日々の僕たち

「ここは?」
 コチョコチョ

 「くすぐったいよ」

 「それじゃぁこっちは?」
 ツンツン
 
 「もう止めてよ〜」

 「だってさぁ〜僕はもう課題終わっちゃったよ?」
 彼女の耳元で息を吹きかけながら伝える。

 「だから止めてって!」
 
 彼女はそう言うけどさ 顔を真っ赤にして言われても説得力ないよね。

 「課題だったら僕が後で手伝ってあげるからさ」そう、後でね。

 「自分でちゃんとやらないと意味がないじゃない」彼女の目は潤んでいる。

 おふざけは止めておいた方がいいのかな? でも、もう一押しなんだよね。

 「勉強なんていつでも出来るじゃん、それよりもさ? いいことしよう」
 今日は運がいいことに彼女の親も兄弟も家にはいない。この機を逃したら次はいつになることやら、もうキスだけじゃ我慢できないよ。

 「課題を終わらせないと····」

 彼女の声は消え入りそうだ。彼女の隣に座って 腰に手を回す。

 「ちょっとぉ!」
 彼女は身体をピクッと震わせて僕に抗議をするけど、それ以上は何も言ってこない。

 どうするかな? やっぱり課題が先かな。

 「課題 手伝うよ」

 彼女は黙って頷いたけど、こんな状態で勉強できるのかな。

 彼女のノートを見ると、ほとんど終わっているけれど 判らないところは手つかずだ。そんなに手こずる内容じゃないと思うけど、学力は人それぞれ。彼女にとっては難しいのだろう。

 「この Y なんだけど」

 彼女は鉛筆の先で教科書に書かれた数式のアルファベットを指し示す。

 答えを教えてしまうのが手っ取り早いけど、それじゃあ彼女のためにならない。

 僕は別の設問のXを指さし
 「この X は どうやって答えを出したの?」

 「この公式を使って」
 彼女はノートの端にスラスラと公式を書く。

 「あ、そう言うことか!」
 彼女は呟くと先ほどの Y に入る数字を導き出した。

 「そうそう判れば簡単でしょ?」
 ここは 特に難しいところじゃないけれど 教科書には書いてない。先生から教えてもらうか、あるいは予備校で教わるか。僕は予備校に通っているので、そこで学んだ。

 ただ 学校の黒板を書き写していれば判るというものではない。

 さっきの彼女のように 何かのきっかけで理解が及ぶところだ。いかに日頃の予習復習が大切かということだよね。

 彼女は残っていた 設問を次々に解いていく。

 「終ったー!」

 彼女は 歓喜の声を上げる。

 「どうして学校で教えてくれないんだろう」

 「しっかりと家で勉強していれば判るところだからだよ」
 僕がそう言うと。

 「ただいまー!」
 玄関から声が聞こえた、彼女の弟の声だ。

 それにしても危ない危ない、彼女の課題を手伝わずに事に及んでいたら見つかるところだった。

 「お帰りなさーい!」
 彼女は部屋のドアを開けて玄関に向かって応えた。

 そして俺の方を振り返り
 「今日は残念だったね」
 少し照れながら言った。

 「また次があるよ。それよりも 夕ご飯の支度?」

 「ええ、課題 手伝ってくれてありがとう」

 僕は自分の荷物をまとめながら
 「明日の朝いつものところで待ってるよ」
 
 「お弁当を楽しみに待っててね」
 

 「判ったよ」
 君がいれば他に何もいらないけどね。

 ····我ながらちょっとクサかったかな? 声に出さなくて良かった。

 
 

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