな
 でも漁船に乗るよりはマシだろう。

 「さっ、店長の気が変わらないうちに店に行こう」
 俺が親友を急かすと、一言。

 「ありがとう」

 「いいって、お前と離れるのは嫌だからな」
 「あの模型店ならいつでも会えるだろう」

 親友は珍しく涙ぐんでいる
 俺もなんだか熱くなってきた。

 
終 
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