神社の化け猫 *ほのぼの
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突然だが、私、衣織は猫が好きだ。ふわふわした毛並み、にゃあと鳴く可愛い鳴き声、尻尾の動き、背中の柔らかさ。猫のどこをとっても可愛いところしかない。白猫か黒猫かで触り心地が違うと聞いたが、今度試してみたいところだ。そんな猫好きな私は猫が沢山集まるスポットという物も沢山知っている。田舎だからか、猫など余りいないように思えて、実はかなり居る。1つ目は、近所のスーパーマーケットの裏の赤い階段。2つ目は、海の近くにある工場の近くの公園。3つ目は、知り合いのお爺さんの家の近辺。そして、4つ目は、私がいつも行っている神社だ。昔は、学校から家までの帰り道にも猫が居たのだが、今はもう猫は来なくなってしまった。
◆◆◆
それは私が小学3年生だった頃。
「詩織!今日も︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎ちょっと遠い公園”行こうよ!」
「...ここ別に人居ないんだから、普通に︎︎ ︎︎ ︎︎"︎サイクリング行こう”って言おうよ」
「えー、もし人が通ったらどうするのさ!それに、普段からその言葉に慣れておく事こそがうんぬんかんぬん...」
と言うのも、衣織と詩織はお互いが唯一の友達で、いつも自転車で色んなところに行って、色んな景色を見る...と言う遊びをしているのだ。
シャイな私たちは、いちいち遊びの内容にお互いだけが分かる秘密の言葉を考え、他人には私たちが何をしようとしているか分からないようにしている。ちなみにその、︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎お互いだけが分かる秘密の言葉”の総称をカモフラ言葉と呼んでいたりする。
そして、先程言った「ちょっと遠い公園」は、「サイクリング」、つまり、自転車で色んなところに行って、色んな景色を見る...と言う遊びの事を指している。
尤も 、小学生だから、校区というものがあり、行ける範囲は限られている為か既に殆どの場所を行き尽くしてしまったのだが。しかしそれを嘆くことも無くもう1周、もう2週と何度も同じ場所を回り、違いを楽しんでいる。恐らく詩織も同じだろう。私たちは似ている。好きな遊びは2人ともごっこ遊びの設定を考える事だし、2人とも猫が好きだ。
しかし細かく見ていくと少しづつ違うため、役割分担もそれによって少し違ってくる。例えば、私は長期的な記憶が得意だが、沢山のことはあまり覚えられない。しかし、詩織は沢山の事を細かく覚える事が得意だ。ただ、やっぱり覚えた事をずっと覚え続ける事は苦手だが。その為か詩織は行った道を1日完璧に覚えて、帰り道を見失わないようにするのはとても得意らしい。そんな訳で最近の私たちの遊びは校区内をクルクルと自転車で見て回る事となった。
「見て、この家の庭凄い!」
「そか」
私は目を輝かせながら陶器のお人形さんが沢山飾られてある庭をわざわざ自転車を降りてまで眺める。そんな私に従う様に詩織も自転車を降りる。反応こそ冷たいものの、興味が無いなんて事は無いのだ。まだ出会って数ヶ月しか経っていないが、私はそれに気づいて居る。
「あっ、犬!」
私はすれ違った女性と散歩中の飼い犬に気づきそう叫ぶ。ふわふわとした毛並や、小型犬特有のポテポテした歩き方はとても可愛い。犬種は良く分からないが、ポメラニアンかマルチーズだろうか。生憎犬には詳しくないのだ。
「......衣織」
「なあに?」
「いきなり︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎犬!!!!!!”って叫ぶのはどうかと...せめて︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎あっ、ワンちゃんだぁ〜︎” とかならまだしも」
「......」
私はそんなお母さんの様なセリフを吐く詩織に笑顔で返事をし、犬を連れている女性の方へパタパタとかける。
「触ってもいいですか!!!」
「あっ、えっと、いいですよ」
女性は少し戸惑いつつも私に許可をくれた。私はそんな戸惑いに気づいていながら、住宅地で言うにしては大きな声でありがとうございますと叫ぶ。
「わあ、可愛い......あっ、ごめん怖い?」
犬に手を嗅がせようとした瞬間、犬は女性の足元へ擦り寄る。体がプルプル震えている様子は正に小型犬と言ったところか。
「ごめんね、ちょっとこの子人見知りしちゃうみたい」
「ああ、こちらこそすみません、ありがとうございました」
当たり障りの無い言葉で触る事を女性からも拒否される。直ぐに私は女性に謝罪のような感謝を伝えた......のだが。
「ねえ、なんで拒否するのお?!私、善意しかないよ!?別に、可愛いと思った、だから撫でる!それだけじゃん!別に危害加えようとしてないじゃん!!!」
「じゃあ衣織は見ず知らずの他人から唐突に可愛いねって言われながら撫でられても怖くないのか」
「ごめんなさい!!」
口を尖らせながら、猫のように詩織に頭突きするように擦り寄り、愚痴を零すと、意地を張る私でも納得出来る正論を返された。
しかし、その正論に納得出来たからと言って動物を触りたい欲求が無くなった訳では無い。
「ねえ詩織」
「はい」
「猫、探しに行こうよ」
「えっ、猫?」
「うん!もうこの辺一帯見尽くしちゃったしさ、何か目的を持って探検するのも良いかなって!」
「ああ、良いね」
私たち2人は猫が好きだ。思えば、私たちが仲良くなったきっかけも猫だった。︎︎
︎︎ ︎︎"︎︎猫を探す”
そんな私たちにとってはこれ以上無い程ピッタリな目標であろう。
「うーん、猫を探すと言っても何処に行こう」
「目星つけないと厳しいかあ」
そんなこんなで自分たちが思い当たる猫が居そうな場所を言おうと、場所を考えようとしながら、また自転車でウロウロする。何も案が纏まらずに動いていたからか結局、安牌に知り合いのお爺さんの家の近辺にたどり着いてしまった。
「......」
「......、いや!この辺は猫多いし、探せば新たな猫スポット発見になるかもしれない!」
「.........」
「..................返事ちょうだいよ」
詩織は口こそ笑っているものの、眉は困ったように下がっている。なんだかお互いに懺悔し合うような、少し気まずい雰囲気となった。まあ、もとより︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎猫を見たい” と言う私の本来の目的自体は達成しているのだが、いつの間にか私達の目的は新たな猫スポットを探す事へと変わっていた。
「この辺の新たな猫スポットって、ここの猫が別の場所にちょっと移動してるだけな気がするけど......」
「......気にしない事にしよう!」
「新たな猫スポットとは言えなくないかな...」
「...............気にしない事にしよう!うん!」
私は自分に︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎気にしなければ問題ない” と言い聞かせ、手で自転車を押す。即興で考えたメロディーに合わせ、探そう、探そう!と明るく歌いながら。
しかし、︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎新たな猫スポット” が見つかるのはそう遅くはなかった。いや寧ろ早すぎたかもしれない。
「えっ...?!」
珍しく詩織が大声を上げたと私もビックリして、詩織の視線を追うと、そこには5~6匹の猫と4匹くらいの子猫が居た。私たちが走っていた1本の長い道路から枝分かれして、もう一本の長い道路がある。私たちから見てもう一本の道路の右側の小石がいっぱいあるところの端に固まって数匹の猫がちょこんと座っていた。それにしてもこの沢山の小石はなんだろうか。人工的に敷かれたようにも見えるが、今まで家しか無かった通りに出てきたちょっと異質な場所に目を奪われる。
「......猫!!!」
「ちょっと、そんな大声出すと猫が怯えるよ。それに、︎︎いきなり大声で ︎︎ ︎︎"︎︎猫!!!!!!!!” って叫ぶのはどうかと...」
そんな事言われても、つい大声になってしまうのだから仕方ない。それに、詩織だって初め大きな声を出したでは無いか。まあ、そんな事は置いておいて、早速見つけた猫を間近で見ようと私たちは少し離れたところで恐る恐る自転車から降りる。ここの自転車から降りるところで猫に逃げられたことが何度もあるのだ。もう二度とそんな失敗はしないと心に誓い、いつも遠く離れているところで自転車から降りる。自転車から降りる時に、足音をさせない事に気を使うのは勿論のこと、自転車が倒れないようにするための1本スタンドを足で動かす時にがちゃんと金属の音がしないようにも気をつける。野良猫に近づく時は常に細心の注意を払わなければならない。自転車から降りた後、ゆっくりとしゃがみ、体を低くして猫の方へ向かう。しかし沢山の猫達は一向に逃げる気配をさせない。いや、逃げるどころか、怯えているようにも見えないその猫達に、私は違和感を感じながらも、悠長に︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎えっ、逃げない?!えっ、えっ、やったあ!” とか考えていた。
「ねえ、ここまで近づけるの初めてじゃない?」
「うん。もしかして人馴れしてるのかな」
私たちは本当に近くまで来てしまった。きっと手を伸ばせば撫でられるのでは無いかというくらい怯えないその猫達に私は静かに詩織と目を合わせ、喜びを分かち合う。小石の上で寝ている猫、少し出っ張った白いコンクリートに乗っかって鎮座している猫。毛並みや大きさはバラバラだが、なんだか家族のように思えた。あと、敷き詰められた小石があるこの場所がなんなのか分かったような気がした。恐らくここは駐車場である。でも、何の?なんとなく疑問に思った私は目の前の猫を無視してキョロキョロと辺りを見回した。
「.........神社?!」
「だから大声出すなって」
何故今まで気づかなかったのだろうか。私たちが今いる、猫が日向ぼっこしている駐車場から道路を挟んですぐ隣。そこには少しこぢんまりとした神社が建っていた。私ははくはくと口を開閉させる。しゃがんでいるからか、普段でも神々しい神社がさらに壮大に感じる。
「えっ、ちょ、えっ、神社!神社!神社だあ!ねえ待って神社があるよ!神社!ねえ詩織、神社神社!」
「.........衣織うるさい!猫が怯え...」
私はハッとして猫の方を見る。もしかして、もしかすると、逃げてしまったかもしれない。これだけ大声を出したのだ。近づいても逃げない奇跡のような猫も、大声を出したのだから、怖がってしまっても無理はない。しかし猫はまるで私たちが見えていないかのように大人しい。実はこの猫は置物かぬいぐるみなのでは、と言う考えが頭を過ぎったが、呼吸と共に微かに動く猫の背中が生きていると証明する。
「これ、この反応、もしかすると触れるんじゃ」
そう言う詩織の声は震えている。野良猫なんて滅多に触れるものではない。
「触って、みる?」
「触ってみよう」
「.........」
「.........」
「いや、触らないの?」
「......詩織が触ったら触る」
「えっなんで?先に衣織が触ったら良いじゃん」
「.........いや、なんか怖い」
「いやなんでよ」
こうもすんなりと行くと怖いものだ。たしかに猫は可愛い。しかし、この子達は野良猫だ。私を引っ掻かないなどという保証は無い。もし、引っ掻かれたら痛いだろうなとか余計な事を考えてしまう。
「.........先触るよ?良いの?」
「お願いします」
「触るよ?」
「うん」
「触るよ??」
そう言った後、詩織は大きく息を吸って目の前の黄色い猫をひと撫でする。そしてすぐ手を戻し、大きく息を吐く。
「...触れた」
「凄い......触ってもこの猫ちゃん動じないよ」
私も猫に手を伸ばす。野良猫にしては太っていて、撫で心地が良い。砂が着いているため少しザラザラするが、外で生活している動物なんて皆こんなものだろう。
「わあ、ふわふわ!可愛い〜」
「ねー、可愛い。......抱っこ出来ると思う?」
「いけるんじゃない?」
そんな感じで私たちは触れる野良猫に盛り上がっていた。
◆◆◆
あれから、何分経ったかは覚えていない。30分は経っただろうか。子供故に、時間が進むのが遅いのだ。そう何時間も経っている訳は無いが、私たちの感覚ではもうずっとここにいるような気がしてくる。
「ねえ、衣織、時間大丈夫かな」
詩織がそう心配そうにした時。
「あっ、人がいるわよ」
「珍しい......」
2人の女性がこちらを見た。1人は茶色の髪をボブカットにしていて、もう1人は綺麗なロングの髪をたなびかせていた。高校生くらいだろうか。私たちから見ると随分と大人びて見える。
「えっと、こんにちは」
なんだか不思議な空気が流れ始めたので、とりあえず挨拶をしておこう。
「……こんにちは」
「……こんちには」
女性2人は少し驚いたように目を見開いていたが、すぐに笑顔になって返してくれた。
「貴方たち、いつからここに居るの?」
「えっ?ええと……」
ボブカットの女性に尋ねられた。いつから居たか、なんて聞かれても分からない。私は、「えっと、多分結構前だと思います」、と曖昧にも程がある返事をした。
「ああ、ごめんなさい。困らせるつもりは無かったの。ただ、この猫ちゃんに興味を示している人が珍しくて......」
なんと。こんなにも懐いている猫ちゃんに興味が無いとな。まあ、確かに私たちが特別変だと言われれば否定出来ないのだが……。
「自己紹介」
先程まで話していたボブカットの女性の隣に居た、ロングヘアーの小柄な女性がポツリと呟く。ボブカットの女性の裾をつまんで、軽く引っ張っている所から、恐らく一緒に居る女の人になにか伝えようとしているのだろう。
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私は遥香と言います。」
「花楓......」
「私たち、この神社によく来るの......可愛いでしょう?この猫ちゃん達は」
ええと、まとめると、ボブカットの女性は遥香、ロングヘアーの女性は花楓と言い、2人は良くここの神社に来ているということか。
「ここ、何故か落ち着くのよ......いつも、ここの神社で花楓とお喋りしてるのよね。神様には、ちょっと悪い事してるかしら」
「ちょっとじゃないと思う」
「ちょっとじゃないと思ってて止めないの?!」
きゃあきゃあと2人がコントのような会話を始める。こんな会話ですら頭の良い会話に思えてくるのだから、年の差とは全く恐ろしい。
そこから先は、もうよく覚えていない。なんせ、5年前の話だからだ。あれから、遥香さんと花楓さんに駐車場にいる猫は神社と、近くのおばあさんの家を行ったり来たしている猫であること、餌やりなどの面倒をそのおばあさんが見ている事を教えて貰った。......この辺の人達は野良猫の面倒を見るのが好きな人が多いのだろうか?私たちはそんな事を疑問に思いつつも、その後2人と、4人で遊んだ。1番可愛い猫はどの子だとか、少し残酷な話もしたような気がする。
◆◆◆
「神社行こー!」
「声大きい!あと、カモフラ言葉使え!」
「ユーキラフォンへレッツ・ゴー!」
あれからと言う物。私達はほぼ毎日のようにあの神社へと通っていた。今年で私たちは中学2年生となる。
◆◆◆
それは私が小学3年生だった頃。
「詩織!今日も︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎ちょっと遠い公園”行こうよ!」
「...ここ別に人居ないんだから、普通に︎︎ ︎︎ ︎︎"︎サイクリング行こう”って言おうよ」
「えー、もし人が通ったらどうするのさ!それに、普段からその言葉に慣れておく事こそがうんぬんかんぬん...」
と言うのも、衣織と詩織はお互いが唯一の友達で、いつも自転車で色んなところに行って、色んな景色を見る...と言う遊びをしているのだ。
シャイな私たちは、いちいち遊びの内容にお互いだけが分かる秘密の言葉を考え、他人には私たちが何をしようとしているか分からないようにしている。ちなみにその、︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎お互いだけが分かる秘密の言葉”の総称をカモフラ言葉と呼んでいたりする。
そして、先程言った「ちょっと遠い公園」は、「サイクリング」、つまり、自転車で色んなところに行って、色んな景色を見る...と言う遊びの事を指している。
しかし細かく見ていくと少しづつ違うため、役割分担もそれによって少し違ってくる。例えば、私は長期的な記憶が得意だが、沢山のことはあまり覚えられない。しかし、詩織は沢山の事を細かく覚える事が得意だ。ただ、やっぱり覚えた事をずっと覚え続ける事は苦手だが。その為か詩織は行った道を1日完璧に覚えて、帰り道を見失わないようにするのはとても得意らしい。そんな訳で最近の私たちの遊びは校区内をクルクルと自転車で見て回る事となった。
「見て、この家の庭凄い!」
「そか」
私は目を輝かせながら陶器のお人形さんが沢山飾られてある庭をわざわざ自転車を降りてまで眺める。そんな私に従う様に詩織も自転車を降りる。反応こそ冷たいものの、興味が無いなんて事は無いのだ。まだ出会って数ヶ月しか経っていないが、私はそれに気づいて居る。
「あっ、犬!」
私はすれ違った女性と散歩中の飼い犬に気づきそう叫ぶ。ふわふわとした毛並や、小型犬特有のポテポテした歩き方はとても可愛い。犬種は良く分からないが、ポメラニアンかマルチーズだろうか。生憎犬には詳しくないのだ。
「......衣織」
「なあに?」
「いきなり︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎犬!!!!!!”って叫ぶのはどうかと...せめて︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎あっ、ワンちゃんだぁ〜︎” とかならまだしも」
「......」
私はそんなお母さんの様なセリフを吐く詩織に笑顔で返事をし、犬を連れている女性の方へパタパタとかける。
「触ってもいいですか!!!」
「あっ、えっと、いいですよ」
女性は少し戸惑いつつも私に許可をくれた。私はそんな戸惑いに気づいていながら、住宅地で言うにしては大きな声でありがとうございますと叫ぶ。
「わあ、可愛い......あっ、ごめん怖い?」
犬に手を嗅がせようとした瞬間、犬は女性の足元へ擦り寄る。体がプルプル震えている様子は正に小型犬と言ったところか。
「ごめんね、ちょっとこの子人見知りしちゃうみたい」
「ああ、こちらこそすみません、ありがとうございました」
当たり障りの無い言葉で触る事を女性からも拒否される。直ぐに私は女性に謝罪のような感謝を伝えた......のだが。
「ねえ、なんで拒否するのお?!私、善意しかないよ!?別に、可愛いと思った、だから撫でる!それだけじゃん!別に危害加えようとしてないじゃん!!!」
「じゃあ衣織は見ず知らずの他人から唐突に可愛いねって言われながら撫でられても怖くないのか」
「ごめんなさい!!」
口を尖らせながら、猫のように詩織に頭突きするように擦り寄り、愚痴を零すと、意地を張る私でも納得出来る正論を返された。
しかし、その正論に納得出来たからと言って動物を触りたい欲求が無くなった訳では無い。
「ねえ詩織」
「はい」
「猫、探しに行こうよ」
「えっ、猫?」
「うん!もうこの辺一帯見尽くしちゃったしさ、何か目的を持って探検するのも良いかなって!」
「ああ、良いね」
私たち2人は猫が好きだ。思えば、私たちが仲良くなったきっかけも猫だった。︎︎
︎︎ ︎︎"︎︎猫を探す”
そんな私たちにとってはこれ以上無い程ピッタリな目標であろう。
「うーん、猫を探すと言っても何処に行こう」
「目星つけないと厳しいかあ」
そんなこんなで自分たちが思い当たる猫が居そうな場所を言おうと、場所を考えようとしながら、また自転車でウロウロする。何も案が纏まらずに動いていたからか結局、安牌に知り合いのお爺さんの家の近辺にたどり着いてしまった。
「......」
「......、いや!この辺は猫多いし、探せば新たな猫スポット発見になるかもしれない!」
「.........」
「..................返事ちょうだいよ」
詩織は口こそ笑っているものの、眉は困ったように下がっている。なんだかお互いに懺悔し合うような、少し気まずい雰囲気となった。まあ、もとより︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎猫を見たい” と言う私の本来の目的自体は達成しているのだが、いつの間にか私達の目的は新たな猫スポットを探す事へと変わっていた。
「この辺の新たな猫スポットって、ここの猫が別の場所にちょっと移動してるだけな気がするけど......」
「......気にしない事にしよう!」
「新たな猫スポットとは言えなくないかな...」
「...............気にしない事にしよう!うん!」
私は自分に︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎気にしなければ問題ない” と言い聞かせ、手で自転車を押す。即興で考えたメロディーに合わせ、探そう、探そう!と明るく歌いながら。
しかし、︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎新たな猫スポット” が見つかるのはそう遅くはなかった。いや寧ろ早すぎたかもしれない。
「えっ...?!」
珍しく詩織が大声を上げたと私もビックリして、詩織の視線を追うと、そこには5~6匹の猫と4匹くらいの子猫が居た。私たちが走っていた1本の長い道路から枝分かれして、もう一本の長い道路がある。私たちから見てもう一本の道路の右側の小石がいっぱいあるところの端に固まって数匹の猫がちょこんと座っていた。それにしてもこの沢山の小石はなんだろうか。人工的に敷かれたようにも見えるが、今まで家しか無かった通りに出てきたちょっと異質な場所に目を奪われる。
「......猫!!!」
「ちょっと、そんな大声出すと猫が怯えるよ。それに、︎︎いきなり大声で ︎︎ ︎︎"︎︎猫!!!!!!!!” って叫ぶのはどうかと...」
そんな事言われても、つい大声になってしまうのだから仕方ない。それに、詩織だって初め大きな声を出したでは無いか。まあ、そんな事は置いておいて、早速見つけた猫を間近で見ようと私たちは少し離れたところで恐る恐る自転車から降りる。ここの自転車から降りるところで猫に逃げられたことが何度もあるのだ。もう二度とそんな失敗はしないと心に誓い、いつも遠く離れているところで自転車から降りる。自転車から降りる時に、足音をさせない事に気を使うのは勿論のこと、自転車が倒れないようにするための1本スタンドを足で動かす時にがちゃんと金属の音がしないようにも気をつける。野良猫に近づく時は常に細心の注意を払わなければならない。自転車から降りた後、ゆっくりとしゃがみ、体を低くして猫の方へ向かう。しかし沢山の猫達は一向に逃げる気配をさせない。いや、逃げるどころか、怯えているようにも見えないその猫達に、私は違和感を感じながらも、悠長に︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎えっ、逃げない?!えっ、えっ、やったあ!” とか考えていた。
「ねえ、ここまで近づけるの初めてじゃない?」
「うん。もしかして人馴れしてるのかな」
私たちは本当に近くまで来てしまった。きっと手を伸ばせば撫でられるのでは無いかというくらい怯えないその猫達に私は静かに詩織と目を合わせ、喜びを分かち合う。小石の上で寝ている猫、少し出っ張った白いコンクリートに乗っかって鎮座している猫。毛並みや大きさはバラバラだが、なんだか家族のように思えた。あと、敷き詰められた小石があるこの場所がなんなのか分かったような気がした。恐らくここは駐車場である。でも、何の?なんとなく疑問に思った私は目の前の猫を無視してキョロキョロと辺りを見回した。
「.........神社?!」
「だから大声出すなって」
何故今まで気づかなかったのだろうか。私たちが今いる、猫が日向ぼっこしている駐車場から道路を挟んですぐ隣。そこには少しこぢんまりとした神社が建っていた。私ははくはくと口を開閉させる。しゃがんでいるからか、普段でも神々しい神社がさらに壮大に感じる。
「えっ、ちょ、えっ、神社!神社!神社だあ!ねえ待って神社があるよ!神社!ねえ詩織、神社神社!」
「.........衣織うるさい!猫が怯え...」
私はハッとして猫の方を見る。もしかして、もしかすると、逃げてしまったかもしれない。これだけ大声を出したのだ。近づいても逃げない奇跡のような猫も、大声を出したのだから、怖がってしまっても無理はない。しかし猫はまるで私たちが見えていないかのように大人しい。実はこの猫は置物かぬいぐるみなのでは、と言う考えが頭を過ぎったが、呼吸と共に微かに動く猫の背中が生きていると証明する。
「これ、この反応、もしかすると触れるんじゃ」
そう言う詩織の声は震えている。野良猫なんて滅多に触れるものではない。
「触って、みる?」
「触ってみよう」
「.........」
「.........」
「いや、触らないの?」
「......詩織が触ったら触る」
「えっなんで?先に衣織が触ったら良いじゃん」
「.........いや、なんか怖い」
「いやなんでよ」
こうもすんなりと行くと怖いものだ。たしかに猫は可愛い。しかし、この子達は野良猫だ。私を引っ掻かないなどという保証は無い。もし、引っ掻かれたら痛いだろうなとか余計な事を考えてしまう。
「.........先触るよ?良いの?」
「お願いします」
「触るよ?」
「うん」
「触るよ??」
そう言った後、詩織は大きく息を吸って目の前の黄色い猫をひと撫でする。そしてすぐ手を戻し、大きく息を吐く。
「...触れた」
「凄い......触ってもこの猫ちゃん動じないよ」
私も猫に手を伸ばす。野良猫にしては太っていて、撫で心地が良い。砂が着いているため少しザラザラするが、外で生活している動物なんて皆こんなものだろう。
「わあ、ふわふわ!可愛い〜」
「ねー、可愛い。......抱っこ出来ると思う?」
「いけるんじゃない?」
そんな感じで私たちは触れる野良猫に盛り上がっていた。
◆◆◆
あれから、何分経ったかは覚えていない。30分は経っただろうか。子供故に、時間が進むのが遅いのだ。そう何時間も経っている訳は無いが、私たちの感覚ではもうずっとここにいるような気がしてくる。
「ねえ、衣織、時間大丈夫かな」
詩織がそう心配そうにした時。
「あっ、人がいるわよ」
「珍しい......」
2人の女性がこちらを見た。1人は茶色の髪をボブカットにしていて、もう1人は綺麗なロングの髪をたなびかせていた。高校生くらいだろうか。私たちから見ると随分と大人びて見える。
「えっと、こんにちは」
なんだか不思議な空気が流れ始めたので、とりあえず挨拶をしておこう。
「……こんにちは」
「……こんちには」
女性2人は少し驚いたように目を見開いていたが、すぐに笑顔になって返してくれた。
「貴方たち、いつからここに居るの?」
「えっ?ええと……」
ボブカットの女性に尋ねられた。いつから居たか、なんて聞かれても分からない。私は、「えっと、多分結構前だと思います」、と曖昧にも程がある返事をした。
「ああ、ごめんなさい。困らせるつもりは無かったの。ただ、この猫ちゃんに興味を示している人が珍しくて......」
なんと。こんなにも懐いている猫ちゃんに興味が無いとな。まあ、確かに私たちが特別変だと言われれば否定出来ないのだが……。
「自己紹介」
先程まで話していたボブカットの女性の隣に居た、ロングヘアーの小柄な女性がポツリと呟く。ボブカットの女性の裾をつまんで、軽く引っ張っている所から、恐らく一緒に居る女の人になにか伝えようとしているのだろう。
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私は遥香と言います。」
「花楓......」
「私たち、この神社によく来るの......可愛いでしょう?この猫ちゃん達は」
ええと、まとめると、ボブカットの女性は遥香、ロングヘアーの女性は花楓と言い、2人は良くここの神社に来ているということか。
「ここ、何故か落ち着くのよ......いつも、ここの神社で花楓とお喋りしてるのよね。神様には、ちょっと悪い事してるかしら」
「ちょっとじゃないと思う」
「ちょっとじゃないと思ってて止めないの?!」
きゃあきゃあと2人がコントのような会話を始める。こんな会話ですら頭の良い会話に思えてくるのだから、年の差とは全く恐ろしい。
そこから先は、もうよく覚えていない。なんせ、5年前の話だからだ。あれから、遥香さんと花楓さんに駐車場にいる猫は神社と、近くのおばあさんの家を行ったり来たしている猫であること、餌やりなどの面倒をそのおばあさんが見ている事を教えて貰った。......この辺の人達は野良猫の面倒を見るのが好きな人が多いのだろうか?私たちはそんな事を疑問に思いつつも、その後2人と、4人で遊んだ。1番可愛い猫はどの子だとか、少し残酷な話もしたような気がする。
◆◆◆
「神社行こー!」
「声大きい!あと、カモフラ言葉使え!」
「ユーキラフォンへレッツ・ゴー!」
あれからと言う物。私達はほぼ毎日のようにあの神社へと通っていた。今年で私たちは中学2年生となる。
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