日々の僕たち

「あれ?お父さん、もう帰ってきたの?」

 玄関で物音がしたので、行って見ると
 夕方に高校時代のクラス会へ出掛けた
 父が靴べらで革靴を脱いでいた

 コロン!

 片方の革靴が転がり落ちる
 「おっと!」
 
 父はバランスを少し崩すが酔ってはいない
 直ぐに体勢を整えて左足で廊下を踏み締めた

 そして
 廊下の端に腰を降ろし、右の革靴を脱ぐ
 
 靴箱からブラシを取り出し
 革靴にかけながら
 「ま、色々とあってね」と1言

 「喧嘩でもしたの?」
 不安になって俺は聞いてみた
 
 すると
 「お前も、つまらない男には成るなよ」
 革靴とブラシをしまいながら言った

 つまらない男?
 そんな事を急に言われても、俺には詳しい事情が判らない

 どういう意味だろう、暫し考える

 時を同じくして、居間の引き戸が開いた
 母が顔を覗かせて
 「あら、随分と早かったのね」

 父は母の顔を見て
 「ま、色々とあってね」さっきと同じ

 「ところで夕ご飯は食べてきたの?」
 母の問い掛けに

 「少しな」
 父が応える

 「困ったわね、呑んでくると思って軽い物しか用意してないわよ」
 母は台所へ向かう

 父はその背中に
 「かまわないよ、温めてくれ」
 そう言いながら仕事部屋に入った

 「判ったわ、あら?お父さんはどこ?」
 母は俺の顔を見る

 「仕事部屋に入って行ったよ」
 俺が指差すと

 「先にシャワーを浴びて下さいな!」
 部屋の前で呼び掛ける

 中からは
 「判った!」
 父の返事が聞こえた

 母はその足で俺のところへ来ると
 声を潜めて
 「何があったのかしら」

 そんな事聞かれても、俺はなにも知らない
 
 そう言えば
 「お前も、つまらない男には成るなよ」

 母は首をかしげる
 「どう言う事?」

 俺に聞かれても判らないよ〜
 
 とりあえず
 「お父さんがそう言ってた」

 「うーん・・・・」
 母は頭を巡らしている様だが
 「まぁ、いいわ。料理を温めないと」
 そう言うと台所へ入った

 つまらない男か・・・・
 どんな男だろう?

 俺には1つの謎が残った。





132/135ページ
スキ