日々の僕たち

「あの娘なんてイイんじゃないか?」
 道端に置いてある 樽の上に腰掛けている邪鬼の少年がつぶやく。

 「ホー、ナカナカのかわい子ちゃんだほ」
 隣で突っ立っている、オークの少年は興味津々だ。

 「おいおい、カワイけりゃ良いって者じゃないぜ? お前らこの間の事もう忘れたのか」
 インキュバスの少年が邪鬼とオークを諭す。

 「この間のは····そう、運が悪かったんだよ」
 この間の一件、ナンパした相手がハイ・ヴァンパイアの娘でインキュバスは危うく血を吸われるところだった。

 「そうだほー、僕たちは何ともなかったほ」
 確かに。ただ邪鬼とオークはヴァンパイアの魔力【魅了】に掛っていて、インキュバスが正気じゃなかったら、皆血を吸われて干からびていた事だろう。

 「えーい、とにかくさ俺のお陰で助かったんだぜ? それにヴァンパイアに懲りたから、こんな昼間っからナンパしてるんだろ!」
 そう、あんな目には2度と遭いたくない。第1インキュバスが干からびて死んだなんて末代までの恥だ。

 「まー、そうなんだけどね。おっ? あの娘見てみろよ」
 邪鬼が目配せをする先には、どこからどう見ても人間の女の子がいる。キョロキョロと辺りを見回している様子から察するに、どうやら迷子になったようだ。

 「あの娘に決めたほ、お〜い!」
 おいバカやめろってば! 魔界のど真ん中にいる人間なんてカタギのはずがないって、こっち見て手を振ってるぞ、おい! どうすんだよ?

 女の子は俺たちの方へ 小走りでやって来た。

 「ねぇ、キミ何処から来たの?」
 「ボク達が案内するほ!」
 女の子はキラキラした瞳で邪鬼とオークを見つめている。この魔力は! 護身用の【魅了】の魔法だ、こいつらまた同じ手に引っかかってる····

 「魔王様のお城へ行きたいんだけど、迷子になってしまって」
 女の子の瞳は俺にも向けられた。かなり強い 魔力だが、俺には効かないよ。

 「キミ、ただ者じゃないね?」
 女の子が囁く。

 「だったら、どうする? 魔界のど真ん中で騒ぎを起こしたら、ただじゃ済まないぜ?」
 俺も囁き返した。

 「それもそうね····」
 女の子は少し考えた後
 「お城までの道を教えてよ? それぐらいならいいでしょ」
 
 「仕方がない、女の子のお願いを無下にしたとあっては俺の評判に関わる」
 俺と彼女の魔力は、ほぼ同じだが? どうやら彼女の方が格上のようだ。この場はさっさと 城へ行ってもらおう。




 「うーん 意外と複雑な通りね」
 そりゃそうだろう、敵に攻められた時のことを考えればさ。

 「それじゃあ俺たちはここで、バイバイ!」
 邪鬼とオークに喝を入れて正気に戻す。

 「ちょっと待って!」
 呼び止められたぞ。まだ用があるのか? 面倒だな。

 「チッ、なんだよ」
 少し乱暴に応えてみたが女の子は怯むことなく俺に近づくと「お城まで案内してくれない? 昼間からナンパしてるんだから、どうせ暇なんでしょ。お礼は弾むわよ!」
 
 まぁ図星だけどさ、そこまで明らさまに言われると俺のプライドがね。

 「いくらもらえるんだ?」
 「ただでもいいほ 暇なんだし!」

 ツーっ、コイツらときたら! 致し方なしか。

 「仕方がない、城が見える処までだぞ?」

 「できれば、お城の中まで付いて来て欲しいんだけど」

 「なんでだよ!」

 「従者がいた方が、それっぽく見えるでしょ? お願い!」
 従者って、俺達を何だと思っているんだ? それよりもまたお願いか。

 「ふーっ、報酬は弾んでくれるんだよな」

 「モチロン! お願いしていいのよね?」

 「わーったから、お願いはやめてくれ!」

 「ふふふ、よろしくインキュバスさん」

 全く。何だって、こんな面倒な事になったんだ?

 
 
 

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