日々の僕たち

 今日俺たちは隣の県へ遠征している
 富士山がある、
 まさに模型メーカーの総本山だ。

 空は真っ青! 空気もうまい
 まるで俺たちを祝福しているかのようだ、少し大げさかな?

 「おーい」
 ?
 「駅の真ん前で何感慨に耽ってるのさ」声の方を見ると親友がバス停で待っている
 「わるい、すぐに行くから!」
 俺は返事をすると、大きく新呼吸をして両方の手で頬を叩き「よっし!」と、気合を入れて親友の待つバス停に急いだ
ちょうどバスが着いたところだ。

 「行動は分刻みなんだからね? 余計な事はしない」親友の小言が耳に痛い
 しかし、ここまで来たら興奮するだろ普通! 「お前は何とも思わないのか? 俺たち静······」「ワーッ!」いきなり叫び声をあげる親友
 「いきなりなんだよ? とにかく静······」「だからダメだって!」何がダメなんだ、おかしなやつだなー
 親友が俺の耳元で囁く
 「僕たちが県外から来た旅行者だと知られたら」知られたら?
 「地元の不良に目をつけられて身包み剥がされちゃうよ」おいおい!
 「考えすぎだよ、周りを見てみろ皆んな俺達みたいな旅行者ばかりだ」
 そう、どう考えたってうなぎを食べて観光しようっていう人達だ
 むしろ軽装の俺達の方がこの地に馴染んでいる
 「考えすぎだって、気楽に行こうぜ!」親友の肩を軽く叩く
 「うーん、とりあえずバスに乗っちゃえば安全かなー」ちょうどバスが来たところだ
 「ほら、来たぞ」
 「早く乗ろう」親友はソワソワしながらバスに乗った。お前の方が挙動不審で目立ってるぞ?
 バスに乗って目指すは模型屋。

 「どんな店かなー」
 「今スマホで見てるけど、いつも行ってる模型屋と違ってかなり広いよ」
 おいおい!
 「そういうのは現地に着いてからのお楽しみにしようぜ!」
 「でも夕方には帰らなくちゃいけないから、今のうちに店内の把握をしておかないと」そんなに広いのか? どれどれ
 俺も自分のスマホで調べてみよう
 「なっ! なんだこの広さは? まるでホームセンターじゃないか!」
 さすが模型の本場だけはある、これは事前に買う物を決めておかないと迷子になるぞ
 「おい、もしお互い見失ったらどうする?」俺も少し不安になってきた
 「その時は中央レジの前へ」
 「OK 、わかった」
 
 そしてバスは目的地へ到着。

 その後10分ほど歩いてお目当ての場所にたどり着いた
 「帰りにうなぎ食べて帰るんだからなお金使いすぎるなよ」
 「大丈夫だよ僕だってこの日の為にバイトでお金を貯めたんだから」
 それでは
 「突撃!」
 「お邪魔しまーす」
 店内に入るとすぐに近くにいた男性店員が寄ってきた
 「いらっしゃいませ! お探しの物があればご案内いたしますよ」
 「すげー広いですね」
 「天井高い!」
 「初めてのお客様ですね? ごゆっくりどうぞ」どこまでも丁寧な店員だ
 「いや、初めてと言うかその」
 住所と名前を店員に伝えてみる
 「ああ!いつも通信販売をご利用いただいているお客様ですね」
 「遠いところお越しいただきありがとうございます」いや、こちらこそいつもありがとうございます
 俺はぺこりと頭を下げた
 隣を見ると親友の姿が見当たらない
 「お連れ様なら店の奥に入って行かれましたよ」まぁ、あいつなら一人でも大丈夫だろう
 「今日は私がご案内させていただきます」店員は胸のネームプレートを強調して見せた
 「よろしくお願いします」再び頭を下げる俺
 「美プラの新商品が多数入荷しております、まずはそちらへまいりましょう」
 そうなのだ地元の模型店の店長は硬派なのか知らないが美プラを取り寄せてくれない。だから品揃え豊富なこの店で通販購入をしているという訳
 その事を店員に話すと
 「何かこだわりがあるのでしょう、でなければ長い間お店を続けられませんよ」こだわりか······まぁ、堅物で変わり者だけどね
 「こちらでございます」店員に案内された区画は丸ごと美プラコーナーとなっていた
 「なっ! これは見事な」
 「ハハハ、手前に並べてあるのが新商品となります」店員が商品解説を始めた
 
 ・・・・・・

 「と、言うわけで初版にあった問題点は全て改善されています」
 なるほど、でもそうなると
 「パーツの互換性はどうなりますか?」
 「問題ありませんよ、初版に比べて互換性は拡張されています」
 「ここだけの話ですが他社のパーツも流用できますよ」
 「迷う必要はないな」
 「これとそれ後あちらにあるのもお願いします」おっと、忘れるところだった
 「塗料はどこでしょうか?」
 店員は側にあったカートに商品を載せながら「こちらでございます」
 カートを押しながら俺を誘導した。

 それにしても広い店内だ、気を緩めると確実に迷子になるぞ
 塗料をカートに載せ店員と共に中央レジへ向かう。

 「変な事聞きますけど、この店で働いて何年くらいになるんでか?」
 「今年で五年目ですね」
 「俺も接客のバイトをしているんですけど今日の店員さんの接客を参考にして頑張ります!」
 「ハハハ、私なんてまだまだですよ、でも嬉しいですねそう言って貰えると」
 「おーい!」
 中央レジのそばで親友が俺に声をかけてきた
 「お連れ様は随分と買われたようですね」見ると両手にパンパンに膨らんだ大きな紙袋を持っている
 「あいつハメ外し過ぎだぞ? 帰りにうなぎ食べに行くのに」
 すると店員は俺の耳に近づき
 「安くて美味しいお店を紹介いたしますよ」そう言うと胸ポケットのメモ帳にサラサラと何か書き丁寧に切り取り俺に渡した
 そこには駅周辺のうなぎ屋が何点かピックアップしてあった
 「何から何までありがとうございます」俺が礼を言うと
 「これくらいお安い御用ですよ。これからも当店をごひいきに」
 そう言って頭を下げ、新しく入店してきたお客の案内に入った。

 目標がひとつできたな。

 レジで会計を済ませ店を出た
 「重いよー待ってよー」
 親友は両手に荷物ふらふらと歩いている
 「お前買いすぎだって!」
 「そんな事言ったって、あれだけ魅力的な商品がある物だから」
 いつもはひとつしか買わないくせに旅先で気が緩んだか。駅前で俺に説教してたのはどこのどいつだ?
 「今日の事は店長には内緒にしといてやるよ」
 親友も言い返してくる
 「そっちこそ!」
 仕方がない袋を一つ持ってやるか
 「ほら一つ持つよ」
 俺は手を差し伸べた
 「ありがとう! じゃあこれね」
 ズシッ! 何て重さだ、戦車ってやつはどうしてこんなに重いんだ?
 「次はうなぎだね、どこで食べるの?」
 「任せておけ」俺は店員からもらったメモをぴらぴらと親友に見せた
 「とにかく駅へ急ぐぞ」
 時間はお昼を少し回ったところ
 駅に着く頃には店は空いているだろうか? それ以前に帰りの電車の都合もある。

 「なあ、うなぎはテイクアウトでもいいか?」親友に聞いてみた
 「どこで食べるの?」
 「電車の中に決まってるだろ?」
 俺が答えると親友は納得したように
 「電車の中! 旅の醍醐味だね」
 「そういう事だ」
 「楽しみだね早くお店に行こう」
 早く着けばお店で食べるのだけど
 まぁ、いい。

 電車の中で食べる事とするか。


 
 
 



 
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