オレはとっくに諦めた
白い指がキーボードの上を踊る。剥き出しの硬い骨がキーを打つたびにカタカタと小気味良い音が鳴った。
彼がパソコンを触るときは、手袋を外すのが常だった。彼は布越しで感覚が鈍るのを嫌っていた。
キーには元々はアルファベットが印字されていたはずだが、すでに削れて読めなくなっている。このキー配列に慣れきった持ち主はブラインドタッチしかしないので、さして不便はしていないようだが。
パソコンからけたたましい警告音が鳴った。
画面に表示されていた複数のグラフを塗りつぶすように、黄と黒で縁取られた警告ウィンドウが開く。
緊急事態
至急 ラボの出入り口を封鎖せよ
これは未曾有の災害である
「なん、……」
思わず口から出た言葉に、反応する者はいなかった。慌てて周りを見渡してみれば、他の同僚たちのパソコンもまた同じ警告を受け取ったようだった。
開かれたままの警告ウィンドウに目を戻し、あることに気がついて眉根を寄せた。──これは、決意抽出器から送られてきたものだ。
──どういうことだ?
──なぜ、実験機材の一つが「災害」などという警告を出している?
そもそも、このような警告を出すようにプログラムした覚えなどない。多少設計には関わったが、このような機能をつけた記憶はなかった。
決意抽出器制御部
timeanomaly/readme.txt
警告ウィンドウの文字が更新され、内部ファイルへのパスが表示される。
サンズは異常事態への困惑を隠しきれないまま、そこへとアクセスした。
sansypc:~ SANS$ ssh gas@DeterminationExtractor
gas@DeterminationExtractor:~$emacs timeanomaly/readme.txt
彼がパソコンを触るときは、手袋を外すのが常だった。彼は布越しで感覚が鈍るのを嫌っていた。
キーには元々はアルファベットが印字されていたはずだが、すでに削れて読めなくなっている。このキー配列に慣れきった持ち主はブラインドタッチしかしないので、さして不便はしていないようだが。
パソコンからけたたましい警告音が鳴った。
画面に表示されていた複数のグラフを塗りつぶすように、黄と黒で縁取られた警告ウィンドウが開く。
緊急事態
至急 ラボの出入り口を封鎖せよ
これは未曾有の災害である
「なん、……」
思わず口から出た言葉に、反応する者はいなかった。慌てて周りを見渡してみれば、他の同僚たちのパソコンもまた同じ警告を受け取ったようだった。
開かれたままの警告ウィンドウに目を戻し、あることに気がついて眉根を寄せた。──これは、決意抽出器から送られてきたものだ。
──どういうことだ?
──なぜ、実験機材の一つが「災害」などという警告を出している?
そもそも、このような警告を出すようにプログラムした覚えなどない。多少設計には関わったが、このような機能をつけた記憶はなかった。
決意抽出器制御部
timeanomaly/readme.txt
警告ウィンドウの文字が更新され、内部ファイルへのパスが表示される。
サンズは異常事態への困惑を隠しきれないまま、そこへとアクセスした。
sansypc:~ SANS$ ssh gas@DeterminationExtractor
gas@DeterminationExtractor:~$emacs timeanomaly/readme.txt