怪談ポッキーゲーム
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怪談ポッキーゲーム
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私たちは、今日もまたこの場所に集まっていた。メンバーは私、幼なじみの花楓 と遥香 、高校に入ってから友達になった香織の計4名である。私たちは仲良くなってからというもの、昼休みは専ら この︎"︎︎イツメン”で集まっていた。毎回、昼休みが終わって別れる時、「明日もここに集合ね」などを言わなくても、みんな勝手に集まってくる、それ程までには仲が良い。
「でもさー」
口を開いたのは遥香。つっけんどんとしていて取っ付きにくいが、仲良くなってみると良いストッパーとなった。このメンバーの唯一のマトモ枠である。
「ずっと思ってたんだけど、ここで集まるのってどうなのよ」
「でも、ここあんまり人目に付かなくて良いんだけどな」
「......その理由だと、あんたが何か変な事しようとしてる様に聞こえるわよ」
確かに、こんな所で集まるのは......とは考えた事がないわけではない。なんにせよ、ここは調理室の真ん前である。いや、正確には調理室の扉の横、なのだが。私たちが通っているこの学校の、この区画は少し特殊な造りになってある。廊下の突き当たりに調理室があり、そこから左は、廊下の続きのようなちょっとしたスペースがある。直ぐにそのスペースは無くなっていて、昔あった廊下の名残りなのかな、なんて思っていたりした。
「......変な、事...............」
「まあ、人に聞かれるのは良くないですね」
「まあ、それはそうなんだけどさ」
と言うのも、私たちは、いつもこの場所で怪談をしていた。ヨーロッパで実際にあった怖い話から、自分自身の体験談、果てはネットで流行った迷信まで。最近は怪談を捏造して、どれが1番怖かったか選手権等をやっている。
「そっ!そうだよ!苦手な人もいるしね!」
私は香織の「人に聞かれるのは良くない」という言葉に全力で賛成する。実を言うと動きたくないだけなのだが、ここは香織の意見に賛成して置いた方が円滑に話が進むだろう。いや、わざとらしすぎて逆に怪しまれたりはしないだろうか。私は今更そんな事が不安になってくる。
「まあ、一理、あるけど。」
そうちょっと冷たい言い方で意見を受け入れる遥香に、花楓がこくこくと無言で頷く。花楓はあまり喋るのが得意な方では無い。怪談話をしている時も、淡々とした語り口調で話を進める。変に怖がらせようと口調や話し方を変えていないので、ちょっと特殊な雰囲気で怪談話を味わうことが出来る。ひたすら冷たい声で怖い話が続くのは未だに私でも慣れない。
「......話が一段落ついたところで、いつもの怪談話を始めませんか?」
キラキラとした目で提案してくるのは香織。実は初めに怪談話をしようと誘ってきたのは香織なのだ。どうやら家がとても厳しいらしく、刺激のある娯楽に飢えているのだとか。そこでミステリー小説を読み漁った結果、何故か怪談にハマったらしい。ちなみに、香織が敬語で話しているのもその家庭に関係があると5月くらいに言っていた。
「怪談」
ポツリと花楓が呟く。小さな声だったが、花楓の目もまた、キラキラしている。この子も大の怪談好きなのだ。しかし、この子は人と人では無いものの関係性にワクワクするタイプなので、あまり怖い話自体は好きでは無いらしい。......が苦手でも無いらしい。
「そうだね!始めよー!怪談!」
「テンション高すぎよ、あんた......」
「皆さん、物語は用意してきましたか?今日は創作怪談選手権の発表の日です!......私のは正に傑作ですよ!」
「私、も」
毎週火曜日は例の、怪談を捏造して、どれが1番怖かったか選手権、もとい、創作怪談選手権の発表の日である。何気にこの日が楽しみで、私が火曜日に学校へ来たい理由の一つとなっていた。
「あっ、それについてなんだけど」
「ほう、何かね遥香クン!......痛あっ!」
私は左手を顔に当て、右手を遥香に向かって伸ばし、いかにもと言った声色で喋った......ら、右手を遥香にはたかれた。
「......それについてなんだけどさ、今日ってポッキーの日じゃない?私、ポッキー1箱持ってきたの。優勝者には景品としてこれをあげる......ってのはどう?」
「良いね!賛成!」
「景品ですか......!」
私と香織は二つ返事だった。が。
「罰ゲーム......」
花楓がぽつりと小さな声でつぶやく。相変わらずの声量だが、私たちは既に慣れているので、容易に聞き取れた。
「景品、より、罰ゲームの方が、良い。」
そして、別案として出してきた提案が罰ゲームとはまた花楓らしい。そして罰ゲームなんてこれまた物騒な提案をした人のお目目は、実にキラキラとしている。
「罰ゲームー?ポッキーをどう罰に使うのよ」
「1番、怖がっていた人、に、それ食べさせる」
「罰になっていないような気がします......」
「じゃあ、優勝者にも、それ食べさせる」
「皆で仲良くポッキー食べてるだけじゃね?」
「食べられなかった人、悲しむ」
「流れ玉!!」
つまり、花楓のルールで行くと罰を受け悲しむ人は優勝者出来なくて、さらに他の人の怪談にもビビらなかった人という事になる。これは罰ゲームなのか?
「はっ、私、今いい事思いつきました!ポッキーと言えばポッキーゲーム!優勝者と、1番怖がっていた人でポッキーゲームをするのです!」
「おおー!そしたら、優勝者はポッキーを食べられて嬉しい、怖がっていた人はポッキーゲームをさせられて悲しい!......香織、天才?」
「それほどでもあります!......衣織さん、褒めて下さり光栄です。」
ふざけた後にしっかりと真面目な言い方をするあたり、実に香織らしい。それにしても、これは実に良い案だ。実際、花楓もそれで良いみたいだし、もうこれでいいんじゃないか、と思ったのだが。
「いや、なんだか片思いみたいじゃない、そのルール」
遥香に否定された。なぜだ。
「えー、もうこれでよくない?あとポッキー食べられる人増えるし!」
「それが目的か?!」
別にそういう理由では無いのだが。まあ、ポッキーが食べなくないわけでも無いのだけれど。
「じゃー!ルールも決まったことだし、早速始めよー!いつも通り、私からね!......これは私の友人が体験した話なのですが......」
「ちょ、ちょっと!」
***
私は、優勝を狙うべく1番の自信作を発表する。実は毎回、何本か話を用意してきているのだ。そして、今回発表するのははその中でも最も上手く作れた所謂虎の子。絶対に優勝するんだ!いつもそう願って語っているのだが、今回はもっと気合いが入っている。優勝者と、1番怖がっていた人がポッキーゲームをすると聞いたその時から、私は今回だけは絶対に優勝しなければならないと感じた。......そして、香織を怖がらせないといけない。これは、チャンスなのだ。
「.....と諦めたところで目が覚めた。友人は、やっぱり、あの時見たリアルな夢の続きになっていると......」
私は、香織に片想いをしていた。いつから好きなのか、どうして好きになったのかはもう覚えていない。ただ、香織は女の子にしては短い髪なので、滑らかな肌と首が良く見え、ドキドキしてしまう。そんな彼女とポッキーゲーム......つまり、キスが出来るチャンスを、逃してはいけない。私は、香織が1番苦手な分野の物語を持ってきた。香織は怪談慣れしているので、在り来りな話では怖がってくれない。ただ、私はそこまで発想力がある訳でもないので、何かしら工夫が必要だった。そう。香織は夢で怖い体験をすると言った内容にめっぽう弱い。それだけは、例え在り来りな物であったとしても、怖がってくれていた。......今までは。
「それで......ええと」
(どう、して?)
どうしてか今日は怖がってくれない。......今日に限って。どうして、今日なのだ。いや、私が力み過ぎたのか?思い返せば、緊張し過ぎて何度も噛んでしまっていた。
(......どう、しよう。)
私らしいと言えば私らしい。いつも、こうなのだ。何かをしようと思って、頑張って、絶対に成功すると思ったら、いつもよりも酷い結果になる。実に、私、らしい。
「......おしまい。」
そう言って物語の終了を告げた私の顔は非常に暗い物となっていただろう。
「あぁ、怖かったです......」
「なんというか、まさにあんt...香織の苦手分野!って話だったね」
「怖、かった」
みんなが、感想を言ってくれる。ここの展開はゾッとしただとか、あそこの言い回しが素敵だったとか。でも、そういう割には聞いている時の反応が、薄かった気がした。私の気にしすぎなのかもしれない。しかし、思わずには居られないのだ。
「じゃあ、次、私」
次は花楓が話す番。なんだか鬱々とした気分のまま私は彼女の創作怪談を聞いていた。
***
花楓の話が終わり、今は遥香が語ってくれている。なんだか、2人とも上手くて嫌になってきた。こうも虚ろな気分になるのは、聞いている内容が怪談だからかもしれない。しかし、いつもなら目を輝かせて聞いていた怪談が逆に私の負担になっていると気づいて、私は更に鬱々とした気分になってしまうのだった。
「終わりっ!」
「あああ!そういうことかあ!!」
「衣織、声大きい!」
それでも、こんなにも明るく振る舞える、いや、振舞ってしまう私は、もはや1種の才能なのでは?と考えていた。
「ラスト、私です!」
......香織の番だ。私は考えた。ここで、わざとビビり散らかせば、私が1番怖がっていた人になれるのではないか?と。香織の話はいつも凄いので、きゃあきゃあ言っていても違和感は無いだろう。......と、思っていた時期か私にもありました。香織は何故か、今日に限ってよくある話を持ってきた。私の心は香織とポッキーゲームしたかったと言う嘆きと、純粋に私が楽しみにしていた彼女の作品があまり面白くない喪失感でいっぱいになっていた。でも、それでも、最後の悪あがきくらいはする権利があるのでは無いか。私は最後の希望に賭けてきゃあきゃあと怖がる。
「......以上です」
「ああああああ怖がっだ......」
「弟が後ろにいた時は本当にビックリしたー!」
「こわい...」
私は涙目になりながら何処が怖かったか話す。結構、遥香と花楓も怖がっていたようなので、もしかして私がきゃあきゃあと騒いでいたのは、実はあまり浮いていなかったのでは?と安堵する。
「じゃあ、優勝者と、1番怖がっていた人だけど......」
「もう優勝者香織で良くない?」
「私からすれば、1番怖がっていた人があんたで良くない?って感じだけどね......」
「たし、かに......」
「私もそう思います」
「じゃあ、罰ゲームは衣織ね」
「うぐっ」
私はこのままの勢いで、香織の優勝を提案する。......そしたら、何故か私の罰ゲームが確定してしまった。いや、先程までそれを狙っていたのだし、作戦通りなのだが、こうもすんなりと決まるとこちらとて不服なものだ。つい、「いや、演技だから!」とか言い訳しそうになってしまう。
「優勝者はどうしますか?」
「...香織」
「うん、そうね。あんだけ衣織がビビってたくらいだし......異論ないわ!」
「じゃあ、私が優勝者ですか?!嬉しいです!」
なんだかんだ、香織とポッキーゲームが出来るらしい。香織は自然な動きで、ポッキーの箱と袋を開封する。これからポッキーゲームをすると言うのに、一切の動揺を見せていない。やっぱり、そういった意味での意識は全くされていないのだなあと改めて感じ、悲しくなる。ネガティブ過ぎる思考回路は良くないとは思っているのだが、性格とはなかなか変わらないものだ。仕方がない。
「それでは、衣織さん、よろしくお願いいたします。」
「はっ、はい!」
ああ、こんなにも不自然な返事をしてしまえば、何か思われてしまうではないか。香織に嫌われるのだけは嫌だなあ。そんな風にどんどんと暗い方向へと進んで行った私の頭も、ほんの少しの嬉しい事で舞い上がってしまうのだから、大したものだ。
(香織と、ポッキーゲーム)
「んっ...............」
香織が小さく声を漏らす。高いとも低いとも言えないが、とても落ち着く声だった。非常に色気のあるその声に私はドギマギして、ポッキーを折ってしまいそうになる。
(あっぶなぁ......)
サク、サク、と空間には咀嚼音だけが響いていた。そのせいで余計に色々と意識をしてしまう。いっその事、花楓と遥香が「きゃああ!」とでも騒いでくれた方がマシだったかもしれない。いや、本当にそうなった所で私は恐らく花楓と遥香に内心怒るのだろうが。まあ、そんな事を考えた所で2人があまり人を茶化すようなタイプの人間では無いということは長年の付き合いで分かりきっている事だ。ただ、この静寂が辛いだけである。
(今更気づいたけど、これってかなり恥ずかしい事なのでは)
私は気づくには遅すぎる事を考える。香織はそれに気づいているだろうか?なんとなく悪いと思って瞑っていた目を開けると、そこには少し頬を赤らめ、それでも尚真剣な瞳の香織が居た。顔を見てしまっては、余計に緊張してしまう。もう何も考えずに今を楽しもう。きっと、それが1番だ。
「ふっ..................んん...............」
香織の艶かしい声にも、もう一々ドキドキビクビクする事も無いのだ。そう。恋人にでもなったつもりで......今を楽しむ。ただ、それだけ。私はそう必死に言い聞かせた。でも。
(いやいやいや!無理だあ!)
やっぱり、意識しないなんて事は無理だった。香織を気にしないとなると、今度は自分が気になる。気持ち悪い声を出していないかどうかだとか、髪の毛が乱れていないかどうか。そんな事こそ、気にしてもしょうがない事だと分かっているのにも関わらず。
(息が、当たる)
やっぱり、自分に意識を向けるよりは目の前の香織を見た方が何倍も良いだろうと、私は彼女の事を考える。すると、今まで気づいていなかったが、微かに息が自分に掛かっている事に気づいた。それだけ顔が近いのだろう。私はもう一度、目を開く。
(あ......)
あと少し、だった。もうポッキーは大分短くなっていて、このまま行くと唇が当たってしまうのではないかとか思ってしまうくらい。私は少し躊躇って、ポッキーを食べ進めるのを少し休んだ。でも、「ええい、ままよ!」と謎の勢いを発し、もう一口、二口とポッキーを食べる。相変わらず、部屋にはポッキーを噛む音が響いていた。
(やばい.........)
他に何か良い表現は無いのかと言われそうだが、もう本当に「ヤバい」しか出てこなかった。本当に、あと、1口、いや、1口すら無いのではないかと言うくらい、顔が近ずいていた。緊張なんてものでは言い表せないくらい、動揺していた。こんな時にでも出てくるとは、「やばい」とは全く、便利な言葉である。
(やばい、本当にやばい......!)
そう、心の中が、大騒ぎ、パニック状態になった時。不意に大きくサクッと音がして、口元の熱が遠ざかった。香織が、"︎︎寸前”で唇を離したのだ。
(あ............。まあ、友達だもんね。仕方がない、かあ)
私は、突然離れた熱に戸惑いながらも、理由を見つけ、自分で自分を納得させる。どこか、寂しいと思ってしまうのは秘密だ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
小さくペロッと舌を出して挨拶をする香織に、遥香が返事をする。その小さな仕草ひとつにも色気を感じてしまうのだから、恐ろしいものだ。
「……衣織さん、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ……」
「あの、美味しかったです。」
「それは良かった……」
「はい……」
「……」
「えっと……」
私たちの間に、気まづい空気が流れる。恋人同士のそれとは程遠い、「どうしていいか分からない」気まづさだ。だが、そんな空気をぶち壊すのは、いや、ぶち壊してくれるのは。
「あれ、ポッキー、食べ過ぎた......」
今回も例に漏れず小さな声だったが、しんと静まり返っていたこの空間では、彼女の声は寧 ろうるさいくらいによく聞こえた。
「あっ、ちょっと!ポッキー減ってるじゃない!しかも、1、2、3、4、5、6、7、8、9、、7本も!!」
「......私は、知らない」
「いや、どう考えても、あんたじゃない!」
「違う。きっと、幽霊が食べた......」
「はあ......もういいわ。でも、この短時間に7本も食べるとは逆に凄いわね......」
「どや」
「反省の色、ゼロ!いや、最早マイナスだわ!」
今回ばかりは雰囲気クラッシャーこと花楓に感謝を言おう。いつもは壊して欲しくない明るい雰囲気を突拍子も無い発言で破壊の限りを尽くしてきているが、今回は壊した方が良い雰囲気だった。
「マイナスとは......?」
香織が尋ねる。確かに、反省の色がマイナスとは、分かりにくい表現だなあと私も思った。と言うか、分からない。
「いや、反省していないどころか、誇りに感じてるって事よ!」
「あっ、なるほど?」
そういう表現もあるのか、と私は何故か疑問形で納得を伝える。ほうほうと、私が関心していると、おもむろに花楓が口を開く。
「ねえ」
「何よ」
少し突っぱねるように遥香が返事をする。ポッキーを1人でムシャムシャと食べた事を未 だ根に持っている様だ。いや、まだと言うか、もう許していたら遥香は大分寛容な女性ということになる。それを態度に表すかは別として、おおよその人はこの短時間でそれを許せはしないだろう。自ら話しかける事が少ない花楓にはもう少し優しくしてやって欲しいとは、思わなくも無いのだが。......はて、そんな花楓が話しかけるなど、一体どんな内容の話が続くのだろうか?ちょっと気になって私は花楓に注目する。
「時間」
「あっ」
あれから、怪談話を始めてから、何分経っただろうか。いつもはあんなに気をつけていたのに、今日はすっかり抜けていた。とにかく、早く教室に戻らないと色々とまずい。濃い昼休みだった、と私は頭の片隅で考えながら、猛ダッシュで階段を駆け上がるのだった。
***
あれからと言うもの。クラスメイトの視線に耐えながら教室へと入り、授業を受ける......振りをしながら放心をしていた。こんな精神状態ではマトモに脳みそが働かなかったのだ。仕方がないと言えば仕方がないのだが、ちょうど5時間目が私の苦手な物理基礎だったので、反省をしなければならない。私にとって物理は1回の授業がとても大切なのだ。1回、授業を受けないだけでもう訳が分からなくなってしまう。
「つっっかれた.........」
誰に聞かせる訳でもなく独り言を言う。本当に、濃い1日だった。火曜日は部活が休みの日なので、今日はもうさっさと帰ろう。いや、靴箱前でみんな、花楓たち3人を待たなければならない。一緒にいるのはたった駅までの距離だが、いつも一緒に帰っているのだ。勝手に1人で帰ったとすれば、きっと怒られるだろうし、何よりも迷惑をかける。それでも、なるべく早く帰りたくて、私はショートホームルームが終わるとパタパタと先生に叱られない程度の早さで廊下を走り、階段を降るのだった。
***
「......お待たせ」
靴箱前に集まった私、香織、遥香の3人は、なかなかやってこない花楓を待っていた。花楓の担任の話はどうやらいつも長くなるらしい。先程までは帰りたい帰りたいと必死だった私も、「そう言えば焦っても花楓が居るんだったな」と自分で自分に突っ込みを入れた。ただ、香織達とどうでもいい話を繰り広げている内に、そんな気持ちはとうに薄れていた。
「やっと来たわね!花楓!」
漸く来た花楓に対して明らかに遥香が嬉しそうにした。そして、自分がはしゃいでいることに気づき、突然我に返ったように「えっと」と口篭り、恥ずかしがる。そんな彼女に花楓が「嬉しい?だったら、嬉しい」と語彙力の低い言葉でからかうものだから、余計に遥香は顔を赤らめ、軽いパニックになる。恐らく弁解をしようとしているのだが、どうしても逆効果になっていた。
「じゃあ、全員揃った事ですし、帰りましょうか。......遥香さん、花楓さん、帰りましょうよ」
「「はーい」」
香織が遥香と花楓がしているトムと●ェリーみたいな追いかけっこに終止符を打つ。本当にありがたい。私でもどうにも出来なかったこの追いかけっこを軽々と止めてみせるのだから本当に凄い。2人は当たらないように暴力を振るっているのだが、私が介入することによって本当に叩いてしまうのではないかと不安になって外からオロオロすることしか出来なかった。何度も言うが、その分香織は本当に凄いのだ。そんな風に関心をしていると、香織が耳元でなにか囁いてきた。
「あの、今日って忙しいですかね?」
そんな誘い文句みたいなセリフを耳元で囁かれ、私はドキッとしてしまう。今日、忙しくなかったら何があるのだろうか。たしかに、早く帰りたがっていたのだが、予定がある訳ではなく、ただの気分なので「忙しくなかったら」に非常に心惹かれた。
「何も無いよ」
忙しいか忙しく無いかを聞かれているにしては少しおかしな回答をした私に、「良かったです」と香織は微笑んだ。さて、私たちは一緒に帰ると言っても、所詮は駅まで。私と遥香はホームも降りる駅も同じなので良いが、花楓は高校に上がるタイミングで引っ越したらしく、乗り場が違う。香織に至ってはそもそも電車に乗らないらしい。学校のすぐ近くに家があるのだが、1人で帰るのは寂しいからと駅まで着いてきてくれている。まあ、そんな訳で4人が揃っていられるのは結構短いのだ。あと少しで駅に着いちゃうなあ、寂しいなあと考えていたところでまた、香織が耳元で囁く。心臓に悪いので辞めて欲しいが、それを言ってしまうのは勿体ないなあとか思った。
「えっと、その、嫌じゃなければ、で良いのですが......」
何やら口篭もった様子で話す。小さい声を出そうとして少し掠れた声になっているのが心地よい。これが立体音響、ASMRという物なのか。
「私の家に、少し、寄っていってはくれませんか」
「?!」
香織のあまりに衝撃的なお願いに私は少しフリーズする。そして、
「あっ、えっと、分かった!」
声を小さくするのも忘れて、了承するのだった。声が大きいせいで、遥香たちに内緒話をしていたのがバレてしまう。
「急にどうしたのよ?!」
「こそこそ話、してた」
いや、花楓にはとうの昔に気づかれていたらしい。
「ああ、衣織さんに少し用がありまして......私の家に寄っていって欲しいとお願い申した所です。」
「ああ、なるほど......急に声を出すものだから何事かと思ったわよ......」
「思った......」
いや、花楓は絶対思っていないだろうと内心突っ込みを入れつつも、私たちの会話内容、そして内緒話をしていた2人に寛容だった事に感謝をする。
「でも、そうね、今日は途中から1人で帰らなきゃならないのね......」
寂しいわ、と遥香が珍しく素直に言葉を放つ。確かにそうだ。私も、香織と離れてからは1人で帰らなくてはいけない。少し寂しいな、と遥香に同意する。そんなこんなを話していると、そんなこんなで駅まで着いてしまった。
「じゃあ、衣織さんは私と。それでは、また明日会いましょう!」
「またねー!」
私はまたねと挨拶をする。それに対して2人は返事をしてくれた。当たり前と言えば当たり前なのだが、そんな当たり前が暖かく感じる。
「はーい!また明日」
「またの」
***
さて、たった今気づいたが、私は今好きな人と2人っきりで下校すると言う何とも乙女ゲームなイベントが発生しているのだ。緊張なんてものじゃない。ただ、それを誤魔化して普通に振る舞えてしまう自分に恐れおののいた。中学生の頃、誰かに恐れおののかれる事を夢見ていたが、まさかこんな形で叶うとは思いもしなかった。昔の私は喜んでくれているだろうか。いや、喜ぶわけが無いな、と脳内は色々と忙しくなりながらも、香織と2人っきりの空間を楽しむ。
「この間、夜中の1時位に携帯でホラー小説を読んでいまして」
「夜中に?!」
「はい。怖いな、怖いなとビクビクしながら読んでいたのです。で、そうして怖がっていたら、急に携帯の画面が真っ暗になったんですよ」
「えっ、、えっ?!」
「そして、怖い音もなり始めたんです。私、本当に怖くて、携帯を放り投げて閉まったんです。」
「うんうん」
「本当に怖かったんです。なぜなら、丁度読んでいたホラー小説の内容が、︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎電波を介して呪われる” と言った内容だったんですよね。」
下校中でも、私たちは怪談話をしていた。しかも今回は体験談である。
「もしかして、呪われてしまったのでは無いか。そんな嫌な予感が頭をよぎった時。」
私はゴクリと唾を飲む。
「地面が揺れだしたんですよ。......地震警報、怖いです!!」
「あああ!良かったあああ!なるほどねー!地震警報!!そういう事かあ!」
秀逸なそのオチに、私は歓喜を上げる。それにしても、ホラー小説を読んでいる時に地震とは、なんともバッドタイミングである。
「あっ、着きました」
「?」
「ここが、私の家です」
どうやら話している内に香織の家に着いたらしい。時間とは早いものである。それはそうと、香織の家は凄く立派で、なんと言うか、日本家屋だった。
「わぁ……すごい……」
「ふふっ、ありがとうございます。ささ、どうぞ中へ」
「お邪魔しますっ!」
香織の後に続いて、玄関を潜る。するとそこには
「あらまあ……こんにちは」
「?!?!」
着物を着た綺麗な女性がいた。突然の登場に驚く私を見てか、香織は少し微笑みながら女性に私を紹介する。
「この方が、私がいつもお世話になっている方ですよ」
「初めまして。衣織さんですね?私は香織の母です。いつも香織をありがとうね」
「お母さん、衣織さんを私の部屋に上げても良いですか?」
香織が母親に許可をとると、私を家の中へ上げてくれる。香織の部屋は2階らしい。階段を上がり、部屋へ入る。
「……」
彼女の部屋は、一言で言うならば和風だった。和箪笥に掛け軸。そして畳。思わずキョロキョロと辺りを見回してしまう。
「何か気になるものがありますか?」
「いえ、大丈夫です。素敵なお部屋だなって思って」
素直に感想を言うと、彼女は少し照れたように頬を赤く染めた。可愛い。
「そうだそうだ、用ってなあに?」
「ああ、それはですね......」
私は自分がここに来た理由を尋ねる。香織では有り得ないとは思うが、話が脱線する前に、聞いておかなければ。そう、私がちょっと真面目になった時。
「......?」
ふに、と唇に柔らかいものが当たる。なんだろう。そう考えるのだが、私がそれを理解するのは一瞬だった。
「えっ、ええ?!」
キス、をされたのだ。しかも、香織に。私は頭が真っ白になる。
「ん......キスをしている時の衣織さんを、2人に見せたくなくて......」
少し俯いて香織が言う。見えにくいが、目が潤んでいて色っぽい。
「見せたくないって、ええ?!」
いまだに脳の理解が追いつかない私を香織は優しく抱きしめる。人の体温とはここまで温かいものだっただろうか。そして、香織の綺麗な黒髪が頬に当たってドキドキする。
「お昼の続きです。......衣織さん、分かりやすすぎるんですよ。」
「ポッキーゲームの、続き」
「貴方、私とポッキーゲームをしたかったのでしょう」
いつバレたのだろうか。確かに、香織とポッキーゲームをしたかった。あの時、わざとらしく怖がりすぎたのだろうか。それとも、明らかに香織狙いなチョイスの創作怪談が良くなかったのだろうか。私の頭はそんなことでグルグルする。
「あっ、衣織さん、いつバレたのかを考えていますね!......そんなの、最初からですよ。」
「最初......から?香織、私が、香織の事を好きって......分かって......」
「私二学期の初めくらいから、貴方が私の事を好きだって、気づいていたんですよ?そして、今日、ポッキーゲームの提案をした私に、1番に賛成をしてくれた。」
「あ......」
「自惚れだと、自分が嫌になったこともありました。......私、結構悩んでたんですよ?」
創作怪談のチョイスでも、わざとらしすぎたのでもないと知って、少し恥ずかしくなる。
「香織」
「はい」
「悩んでくれて、ありがとう」
「私も、好きになってくれて、ありがとうございます。私も、貴方を、衣織さんの事をお慕いしております……」
そうして、暫く私たち2人は香織の部屋で抱きしめあっていた。
***
「ねえ、香織」
「?」
「私たちってもう、恋人同士って言うそれよね?」
「ふふっ、そうなりますね。......うう、改めて言うと、小っ恥ずかしいものです......」
暫く抱きしめあっていた後、一応の確認をする。香織が照れたように同意してくれた。本当に、恋人同士になったのだなあと改めて感じ、照れくさい。その後、私たちは色々な話......いや、やっぱり怪談話ばかりをして、ほんのひとときの二人きりを味わう。恋人同士になったのだから、これからはもっと二人の時間も増えるだろうが、時間を大切にするに越したことはない。
***
そうして30分程話した後、私たちは玄関でまた明日と言い合うのだった。先程までのイチャイチャのおかげで、一人で帰るのがとても寂しい。でも、香織と恋人同士になれた代償としては、安すぎるものだろう。私たちは、これからも変わらない日常を送っていくのだろうが、それでも、恋が実った事で見え方は変わるだろうか。ほんの小さな青春を、私は謳歌しようと決めたのだ。
❦ℯꫛᎴ❧
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「でもさー」
口を開いたのは遥香。つっけんどんとしていて取っ付きにくいが、仲良くなってみると良いストッパーとなった。このメンバーの唯一のマトモ枠である。
「ずっと思ってたんだけど、ここで集まるのってどうなのよ」
「でも、ここあんまり人目に付かなくて良いんだけどな」
「......その理由だと、あんたが何か変な事しようとしてる様に聞こえるわよ」
確かに、こんな所で集まるのは......とは考えた事がないわけではない。なんにせよ、ここは調理室の真ん前である。いや、正確には調理室の扉の横、なのだが。私たちが通っているこの学校の、この区画は少し特殊な造りになってある。廊下の突き当たりに調理室があり、そこから左は、廊下の続きのようなちょっとしたスペースがある。直ぐにそのスペースは無くなっていて、昔あった廊下の名残りなのかな、なんて思っていたりした。
「......変な、事...............」
「まあ、人に聞かれるのは良くないですね」
「まあ、それはそうなんだけどさ」
と言うのも、私たちは、いつもこの場所で怪談をしていた。ヨーロッパで実際にあった怖い話から、自分自身の体験談、果てはネットで流行った迷信まで。最近は怪談を捏造して、どれが1番怖かったか選手権等をやっている。
「そっ!そうだよ!苦手な人もいるしね!」
私は香織の「人に聞かれるのは良くない」という言葉に全力で賛成する。実を言うと動きたくないだけなのだが、ここは香織の意見に賛成して置いた方が円滑に話が進むだろう。いや、わざとらしすぎて逆に怪しまれたりはしないだろうか。私は今更そんな事が不安になってくる。
「まあ、一理、あるけど。」
そうちょっと冷たい言い方で意見を受け入れる遥香に、花楓がこくこくと無言で頷く。花楓はあまり喋るのが得意な方では無い。怪談話をしている時も、淡々とした語り口調で話を進める。変に怖がらせようと口調や話し方を変えていないので、ちょっと特殊な雰囲気で怪談話を味わうことが出来る。ひたすら冷たい声で怖い話が続くのは未だに私でも慣れない。
「......話が一段落ついたところで、いつもの怪談話を始めませんか?」
キラキラとした目で提案してくるのは香織。実は初めに怪談話をしようと誘ってきたのは香織なのだ。どうやら家がとても厳しいらしく、刺激のある娯楽に飢えているのだとか。そこでミステリー小説を読み漁った結果、何故か怪談にハマったらしい。ちなみに、香織が敬語で話しているのもその家庭に関係があると5月くらいに言っていた。
「怪談」
ポツリと花楓が呟く。小さな声だったが、花楓の目もまた、キラキラしている。この子も大の怪談好きなのだ。しかし、この子は人と人では無いものの関係性にワクワクするタイプなので、あまり怖い話自体は好きでは無いらしい。......が苦手でも無いらしい。
「そうだね!始めよー!怪談!」
「テンション高すぎよ、あんた......」
「皆さん、物語は用意してきましたか?今日は創作怪談選手権の発表の日です!......私のは正に傑作ですよ!」
「私、も」
毎週火曜日は例の、怪談を捏造して、どれが1番怖かったか選手権、もとい、創作怪談選手権の発表の日である。何気にこの日が楽しみで、私が火曜日に学校へ来たい理由の一つとなっていた。
「あっ、それについてなんだけど」
「ほう、何かね遥香クン!......痛あっ!」
私は左手を顔に当て、右手を遥香に向かって伸ばし、いかにもと言った声色で喋った......ら、右手を遥香にはたかれた。
「......それについてなんだけどさ、今日ってポッキーの日じゃない?私、ポッキー1箱持ってきたの。優勝者には景品としてこれをあげる......ってのはどう?」
「良いね!賛成!」
「景品ですか......!」
私と香織は二つ返事だった。が。
「罰ゲーム......」
花楓がぽつりと小さな声でつぶやく。相変わらずの声量だが、私たちは既に慣れているので、容易に聞き取れた。
「景品、より、罰ゲームの方が、良い。」
そして、別案として出してきた提案が罰ゲームとはまた花楓らしい。そして罰ゲームなんてこれまた物騒な提案をした人のお目目は、実にキラキラとしている。
「罰ゲームー?ポッキーをどう罰に使うのよ」
「1番、怖がっていた人、に、それ食べさせる」
「罰になっていないような気がします......」
「じゃあ、優勝者にも、それ食べさせる」
「皆で仲良くポッキー食べてるだけじゃね?」
「食べられなかった人、悲しむ」
「流れ玉!!」
つまり、花楓のルールで行くと罰を受け悲しむ人は優勝者出来なくて、さらに他の人の怪談にもビビらなかった人という事になる。これは罰ゲームなのか?
「はっ、私、今いい事思いつきました!ポッキーと言えばポッキーゲーム!優勝者と、1番怖がっていた人でポッキーゲームをするのです!」
「おおー!そしたら、優勝者はポッキーを食べられて嬉しい、怖がっていた人はポッキーゲームをさせられて悲しい!......香織、天才?」
「それほどでもあります!......衣織さん、褒めて下さり光栄です。」
ふざけた後にしっかりと真面目な言い方をするあたり、実に香織らしい。それにしても、これは実に良い案だ。実際、花楓もそれで良いみたいだし、もうこれでいいんじゃないか、と思ったのだが。
「いや、なんだか片思いみたいじゃない、そのルール」
遥香に否定された。なぜだ。
「えー、もうこれでよくない?あとポッキー食べられる人増えるし!」
「それが目的か?!」
別にそういう理由では無いのだが。まあ、ポッキーが食べなくないわけでも無いのだけれど。
「じゃー!ルールも決まったことだし、早速始めよー!いつも通り、私からね!......これは私の友人が体験した話なのですが......」
「ちょ、ちょっと!」
***
私は、優勝を狙うべく1番の自信作を発表する。実は毎回、何本か話を用意してきているのだ。そして、今回発表するのははその中でも最も上手く作れた所謂虎の子。絶対に優勝するんだ!いつもそう願って語っているのだが、今回はもっと気合いが入っている。優勝者と、1番怖がっていた人がポッキーゲームをすると聞いたその時から、私は今回だけは絶対に優勝しなければならないと感じた。......そして、香織を怖がらせないといけない。これは、チャンスなのだ。
「.....と諦めたところで目が覚めた。友人は、やっぱり、あの時見たリアルな夢の続きになっていると......」
私は、香織に片想いをしていた。いつから好きなのか、どうして好きになったのかはもう覚えていない。ただ、香織は女の子にしては短い髪なので、滑らかな肌と首が良く見え、ドキドキしてしまう。そんな彼女とポッキーゲーム......つまり、キスが出来るチャンスを、逃してはいけない。私は、香織が1番苦手な分野の物語を持ってきた。香織は怪談慣れしているので、在り来りな話では怖がってくれない。ただ、私はそこまで発想力がある訳でもないので、何かしら工夫が必要だった。そう。香織は夢で怖い体験をすると言った内容にめっぽう弱い。それだけは、例え在り来りな物であったとしても、怖がってくれていた。......今までは。
「それで......ええと」
(どう、して?)
どうしてか今日は怖がってくれない。......今日に限って。どうして、今日なのだ。いや、私が力み過ぎたのか?思い返せば、緊張し過ぎて何度も噛んでしまっていた。
(......どう、しよう。)
私らしいと言えば私らしい。いつも、こうなのだ。何かをしようと思って、頑張って、絶対に成功すると思ったら、いつもよりも酷い結果になる。実に、私、らしい。
「......おしまい。」
そう言って物語の終了を告げた私の顔は非常に暗い物となっていただろう。
「あぁ、怖かったです......」
「なんというか、まさにあんt...香織の苦手分野!って話だったね」
「怖、かった」
みんなが、感想を言ってくれる。ここの展開はゾッとしただとか、あそこの言い回しが素敵だったとか。でも、そういう割には聞いている時の反応が、薄かった気がした。私の気にしすぎなのかもしれない。しかし、思わずには居られないのだ。
「じゃあ、次、私」
次は花楓が話す番。なんだか鬱々とした気分のまま私は彼女の創作怪談を聞いていた。
***
花楓の話が終わり、今は遥香が語ってくれている。なんだか、2人とも上手くて嫌になってきた。こうも虚ろな気分になるのは、聞いている内容が怪談だからかもしれない。しかし、いつもなら目を輝かせて聞いていた怪談が逆に私の負担になっていると気づいて、私は更に鬱々とした気分になってしまうのだった。
「終わりっ!」
「あああ!そういうことかあ!!」
「衣織、声大きい!」
それでも、こんなにも明るく振る舞える、いや、振舞ってしまう私は、もはや1種の才能なのでは?と考えていた。
「ラスト、私です!」
......香織の番だ。私は考えた。ここで、わざとビビり散らかせば、私が1番怖がっていた人になれるのではないか?と。香織の話はいつも凄いので、きゃあきゃあ言っていても違和感は無いだろう。......と、思っていた時期か私にもありました。香織は何故か、今日に限ってよくある話を持ってきた。私の心は香織とポッキーゲームしたかったと言う嘆きと、純粋に私が楽しみにしていた彼女の作品があまり面白くない喪失感でいっぱいになっていた。でも、それでも、最後の悪あがきくらいはする権利があるのでは無いか。私は最後の希望に賭けてきゃあきゃあと怖がる。
「......以上です」
「ああああああ怖がっだ......」
「弟が後ろにいた時は本当にビックリしたー!」
「こわい...」
私は涙目になりながら何処が怖かったか話す。結構、遥香と花楓も怖がっていたようなので、もしかして私がきゃあきゃあと騒いでいたのは、実はあまり浮いていなかったのでは?と安堵する。
「じゃあ、優勝者と、1番怖がっていた人だけど......」
「もう優勝者香織で良くない?」
「私からすれば、1番怖がっていた人があんたで良くない?って感じだけどね......」
「たし、かに......」
「私もそう思います」
「じゃあ、罰ゲームは衣織ね」
「うぐっ」
私はこのままの勢いで、香織の優勝を提案する。......そしたら、何故か私の罰ゲームが確定してしまった。いや、先程までそれを狙っていたのだし、作戦通りなのだが、こうもすんなりと決まるとこちらとて不服なものだ。つい、「いや、演技だから!」とか言い訳しそうになってしまう。
「優勝者はどうしますか?」
「...香織」
「うん、そうね。あんだけ衣織がビビってたくらいだし......異論ないわ!」
「じゃあ、私が優勝者ですか?!嬉しいです!」
なんだかんだ、香織とポッキーゲームが出来るらしい。香織は自然な動きで、ポッキーの箱と袋を開封する。これからポッキーゲームをすると言うのに、一切の動揺を見せていない。やっぱり、そういった意味での意識は全くされていないのだなあと改めて感じ、悲しくなる。ネガティブ過ぎる思考回路は良くないとは思っているのだが、性格とはなかなか変わらないものだ。仕方がない。
「それでは、衣織さん、よろしくお願いいたします。」
「はっ、はい!」
ああ、こんなにも不自然な返事をしてしまえば、何か思われてしまうではないか。香織に嫌われるのだけは嫌だなあ。そんな風にどんどんと暗い方向へと進んで行った私の頭も、ほんの少しの嬉しい事で舞い上がってしまうのだから、大したものだ。
(香織と、ポッキーゲーム)
「んっ...............」
香織が小さく声を漏らす。高いとも低いとも言えないが、とても落ち着く声だった。非常に色気のあるその声に私はドギマギして、ポッキーを折ってしまいそうになる。
(あっぶなぁ......)
サク、サク、と空間には咀嚼音だけが響いていた。そのせいで余計に色々と意識をしてしまう。いっその事、花楓と遥香が「きゃああ!」とでも騒いでくれた方がマシだったかもしれない。いや、本当にそうなった所で私は恐らく花楓と遥香に内心怒るのだろうが。まあ、そんな事を考えた所で2人があまり人を茶化すようなタイプの人間では無いということは長年の付き合いで分かりきっている事だ。ただ、この静寂が辛いだけである。
(今更気づいたけど、これってかなり恥ずかしい事なのでは)
私は気づくには遅すぎる事を考える。香織はそれに気づいているだろうか?なんとなく悪いと思って瞑っていた目を開けると、そこには少し頬を赤らめ、それでも尚真剣な瞳の香織が居た。顔を見てしまっては、余計に緊張してしまう。もう何も考えずに今を楽しもう。きっと、それが1番だ。
「ふっ..................んん...............」
香織の艶かしい声にも、もう一々ドキドキビクビクする事も無いのだ。そう。恋人にでもなったつもりで......今を楽しむ。ただ、それだけ。私はそう必死に言い聞かせた。でも。
(いやいやいや!無理だあ!)
やっぱり、意識しないなんて事は無理だった。香織を気にしないとなると、今度は自分が気になる。気持ち悪い声を出していないかどうかだとか、髪の毛が乱れていないかどうか。そんな事こそ、気にしてもしょうがない事だと分かっているのにも関わらず。
(息が、当たる)
やっぱり、自分に意識を向けるよりは目の前の香織を見た方が何倍も良いだろうと、私は彼女の事を考える。すると、今まで気づいていなかったが、微かに息が自分に掛かっている事に気づいた。それだけ顔が近いのだろう。私はもう一度、目を開く。
(あ......)
あと少し、だった。もうポッキーは大分短くなっていて、このまま行くと唇が当たってしまうのではないかとか思ってしまうくらい。私は少し躊躇って、ポッキーを食べ進めるのを少し休んだ。でも、「ええい、ままよ!」と謎の勢いを発し、もう一口、二口とポッキーを食べる。相変わらず、部屋にはポッキーを噛む音が響いていた。
(やばい.........)
他に何か良い表現は無いのかと言われそうだが、もう本当に「ヤバい」しか出てこなかった。本当に、あと、1口、いや、1口すら無いのではないかと言うくらい、顔が近ずいていた。緊張なんてものでは言い表せないくらい、動揺していた。こんな時にでも出てくるとは、「やばい」とは全く、便利な言葉である。
(やばい、本当にやばい......!)
そう、心の中が、大騒ぎ、パニック状態になった時。不意に大きくサクッと音がして、口元の熱が遠ざかった。香織が、"︎︎寸前”で唇を離したのだ。
(あ............。まあ、友達だもんね。仕方がない、かあ)
私は、突然離れた熱に戸惑いながらも、理由を見つけ、自分で自分を納得させる。どこか、寂しいと思ってしまうのは秘密だ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
小さくペロッと舌を出して挨拶をする香織に、遥香が返事をする。その小さな仕草ひとつにも色気を感じてしまうのだから、恐ろしいものだ。
「……衣織さん、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ……」
「あの、美味しかったです。」
「それは良かった……」
「はい……」
「……」
「えっと……」
私たちの間に、気まづい空気が流れる。恋人同士のそれとは程遠い、「どうしていいか分からない」気まづさだ。だが、そんな空気をぶち壊すのは、いや、ぶち壊してくれるのは。
「あれ、ポッキー、食べ過ぎた......」
今回も例に漏れず小さな声だったが、しんと静まり返っていたこの空間では、彼女の声は
「あっ、ちょっと!ポッキー減ってるじゃない!しかも、1、2、3、4、5、6、7、8、9、、7本も!!」
「......私は、知らない」
「いや、どう考えても、あんたじゃない!」
「違う。きっと、幽霊が食べた......」
「はあ......もういいわ。でも、この短時間に7本も食べるとは逆に凄いわね......」
「どや」
「反省の色、ゼロ!いや、最早マイナスだわ!」
今回ばかりは雰囲気クラッシャーこと花楓に感謝を言おう。いつもは壊して欲しくない明るい雰囲気を突拍子も無い発言で破壊の限りを尽くしてきているが、今回は壊した方が良い雰囲気だった。
「マイナスとは......?」
香織が尋ねる。確かに、反省の色がマイナスとは、分かりにくい表現だなあと私も思った。と言うか、分からない。
「いや、反省していないどころか、誇りに感じてるって事よ!」
「あっ、なるほど?」
そういう表現もあるのか、と私は何故か疑問形で納得を伝える。ほうほうと、私が関心していると、おもむろに花楓が口を開く。
「ねえ」
「何よ」
少し突っぱねるように遥香が返事をする。ポッキーを1人でムシャムシャと食べた事を
「時間」
「あっ」
あれから、怪談話を始めてから、何分経っただろうか。いつもはあんなに気をつけていたのに、今日はすっかり抜けていた。とにかく、早く教室に戻らないと色々とまずい。濃い昼休みだった、と私は頭の片隅で考えながら、猛ダッシュで階段を駆け上がるのだった。
***
あれからと言うもの。クラスメイトの視線に耐えながら教室へと入り、授業を受ける......振りをしながら放心をしていた。こんな精神状態ではマトモに脳みそが働かなかったのだ。仕方がないと言えば仕方がないのだが、ちょうど5時間目が私の苦手な物理基礎だったので、反省をしなければならない。私にとって物理は1回の授業がとても大切なのだ。1回、授業を受けないだけでもう訳が分からなくなってしまう。
「つっっかれた.........」
誰に聞かせる訳でもなく独り言を言う。本当に、濃い1日だった。火曜日は部活が休みの日なので、今日はもうさっさと帰ろう。いや、靴箱前でみんな、花楓たち3人を待たなければならない。一緒にいるのはたった駅までの距離だが、いつも一緒に帰っているのだ。勝手に1人で帰ったとすれば、きっと怒られるだろうし、何よりも迷惑をかける。それでも、なるべく早く帰りたくて、私はショートホームルームが終わるとパタパタと先生に叱られない程度の早さで廊下を走り、階段を降るのだった。
***
「......お待たせ」
靴箱前に集まった私、香織、遥香の3人は、なかなかやってこない花楓を待っていた。花楓の担任の話はどうやらいつも長くなるらしい。先程までは帰りたい帰りたいと必死だった私も、「そう言えば焦っても花楓が居るんだったな」と自分で自分に突っ込みを入れた。ただ、香織達とどうでもいい話を繰り広げている内に、そんな気持ちはとうに薄れていた。
「やっと来たわね!花楓!」
漸く来た花楓に対して明らかに遥香が嬉しそうにした。そして、自分がはしゃいでいることに気づき、突然我に返ったように「えっと」と口篭り、恥ずかしがる。そんな彼女に花楓が「嬉しい?だったら、嬉しい」と語彙力の低い言葉でからかうものだから、余計に遥香は顔を赤らめ、軽いパニックになる。恐らく弁解をしようとしているのだが、どうしても逆効果になっていた。
「じゃあ、全員揃った事ですし、帰りましょうか。......遥香さん、花楓さん、帰りましょうよ」
「「はーい」」
香織が遥香と花楓がしているトムと●ェリーみたいな追いかけっこに終止符を打つ。本当にありがたい。私でもどうにも出来なかったこの追いかけっこを軽々と止めてみせるのだから本当に凄い。2人は当たらないように暴力を振るっているのだが、私が介入することによって本当に叩いてしまうのではないかと不安になって外からオロオロすることしか出来なかった。何度も言うが、その分香織は本当に凄いのだ。そんな風に関心をしていると、香織が耳元でなにか囁いてきた。
「あの、今日って忙しいですかね?」
そんな誘い文句みたいなセリフを耳元で囁かれ、私はドキッとしてしまう。今日、忙しくなかったら何があるのだろうか。たしかに、早く帰りたがっていたのだが、予定がある訳ではなく、ただの気分なので「忙しくなかったら」に非常に心惹かれた。
「何も無いよ」
忙しいか忙しく無いかを聞かれているにしては少しおかしな回答をした私に、「良かったです」と香織は微笑んだ。さて、私たちは一緒に帰ると言っても、所詮は駅まで。私と遥香はホームも降りる駅も同じなので良いが、花楓は高校に上がるタイミングで引っ越したらしく、乗り場が違う。香織に至ってはそもそも電車に乗らないらしい。学校のすぐ近くに家があるのだが、1人で帰るのは寂しいからと駅まで着いてきてくれている。まあ、そんな訳で4人が揃っていられるのは結構短いのだ。あと少しで駅に着いちゃうなあ、寂しいなあと考えていたところでまた、香織が耳元で囁く。心臓に悪いので辞めて欲しいが、それを言ってしまうのは勿体ないなあとか思った。
「えっと、その、嫌じゃなければ、で良いのですが......」
何やら口篭もった様子で話す。小さい声を出そうとして少し掠れた声になっているのが心地よい。これが立体音響、ASMRという物なのか。
「私の家に、少し、寄っていってはくれませんか」
「?!」
香織のあまりに衝撃的なお願いに私は少しフリーズする。そして、
「あっ、えっと、分かった!」
声を小さくするのも忘れて、了承するのだった。声が大きいせいで、遥香たちに内緒話をしていたのがバレてしまう。
「急にどうしたのよ?!」
「こそこそ話、してた」
いや、花楓にはとうの昔に気づかれていたらしい。
「ああ、衣織さんに少し用がありまして......私の家に寄っていって欲しいとお願い申した所です。」
「ああ、なるほど......急に声を出すものだから何事かと思ったわよ......」
「思った......」
いや、花楓は絶対思っていないだろうと内心突っ込みを入れつつも、私たちの会話内容、そして内緒話をしていた2人に寛容だった事に感謝をする。
「でも、そうね、今日は途中から1人で帰らなきゃならないのね......」
寂しいわ、と遥香が珍しく素直に言葉を放つ。確かにそうだ。私も、香織と離れてからは1人で帰らなくてはいけない。少し寂しいな、と遥香に同意する。そんなこんなを話していると、そんなこんなで駅まで着いてしまった。
「じゃあ、衣織さんは私と。それでは、また明日会いましょう!」
「またねー!」
私はまたねと挨拶をする。それに対して2人は返事をしてくれた。当たり前と言えば当たり前なのだが、そんな当たり前が暖かく感じる。
「はーい!また明日」
「またの」
***
さて、たった今気づいたが、私は今好きな人と2人っきりで下校すると言う何とも乙女ゲームなイベントが発生しているのだ。緊張なんてものじゃない。ただ、それを誤魔化して普通に振る舞えてしまう自分に恐れおののいた。中学生の頃、誰かに恐れおののかれる事を夢見ていたが、まさかこんな形で叶うとは思いもしなかった。昔の私は喜んでくれているだろうか。いや、喜ぶわけが無いな、と脳内は色々と忙しくなりながらも、香織と2人っきりの空間を楽しむ。
「この間、夜中の1時位に携帯でホラー小説を読んでいまして」
「夜中に?!」
「はい。怖いな、怖いなとビクビクしながら読んでいたのです。で、そうして怖がっていたら、急に携帯の画面が真っ暗になったんですよ」
「えっ、、えっ?!」
「そして、怖い音もなり始めたんです。私、本当に怖くて、携帯を放り投げて閉まったんです。」
「うんうん」
「本当に怖かったんです。なぜなら、丁度読んでいたホラー小説の内容が、︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎電波を介して呪われる” と言った内容だったんですよね。」
下校中でも、私たちは怪談話をしていた。しかも今回は体験談である。
「もしかして、呪われてしまったのでは無いか。そんな嫌な予感が頭をよぎった時。」
私はゴクリと唾を飲む。
「地面が揺れだしたんですよ。......地震警報、怖いです!!」
「あああ!良かったあああ!なるほどねー!地震警報!!そういう事かあ!」
秀逸なそのオチに、私は歓喜を上げる。それにしても、ホラー小説を読んでいる時に地震とは、なんともバッドタイミングである。
「あっ、着きました」
「?」
「ここが、私の家です」
どうやら話している内に香織の家に着いたらしい。時間とは早いものである。それはそうと、香織の家は凄く立派で、なんと言うか、日本家屋だった。
「わぁ……すごい……」
「ふふっ、ありがとうございます。ささ、どうぞ中へ」
「お邪魔しますっ!」
香織の後に続いて、玄関を潜る。するとそこには
「あらまあ……こんにちは」
「?!?!」
着物を着た綺麗な女性がいた。突然の登場に驚く私を見てか、香織は少し微笑みながら女性に私を紹介する。
「この方が、私がいつもお世話になっている方ですよ」
「初めまして。衣織さんですね?私は香織の母です。いつも香織をありがとうね」
「お母さん、衣織さんを私の部屋に上げても良いですか?」
香織が母親に許可をとると、私を家の中へ上げてくれる。香織の部屋は2階らしい。階段を上がり、部屋へ入る。
「……」
彼女の部屋は、一言で言うならば和風だった。和箪笥に掛け軸。そして畳。思わずキョロキョロと辺りを見回してしまう。
「何か気になるものがありますか?」
「いえ、大丈夫です。素敵なお部屋だなって思って」
素直に感想を言うと、彼女は少し照れたように頬を赤く染めた。可愛い。
「そうだそうだ、用ってなあに?」
「ああ、それはですね......」
私は自分がここに来た理由を尋ねる。香織では有り得ないとは思うが、話が脱線する前に、聞いておかなければ。そう、私がちょっと真面目になった時。
「......?」
ふに、と唇に柔らかいものが当たる。なんだろう。そう考えるのだが、私がそれを理解するのは一瞬だった。
「えっ、ええ?!」
キス、をされたのだ。しかも、香織に。私は頭が真っ白になる。
「ん......キスをしている時の衣織さんを、2人に見せたくなくて......」
少し俯いて香織が言う。見えにくいが、目が潤んでいて色っぽい。
「見せたくないって、ええ?!」
いまだに脳の理解が追いつかない私を香織は優しく抱きしめる。人の体温とはここまで温かいものだっただろうか。そして、香織の綺麗な黒髪が頬に当たってドキドキする。
「お昼の続きです。......衣織さん、分かりやすすぎるんですよ。」
「ポッキーゲームの、続き」
「貴方、私とポッキーゲームをしたかったのでしょう」
いつバレたのだろうか。確かに、香織とポッキーゲームをしたかった。あの時、わざとらしく怖がりすぎたのだろうか。それとも、明らかに香織狙いなチョイスの創作怪談が良くなかったのだろうか。私の頭はそんなことでグルグルする。
「あっ、衣織さん、いつバレたのかを考えていますね!......そんなの、最初からですよ。」
「最初......から?香織、私が、香織の事を好きって......分かって......」
「私二学期の初めくらいから、貴方が私の事を好きだって、気づいていたんですよ?そして、今日、ポッキーゲームの提案をした私に、1番に賛成をしてくれた。」
「あ......」
「自惚れだと、自分が嫌になったこともありました。......私、結構悩んでたんですよ?」
創作怪談のチョイスでも、わざとらしすぎたのでもないと知って、少し恥ずかしくなる。
「香織」
「はい」
「悩んでくれて、ありがとう」
「私も、好きになってくれて、ありがとうございます。私も、貴方を、衣織さんの事をお慕いしております……」
そうして、暫く私たち2人は香織の部屋で抱きしめあっていた。
***
「ねえ、香織」
「?」
「私たちってもう、恋人同士って言うそれよね?」
「ふふっ、そうなりますね。......うう、改めて言うと、小っ恥ずかしいものです......」
暫く抱きしめあっていた後、一応の確認をする。香織が照れたように同意してくれた。本当に、恋人同士になったのだなあと改めて感じ、照れくさい。その後、私たちは色々な話......いや、やっぱり怪談話ばかりをして、ほんのひとときの二人きりを味わう。恋人同士になったのだから、これからはもっと二人の時間も増えるだろうが、時間を大切にするに越したことはない。
***
そうして30分程話した後、私たちは玄関でまた明日と言い合うのだった。先程までのイチャイチャのおかげで、一人で帰るのがとても寂しい。でも、香織と恋人同士になれた代償としては、安すぎるものだろう。私たちは、これからも変わらない日常を送っていくのだろうが、それでも、恋が実った事で見え方は変わるだろうか。ほんの小さな青春を、私は謳歌しようと決めたのだ。
❦ℯꫛᎴ❧
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