日々の僕たち


 昨晩、彼女からメールが届いた
 『明日のお昼、私の家に来て!』
 返信はしなかった

 たぶん、たぶんだけど
 返信してもナゼ彼女の家に行くのか教えて貰えないと思ったから

 まぁ試験期間中ではあるけどね
 理由はソレでは無いだろうし

 だってさ

 二人で試験勉強なんて今までした事なかった
 それに貴重な試験期間の中休みに呼び出されたのは初めてだ、何かある····のかな?
 心構えだけはしておこう




 昼ご飯を食べ終わり、洗面所で歯を磨く
 母がやって来て
 「何処かへ出掛けるの?」
 歯磨き中なので左手を上げてサインを送る
 「帰りにネギと秋刀魚それと大根を買って来て」
 そう言って僕にお札を渡す
 左手でお札を受け取りポケットに突っ込む

 母は呆れた声で
 「ちゃんとお財布に入れなさい、無くしたらどうするの?」

 ちぇっ、うるさいなぁ
 歯ブラシを咥えて自由になった両手で財布を取り出してお札を入れる

 母はそれを見届けると
 「それじゃあね、頼んだわよ」
 そう言い残して戻って行った

 どうせ韓流ドラマでも観ているのだろ?
 暇だったら自分で買い物へ行けばいいのに

 いや、待てよ

 これは僕に『早く帰って来い』と言う暗に秘めたメッセージでは?
 それに秋刀魚の塩焼きは僕の大好物だ
 僕の家では秋刀魚は七輪と炭を使って焼く
 なかなかに本格的、あ〜考えただけで!

 くううう〜仕方がない、親に養われている間はガマンだ
 成人したら独立して····
 ダメだ、ひとりっ子の僕が独立しても両親の事が心配で家に戻るのは目に見えている!
 
 「シャカシャカシャカシャカ」
 「ガラガラガラ〜ペッ!」

 そうだ、結婚して独立と言うのはどうだろう
 相手は相手は〜彼女しかいないよなぁ
 それに両親が心配になる事には変わりない
 となると?彼女をこの家に招くのか
 彼女にはお兄さんがいるから家を出ても問題ないと思うけど····

 この線が濃厚かな?彼女の両親はどう思うだろう
 僕と娘が付き合っている事は知っているけど、結婚まで考えてくれてるかなぁ〜

 僕と彼女の関係は 行く所まで行っているけど、さすがにそれは知らないだろうし?
 もしかしたら知っていて、敢えて黙っているとか?こ、怖い!それは怖いぞ!

 あ、もうこんな時間か
 急いで彼女の家へ向かわないと!




 ところで今日は晴れているからTシャツを着て出たけど失敗だったかな、少し肌寒いぞ
 軽くランニングをしながら彼女の元へ行こう




 彼女の家が見えてきたぞ
 家の前に誰か立ってる

 「お〜そ〜い〜ぞ〜!」
 なんだ彼女か、待たせると何をされるか判らない!ラストスパートだ!

 「はっはっほっほっ、はっはっほっほっ」
 ハイ、到着!
 「待たせてゴメン!」
 彼女を見ると、腕を組んで不敵な笑みを浮かべている

 『一体何を企んでいるのやら』
 
 「でさ、今日はなに?」
 そう、彼女に呼び出されると六な目にあった事が無い
 今日はどんな目に遭うんだろう?




 「少しそこで待ってて」
 彼女はそう言い残し玄関の中へ入って行った

 「ドアを開けて!」
 中から彼女の声が聞こえる

 なんだろう?開けてと言われれば開けぬ訳には行くまい

 「よっと!」ドアを開けると中から彼女が自転車を押して出てきた
 玄関の前に自転車を停めてドヤ顔で一言
 「どうよ?」

 「どうよって最新型の電動アシストじゃないか!」これは20万以上するぞ、一体どこからそのお金を!

 お金の出所を聞いてみるか?もしかしたら聞かない方がいいのかも知れないけど····

 それよりも彼女だ相変わらずのミニスカート これは自転車に乗ると見えるぞ?
 「はい!」彼女が僕にヘルメットを投げる
 それを受け取り彼女の方を見ると、ヘルメットを装着して後ろの荷台にまたがっている

 今日は白か
 「見えてるよ」

 「今更何を」
 いや、そういう事じゃなくて!
 「僕はいいかも知れないけどさ、知らない人に見られたらどうするの?」

 「知らない人だったら関係ないじゃない?」

 うーん、そう言うものなのかな?まぁいいか 僕の下着が見られてる訳じゃないし

 ところで

 「僕がペダルを漕ぐのかな?」

 「当たり前でしょ?そのための電動アシストなんだから!」
 一応僕に気を使ってくれてるのかな?相変わらずの謎ワードだけど

 それじゃぁサドルに座るか
 「よいしょっと」
 さすが 高級品、素晴らしい座り心地だ!

 僕がハンドルに手をかけると彼女が後ろから抱きついてきた
 「ちょっと待って!そんなに近づくと転んじゃうよ」

 「ふふふっ、この日をどれだけ待ちわびた事か!」再び彼女の謎ワード

 「とにかく走り出そう、ところで目的地はどこ?」笑顔の彼女に聞いてみる、八重歯がカワイイ

 「とりあえず町内1周で!それじゃぁ楽しいサイクリングに出発!」

 「判った、よいしょっと!なんかペダルが重いけど」

 「アシストボタンを押した?」

 ボタン?これかな····ポチッと
 「なんか赤いランプが点滅してるけど」

 「はううぅ、バッテリーに充電しておくの忘れてた」

 「なんてこった!これからどうするの」

 「明日にしましょう!」
 彼女は軽いパニックで忘れているようだから 補足しておく

 「明日からまた試験が始まるよ、しかも3日間」

 「そうだった!はううぅ〜」
 彼女は頭を抱えている····気の毒だけど、こればかりはどうしようもないからね

 でもなぁ〜彼女がせっかくお膳立てをしてくれたんだ、少し頑張ってみるかな
 「僕が漕ぐよ」

 「えっ!」
 驚く彼女の声が僕の背中越しに聞こえた

 そして

 「くううう〜コノコノコノコノ」
 彼女がスマホで僕の背中を突きまくる

 「ちょっ!待っ!それマジで痛いから!」

 彼女は背中への打突を止めて
 「どうやら判ったようね、すぐに出発よ!」
 彼女は人差し指で前方を指さした
 つい釣られて見てしまったが特に何もない

 「それじゃあ行くよ、しっかり掴まっててね!」僕が声をかける

 「ふふふっ、こうやって男どもは女の手の内に堕ちていくのよ」彼女が応える

 堕ちた覚えは無いけれど····
 とにかく僕はペダルを思いっきり踏み込んだ

 「わっ!走ってる、走ってる!」
 彼女は嬉しそうだ、喜んでくれるのならば僕も嬉しい

 「もっとしっかり掴まってないと振り落とされちゃうよ!」

 「でも、この記念すべき瞬間をカメラに収めないと!」彼女はスマホで何枚か写真を撮ったようだ

 「自転車に乗りながらのスマホ操作は危ないよ?」スピードを少し緩めて彼女に注意する

 「判ったわよ、もう自転車でスマホは使わない」そう言って僕の身体に両腕を回してくる

 はあぁ〜なんかイイなー
 なにがイイって?それは、ヒ・ミ・ツ。
 

 


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