日々の僕たち

 こんな俺にも彼女がいる。

 容姿端麗で勉強もそこそこできる
 俺なんかには、もったいない彼女だ。

 一方的に惚れられて
 最初は正直ウザかったが、デートを何度か繰り返し
 彼女の内面を知るにつれて
 グイグイと惹き寄せられていった。

 初めて彼女と手を繋いだのは今年の春
 何の気なしに繋いだのだが、彼女の手は少し震えていた。

 少し軽率だったかな。

 しかし何度か手を繋いでいるうちに
 今度は彼女の方から腕を組んで来た
 それには俺の方がビビったが、悟られないようにすぐにグイッと引き寄せた。

・・・

 どうやら彼女は気付いていたようだ
 その日のデートの帰り際に一言
 「無理をしなくてもいいんだよ?」

 そんなこんなで互いに絆を深め合い
 今に至るというわけだが!
 最近彼女の様子がおかしいのだ
 俺が察するに次の段階、
 要するにキスを待っているのではないか? と思う。

 もしそうだとしたら? あまり焦らすのも悪い。

 次のデートで、いい雰囲気になったらキスしてみるか。

 しかし!

 俺には経験がない
 そしておそらく彼女も

 そもそもどうやってキスをするんだ?
 彼女の肩にそっと手を置き、そのまま抱き寄せて?
 だめだ! 俺はそんな高度なテクニックを持ち合わせてはいない!

 せめて練習でもできれば。

 待てよ?
 居るじゃないか、
 俺の隣の部屋に、
 兄思いの妹が!

 しかし、このタイミングだと例によって
 いや、そんな事を気にしている場合ではない!

 時は一刻を争う! 何しろ明日は彼女とのデートだからな!

 俺は部屋を出ると妹の部屋へ向かった。

 それでは遠慮なく。

 コンコン!
 「入るぞ〜」ガチャ!
 「わわわ!」慌てる妹
 「やはり着替え中か」
 「判ってるなら出てって〜!」

 すぅ~っ、一呼吸おく。

 「なに? お兄ちゃん」
 「話がある」
 「着替えが終わったら聞くから出てって!」
 「落ち着け妹よ、着替えながら聞けばイイだけの事だ」
 じっと妹の目を見る。

 「そ、それもそうね取り乱しちゃって恥ずかしい」ポッと頬を染める妹
 「それで話ってなあに?」

 「抱かせてくれ」

 「・・・お、お兄ちゃんなにを?」フリーズ。

 妹がフリーズしている間に捲し立てる

 「実は明日デートなのだが」
 「どうやらキスまで行きそうな感じなんだ」
 「しかし俺には当然経験がない!」
 「そこでお前の出番という訳だ」

 徐々に解凍する妹。

 「お兄ちゃん?」「受けてくれるか!」「私、失敗してもいいと思うの」「それでは俺の立場が」「そんなの関係ないよ」「だが!」「彼女さんだって、きっと始めてだよ」「だから俺がリードしてだな?」「そうじゃなくて、どうして判らないんだろう? ドキドキする瞬間を共有したいという気持ちが!」
 その妹の言葉に、凄まじい衝撃が全身を駆け抜ける

 「そうか、そうだったのか!」

 妹はブラジャーを身に着けながら言った
 「お兄ちゃん、彼女さんの気持ちを大切にしてあげてね?」

 「妹よゴメン、そんな事にも気づかなかったなんて」
 「俺は今まで彼女の何を見てきたというのだろうか?」

 「そこまで内省的になる事はないと思うけど」

 「妹よ」「なあに?」「今度どこかへ連れて行ってやろう! もっちろん俺のおごりだ!」「やった〜!」

 「それでは騒がせたな」
 部屋を出て行こうとする俺の背中に向かって妹が一言。

 「ガンバレ〜」

 フッ!言わずもがなだ!
 俺は振り向かずに手を振ると、妹の部屋の扉を閉めた。

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