日々の僕たち

 「ただいまー」

 部活動を終えて家に着いたが、いつもは返ってくる母の返事がない
 買い物にでも行っているのだろうか?
 とりあえずシャワーを浴びてさっぱりしたい
 脱衣所に行くと籠の中に着替えとタオルが入っていた
 やはり買い物にでも行ったのだろう。

 シャワーを浴びて自室へ行くと、鞄からお弁当箱を出してキッチンへ
 母がいないのならば自分で洗っておかないと、後で私が怒られるからね
 洗い物を片付けて自室へ戻る
 ベッドに横になると疲れがドッと出てきた
 このまま寝落ちしそうになる
 どうしようか? このまま眠ってしまっても夕ご飯になれば母が起こしてくれるだろう
 それでは遠慮なく一休み、一休み。

 夢を見た。記憶にも残らないような、たわいもない夢。

 目を覚ますと部屋は真っ暗
 外も真っ暗
 「今何時〜」
 スマホを見ると20時17分
 すっかり寝過ごした! もう父も帰ってきているだろうし、何よりも夕ご飯が終わっている
 「なんでお母さん起こしてくれなかったんだろう」
 慌てて自室を出るとすぐに異変に気がついた
 家の中が真っ暗だ。

 停電かな? 廊下のスイッチを入れてみる
 明かりがついた停電じゃない、では何で家の中が真っ暗なんだろう?
 疑問はとりあえず置いておき明りを点けながらキッチンへ向かう
 その間、人の気配が全くしない
 父も母も帰って来ていないという事かな。

 キッチンに着いたけど、ここも真っ暗だ。明かりをつけると夕方のまま
 母が帰ってきた様子はない
 当然父もいない
 私の夕ご飯はどうなるんだろう?
 冷蔵庫を開けたら何も入っていなかった
 困ったぞ〜
 とりあえず何か食べる物を探さないと
 キッチンを漁ると即席ラーメンがあった
 ラーメンねぇ〜
 何もないよりかはマシかも
 早速作って美味しく頂いた。

 そして、
 しばらくキッチンにいたけど誰も帰ってこない
 ここにいても仕方がないので居間でテレビでも見ていよう。

 今の扉を開けるとやはり真っ暗
 明かりを点けるとテーブルに茶封筒が置いてある
 なんだろう? 気になるけど見てもいいのかな〜
 こっそりと封筒の中を覗くと二つ折りの紙とお金が入っていた
 そっと紙を取り出す
 開いてみると「ごめんなさい」と一言書いてあった
 誰から? 誰に対して?
 お金の方は紙幣で3万円
 一体どういう事だろう……

 しばらく考えていると、電話が鳴った
 家の電話が鳴るなんて珍しい
 相手は誰だろう
 出た方がいいのかな
 もしかしたら母か父からかもしれない
 電話は鳴り続けている
 意を決して受話器を上げた
 耳に当てるとすぐに男の怒声が飛び込んでくる「いつまで待たせるんだよ!」
 この人誰だ?
 「何すっとぼけてんだよ、おい!」
 慌てて返事をする
 「どうもすいません、どちら様でしょうか?」
 しばしの沈黙
 「お前誰だよ」
 相手がさっきよりは穏やかな感じで話した
 「この家の娘ですけど」
 すると
 「お前が穀潰しのガキか」
 少しカチンときた
 「あの、どちら様でしょうか? 答えないと電話切りますよ」
 すると相手は
 「父ちゃんと母ちゃんはいないのか? いないんだろう、おい」
 父と母の居場所を知っているのかな
 「父と母を知っているのですか?」
 受話器の向こうから笑い声が聞こえた
 「お前捨てられたんだよ!」
 捨てられた? 誰に?
 「あの……」
 この男は何の事を話しているんだろう
 「お前の両親はさ、借金作って払えなくなったから逃げ出したんだよ」
 借金? 何の? 声が少し震えてくる
 「どういう事でしょうか?」
 男は面倒くさそうに答えた
 「だから、お前が学校に通う金をウチの会社から借りてたんだよ」
 男は続ける
 「お前、私立に通ってるんだって?」
 「入学金から毎月の学費まで、いくらぐらいかかるか見当がつかないのかよ」
 父と母はお金の心配はしなくていいと言っていた
 こういう事だったのか
 「あの、これからどうすれば」
 私が聞くと男は呆れたように
 「おいおい、金のないガキなんか相手にしてらんねえよ! 自分で何とかするんだな」
 ガチャ、ツーツー
 電話が切れた
 私も受話器を置いた。

 「何とかしろって言っても、どうすればいいんだろう?」
 
 とりあえずクラスの担任の先生に電話をかけて今までの事を全て話してみた
 担任の答えは、明日から部活に参加しなくても良い。新学期に入ったら話し合いの機会を設けるから、それまで登校は控えてくれ。

 要するに学校にはもう来ないでくれという事らしい。

 親戚のおばさんに電話をかけてみたけど何度かけても繋がらない
 田舎の祖父と祖母にも電話をかけたが同じ。

 お金の切れ目が縁の切れ目か……




 


 
 
 


 
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