このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

オレはとっくに諦めた

 白い指がキーボードの上を踊る。剥き出しの硬い骨がキーを打つたびにカタカタと小気味良い音が鳴った。
 彼がパソコンを触るときは、手袋を外すのが常だった。彼は布越しで感覚が鈍るのを嫌っていた。
 キーには元々はアルファベットが印字されていたはずだが、すでに削れて読めなくなっている。このキー配列に慣れきった持ち主はブラインドタッチしかしないので、さして不便はしていないようだが。
 パソコンからけたたましい警告音が鳴った。
 画面に表示されていた複数のグラフを塗りつぶすように、黄と黒で縁取られた警告ウィンドウが開く。


      緊急事態
 至急 ラボの出入り口を封鎖せよ
  これは未曾有の災害である


「なん、……」
 思わず口から出た言葉に、反応する者はいなかった。慌てて周りを見渡してみれば、他の同僚たちのパソコンもまた同じ警告を受け取ったようだった。
 開かれたままの警告ウィンドウに目を戻し、あることに気がついて眉根を寄せた。──これは、決意抽出器から送られてきたものだ。
 ──どういうことだ?
 ──なぜ、実験機材の一つが「災害」などという警告を出している?
 そもそも、このような警告を出すようにプログラムした覚えなどない。多少設計には関わったが、このような機能をつけた記憶はなかった。


   決意抽出器制御部
  timeanomaly/readme.txt


 警告ウィンドウの文字が更新され、内部ファイルへのパスが表示される。
 サンズは異常事態への困惑を隠しきれないまま、そこへとアクセスした。

sansypc:~ SANS$ ssh gas@DeterminationExtractor
gas@DeterminationExtractor:~$emacs timeanomaly/readme.txt
2/5ページ
スキ