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オレはとっくに諦めた

 客の来ない屋台の中から灰色の天井を見上げる。薄く降る雪と雲の向こう側にあるものを、サンズは知っている。
 いつだったか、あの天井に触れに行ったことがあった。
 重力操作と近道を駆使して、最も地上へ近いところへ行った。骨より硬い岩肌に触れた時、肋骨の内側に湧いたのはなんだったろう。怨嗟だったか、諦念だったか、それとも。
 俺たちを閉じ込めているのは結界だけではない。繰り返される時間という名の見えない牢獄こそが本当の敵だ。
 この閉ざされた世界を破壊する術を見つける気力は、もう、ない。
 あの頃はあれだけ切望していたのに、もう、星を見たいとも思わなくなった。
 学問さえ極められれば、なんでも解決できると思っていた。何でも見ることができると。
 地下でも、地上でも、どの銀河でも、物体を支配する数式は変わらない。
 物理学は世界を知るための窓だ。知識さえあれば、地下に封印されていても、この世の形を知ることができる。
 宇宙物理学者達が、この地球から離れることなく星の内部を知ったのと同じように。
 自分より少し上の世代にガスターという天才科学者がいたのも、科学への希望と憧れを増大させていた。
 ──けれども、知りたくない事実まで知ってしまうとは思っていなかった。
 指を包むミトンの形の手袋ごと、パーカーのポケットに突っ込む。パソコンを触る機会がなくなってから、この手袋をつけることが増えた。細長いばかりで気味の悪い骨の指よりも、ミトンの方がウケがいい。
 雪が降り積もる静かな音と、骨の髄に染みるような冷気に、うつらうつらと身を任せる。

 パーカーの中で携帯電話が鳴った。

 のろのろと画面を開き、通知を見る。
 この小さな画面に並ぶ端的な数値の羅列の意味を、サンズは知っている。
 ──丸一日と少しの時間が消し飛ばされたらしい。
 苦々しい思いで、転送されてきたそれをアーカイブした。
 知り合いの住む方向に、ちらりと視線を向ける。
 時間異常の震源は遺跡の中だった。
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