チョコ作り
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チョコ作り
「はー疲れた!......よし!早速つくろー!」
「ちょっと!材料、振り回さないでよね?!」
私達は先程まで店にいた。何の為かと言われると、私が急にチョコレートを作ってみたいと言い出したからだ。私は先日、恋愛小説を読み、そこでバレンタインデーのラブな展開に突発的に憧れた。今は夏。時期外れにも程がある。
「それにしても、作るのは良いけど誰かにあげるの?」
「えっお姉ちゃん、チョコ欲しいの?」
「いやそう言う訳では」
「もー!心配しなくても元から2人で食べる予定だよ!」
まあ、チョコレートを作ると言っても、板チョコを溶かして固めるだけだが。私は意気揚々と台所に立つ。
「よし!作ろう!」
私達はまず道具を洗う。洗い終わったら、キッチンペーパーで水気を拭き取る。冷たい水が心地よい。そして、買った板チョコを包丁で切ろうとする...のだが。
「えっ、かた......えっ、いや、えっ硬くない?」
「そりゃあそうよ、そんなに厚いんだから。貸して?」
香織がチョコレートを切ってくれる。代わりに、私はお湯を沸かす。
「......よし!切り終わった」
しかし、幾ら私より力が強いとは言え、やっぱり切りずらいようで、少し鋸 の様な切り方になり、粉が出る。
「...お姉ちゃん、指、貸して」
「?」
「んぅ、、ん、、えへへ、チョコ美味しい」
私は香織の指にちょっとついたチョコレートを舐めとる。特に左手についていた為、まず、左手をそっと両手で握り、そのまま指を舌先でペロッと。チラッと香織を見ると、
「もう...そんなので美味しいのなら別に溶かさなくたっていいじゃない」
「もー!作るのが楽しいんじゃん!」
香織はやっぱり何も分かっていない様で、チョコ作りを否定する。いや、少し顔を赤らめていた為、もしかすると照れ隠しかもしれない。
「はいはい、早くお湯入れてよね」
「はーい!」
「はい、これ水温計」
香織は切ったチョコレートをステンレス製のボウルに入れ、私はチョコレートの入ったボウルよりも少し大きいものにお湯を注ぐ。そしてその2つを重ね、チョコレートを溶かした。
「うう...暑い.........。ねえお姉ちゃん、エアコン付けてもいい...?」
「だめ。」
「えええ」
「......」
「じゃあ扇風機い」
「...分かったよ。」
そう言うと、香織は扇風機を持ってくる。台所の近くのコンセントが空いていて良かった、と本当に思う。もう一度言うが、今は夏。エアコンや扇風機を付けないと蒸し暑い。
「チョコ、そろそろいいかな」
「...うん、大丈夫だと思う。冷水に変えよう」
ゴムベラを上に上げると、トロトロとチョコレートが落ちる。私はお湯を捨て、冷水を入れた。もう一度ボウルとボウルを重ね、ゴムベラで少しチョコレートを冷やす。次に、テンパリングと呼ばれるらしい工程に入る。私はココアパウダーの袋を開けようとするのだが、慌て過ぎて袋を破るのを失敗した。
「ああもう...絶対やらかすと思った」
「ちょっと!絶対ってなによお!」
まあ失敗したものの、中身を全部ぶちまけたりはしなかった為、普通にボウルにココアパウダーを入れた。チョコレートをココアパウダーの粉気が無くなるまでゴムベラでクルクルと回し、その後ボウルの底のチョコレートを剥がすようにクルクルとゴムベラで掻き混ぜる。
「はい、型とコルネ」
香織がハート型の横4cmくらいの型と、いつの間にか作っていたコルネを渡してきた。私はその型にとろとろとチョコレートを注ぐ。チョコレート特有の光沢がとても可愛い。
「...可愛い」
「えっ」
香織はよく分からないと言った目で私を見てくる。しかし、香織だって昔、一番可愛い微生物はボルボックスだとかなんだとか言っていたのを私は覚えている。
「よし、後は冷蔵庫で冷やすだけだな」
「おー!完成だー!」
「いや、まだ完成では無いよ...」
「ええー!細かいなあ」
「衣織が雑なのよ」
香織は私を雑だと言いながら型に流したチョコレートを冷蔵庫に入れた。決してそんな事は無いとは思うのだが、香織から見れば私は雑らしく、そんなに雑だと彼氏が出来ないとか何だとか言ってくる。
「まあ、出来なくて良いけど。」
「えっ、ちょっとお姉ちゃっ」
香織は私の指先に軽くキスをする。
「ふふ、さっきのお返し。」
「おっ、お返しってぇ...」
「さ、手を洗おう」
私は香織に悪戯をするのは好きだが、されるのは慣れていない。不意打ちに思わず顔が真っ赤になってしまった。
「手、洗わないの?」
「うぅ...洗うの勿体ないよ」
「そんな勿体がらずとも、それくらいならまたしてあげるよ」
「...うん」
またしてくれるらしい。私はその言葉に乗って手を洗うのだが、水の感触や冷たさがよく分からない。
「さて、後1時間は暇だねえ」
「そっ、そうだね」
香織がにやにやと私を見る。これからどんな悪戯をしようか考えているのだろう。私は恥ずかしくなってきて、さっさと台所を出る。
「ふふ、可愛い、衣織。」
私は香織に後ろから抱き締められ、そう囁かれる。ひぅ、と自分でも聞いた事の無いような声を出してしまう。抱き締められているのだから、私の心臓がどきどき言っている事など既に伝わっているだろう。そう考えると、余計恥ずかしくなってくる。
「さて、何しようか?」
***
「好き!大好きだから!.........だから、もうこれ以上は」
「よく出来ました。」
香織は私の頬っぺたに軽くキスをする。あれからと言うもの。私達は1つのソファに2人で座った。そして、香織に、嘘をついたら罰ゲームねと言われ、私の事を好きかどうか聞かれる。私はパニックになって、
「いや、そんな訳じゃ!」
とか叫ぶ。すると香織に「ほー」とか言われ、擽られる 。何で擽るのか聞くと、衣織が嘘を付いたと返される。そして、私がした、私が香織を好きだと感じさせる言動をこと細かく発表される。やってないと嘘をつく度に擽るものだから、もう香織の手がこちらに来るだけで意識してしまう。そして、私は観念して、ちょっと前のセリフ、
「好き!大好きだから!」
を言うのだった。
***
「さて、そろそろ固まったかな」
「んぅえ?」
「忘れたの?チョコレート。」
香織にされた色々のせいですっかり忘れていた。どうやら私はいつの間にか、ソファの上で押し倒されている様な体勢になっていたようで、香織が私の上から退くと、少し空間が広くなったような気がして、寂しい。
「......そんなトロンとした目で見つめられると離れ難くなっちゃうじゃない」
私は一体どんな目をしていたのだろうか。でも、寂しいものは寂しい。私は起き上がって冷蔵庫からチョコを出している香織に抱きつく。
「わっ...。」
「チョコ...これどうやって出すの?」
私は香織に後ろから抱きついたまま聞いた。香織はひっくり返してお皿の上にトントンとゆっくり打ち付けると出てくるよ、と教え、実演してくれた。
「おお、凄い」
「チョコが型から出てきた時、気持ちいいんだよ、これ」
「へええ。.........ねえお姉ちゃん」
「何?」
「チョコ、食べさせて。」
まだ抱きついたままの私は、香織の肩の上辺りから顔を出し、そう言う。香織はひとつチョコレートを自分の口に運んだ後、私に食べさせてくれる。
「...美味しい?」
「.........美味しい!お姉ちゃんと作ったからかな」
「まあ、料理は得意ですので」
私達は、今日もこうして甘い1日を過ごすのだった。ただの姉妹にしては、仲が良過ぎるというものだろう。
「お姉ちゃーん」
「……はいよ」
「ふぎゃっ」
「ふふ、変な声」
私は今、香織に後ろから抱きつかれ、頬っぺたをつねられている。最近こう言ったスキンシップが多い。嬉しいけど、ちょっと困る。
「ちょっ、痛いっ……」
「ごめんごめん。はい、次はこれね」
「うぅ……」
私は差し出された板状のチョコレートを口にする。何にも手を付けていないチョコだ。私好みである。じゃあ何故先程までチョコ作りをしていたのかと問われそうだが、そこは余り深く考えないで欲しい。ちょっとした好奇心だったのだ。ところで、香織が先程から私の口元についたチョコを拭ってくれるのだが、その時に指が唇に触れてしまい、そこから身体が熱くなるのを感じる。
「衣織?」
「なっ、何でも無い!……ね、ねぇ、お姉ちゃん」
「何?」
「あのさぁ……?」
「うん」
香織は私の言いたいことを察している様だ。私がこんな事を言って良いのだろうか。
「キスって……した事ある?ほっぺたじゃなくて口へのキス」
香織の顔を見ると、明らかに動揺していた。やっぱりそうだよね、と思う反面、期待もしてしまう自分がいる。暫く沈黙が続いたあと、香織が喋り出した。
「……えっと、したことは無いかな」
香織が嘘をついているかは分からない。でも、多分本当なんだと思う。だって、私たちは姉妹だから。相手の考えている事は、なんとなく分かるのだ。
「そっか……。」
香織は私の頬っぺたを優しく撫でながら言う。
「……してみる?」
私は少し迷った後に、小さくこくりと首を動かした。
***
「……んむっ」
「ふふ、どうしたの?そんなに固くなって。もっとリラックスしなさいな」
「無理だよぉ……」
香織はキスをすると言ったものの、それは頬っぺたにであって、口にではないと思っていた。しかし、違ったようだ。いつの間にか私はソファに押し倒され、香織は覆い被さるようにして私に跨っている。じわじわと、後ろに、リビングの方に行っていることに気が付かなかった。そして、お互い目を瞑る事無く見つめ合い、ゆっくりと近づいてくる。私は思わず目を閉じると、香織が私の額にキスをした。
「えっ?」
「どう?びっくりした?」
香織はいたずらっ子の様に笑いかける。私は香織が少し遠ざかると、寂しく感じてしまう。私は香織の服を掴み、引き寄せて今度は私の方から唇を重ねた。
「……!?」
「……これでおあいこ」
「……ずるいなぁ」
私は、また一つ大人の階段を上ってしまった。
***
翌日、学校にて。こんなに暑いのに何故夏課外と言うのもはあるのだろうか。夏休みくらい、しっかり休ませて欲しいものだ。
「……はよ」
「おはようございます。……あれ、元気ないですね。何かあったんですか?」
「いや別に何もないけど」
「それなら良いですけど」
私は昨日の事が頭から離れず、授業に集中出来ない。クラスの子に心配されるくらいには動揺していたのだろう。あの後、私達は特に変わった様子もなく、いつも通り過ごした。でも、私はどこか寂しさを感じていた。
***
そのまま今日はなんだかボーッとしたまま過ごしてしまった。気を紛らわす為に、昨日の残りのチョコレートをつまんでいる。でも、このままじゃあいけない。私の頭の片隅には、そんな考えがぐるぐる回っていた。
「お姉ちゃん」
「んー?」
「私、お姉ちゃんのこと大好きです」
「ありがとう。私も好きよ。」
「……。」
お姉ちゃんは、気付いてくれない。分かってくれていない。改めて言ったこの「好き」も軽く受け流されてしまった。もうすぐ、お姉ちゃんの誕生日。その時までには告白しようと思っている。きっと、喜んでくれるだろう。ただ、私は今の関係を壊したくないのだ。それに、振られたらどうしようという気持ちもある。でも、このままではいけないとも思うのだ。
「あのさ、お姉ちゃん」
「何?」
私は意を決して言った。
「私と付き合って下さい!」
「いいよ」
「……へ?」
予想に反してあっさりとした答えが返ってきた。
「だから、いいよって言ったんだけど」
「えっ?本当に?」
「うん。何回聞くつもり?」
「だって……」
香織は呆れたように溜息をつくと、「じゃあさ」と言って続ける。
「誕生日プレゼントとして受け取っても良いかしら?私からあなたへの『恋人』としてのプレゼント」
香織はそう言って微笑んだ。
「うん!もちろん!!」
私は嬉しくなって勢いよく抱き
つく。香織は「ちょっと……」と言いながらも、受け入れてくれた。
***
衣織が「付き合おう」と言ってきた時、内心とても焦った。焦りすぎて、冷たい物言いになっていないか今更不安になる。と言うのも、私が先に言おうと思っていたからだ。しかし、衣織は私よりもずっと前から考えていたようで、受け入れる言葉はすっと口から出てきた。衣織が勇気を振り絞って言ってくれたのだ。断る訳が無い。
***
衣織と付き合い始めてから、1週間が経った。今は放課後で、2人で下校している途中である。
「お姉ちゃん、手繋ご?」
「えぇ」
私、香織は差し出された手を優しく握る。すると、衣織の方からも握り返してきた。お互いの手の感触を感じながら歩いていると、ふと思い出した様に衣織が言う。
「ねぇ、お姉ちゃん。キスしてもいい?」
「良いけど、家、帰ってからね」
「分かった!」
私は、キスしたいと言われた事に対して嫌な気はしなかった。むしろ嬉しいと思ってしまったのだ。
私たちの家に着くと、どちらともなく唇を重ねる。最初は触れるだけの軽いものだったが、徐々に深くなっていく。舌を入れられそうになったので、慌てて止める。これ以上は、まだ早いと思ったからだ。衣織は少し不満そうな顔をしていたが、私は気にしない。
「……そろそろ、夕飯の準備をしよう」
「はーい」
私たちは部屋を出て、キッチンに向かう。そこで衣織の足が止まった。
そして、衣織は後ろを振り返る。
私は不思議に思って声をかける。
すると、衣織は笑顔になってこう言った。
「大好きだよ、お姉ちゃん」
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「はー疲れた!......よし!早速つくろー!」
「ちょっと!材料、振り回さないでよね?!」
私達は先程まで店にいた。何の為かと言われると、私が急にチョコレートを作ってみたいと言い出したからだ。私は先日、恋愛小説を読み、そこでバレンタインデーのラブな展開に突発的に憧れた。今は夏。時期外れにも程がある。
「それにしても、作るのは良いけど誰かにあげるの?」
「えっお姉ちゃん、チョコ欲しいの?」
「いやそう言う訳では」
「もー!心配しなくても元から2人で食べる予定だよ!」
まあ、チョコレートを作ると言っても、板チョコを溶かして固めるだけだが。私は意気揚々と台所に立つ。
「よし!作ろう!」
私達はまず道具を洗う。洗い終わったら、キッチンペーパーで水気を拭き取る。冷たい水が心地よい。そして、買った板チョコを包丁で切ろうとする...のだが。
「えっ、かた......えっ、いや、えっ硬くない?」
「そりゃあそうよ、そんなに厚いんだから。貸して?」
香織がチョコレートを切ってくれる。代わりに、私はお湯を沸かす。
「......よし!切り終わった」
しかし、幾ら私より力が強いとは言え、やっぱり切りずらいようで、少し
「...お姉ちゃん、指、貸して」
「?」
「んぅ、、ん、、えへへ、チョコ美味しい」
私は香織の指にちょっとついたチョコレートを舐めとる。特に左手についていた為、まず、左手をそっと両手で握り、そのまま指を舌先でペロッと。チラッと香織を見ると、
「もう...そんなので美味しいのなら別に溶かさなくたっていいじゃない」
「もー!作るのが楽しいんじゃん!」
香織はやっぱり何も分かっていない様で、チョコ作りを否定する。いや、少し顔を赤らめていた為、もしかすると照れ隠しかもしれない。
「はいはい、早くお湯入れてよね」
「はーい!」
「はい、これ水温計」
香織は切ったチョコレートをステンレス製のボウルに入れ、私はチョコレートの入ったボウルよりも少し大きいものにお湯を注ぐ。そしてその2つを重ね、チョコレートを溶かした。
「うう...暑い.........。ねえお姉ちゃん、エアコン付けてもいい...?」
「だめ。」
「えええ」
「......」
「じゃあ扇風機い」
「...分かったよ。」
そう言うと、香織は扇風機を持ってくる。台所の近くのコンセントが空いていて良かった、と本当に思う。もう一度言うが、今は夏。エアコンや扇風機を付けないと蒸し暑い。
「チョコ、そろそろいいかな」
「...うん、大丈夫だと思う。冷水に変えよう」
ゴムベラを上に上げると、トロトロとチョコレートが落ちる。私はお湯を捨て、冷水を入れた。もう一度ボウルとボウルを重ね、ゴムベラで少しチョコレートを冷やす。次に、テンパリングと呼ばれるらしい工程に入る。私はココアパウダーの袋を開けようとするのだが、慌て過ぎて袋を破るのを失敗した。
「ああもう...絶対やらかすと思った」
「ちょっと!絶対ってなによお!」
まあ失敗したものの、中身を全部ぶちまけたりはしなかった為、普通にボウルにココアパウダーを入れた。チョコレートをココアパウダーの粉気が無くなるまでゴムベラでクルクルと回し、その後ボウルの底のチョコレートを剥がすようにクルクルとゴムベラで掻き混ぜる。
「はい、型とコルネ」
香織がハート型の横4cmくらいの型と、いつの間にか作っていたコルネを渡してきた。私はその型にとろとろとチョコレートを注ぐ。チョコレート特有の光沢がとても可愛い。
「...可愛い」
「えっ」
香織はよく分からないと言った目で私を見てくる。しかし、香織だって昔、一番可愛い微生物はボルボックスだとかなんだとか言っていたのを私は覚えている。
「よし、後は冷蔵庫で冷やすだけだな」
「おー!完成だー!」
「いや、まだ完成では無いよ...」
「ええー!細かいなあ」
「衣織が雑なのよ」
香織は私を雑だと言いながら型に流したチョコレートを冷蔵庫に入れた。決してそんな事は無いとは思うのだが、香織から見れば私は雑らしく、そんなに雑だと彼氏が出来ないとか何だとか言ってくる。
「まあ、出来なくて良いけど。」
「えっ、ちょっとお姉ちゃっ」
香織は私の指先に軽くキスをする。
「ふふ、さっきのお返し。」
「おっ、お返しってぇ...」
「さ、手を洗おう」
私は香織に悪戯をするのは好きだが、されるのは慣れていない。不意打ちに思わず顔が真っ赤になってしまった。
「手、洗わないの?」
「うぅ...洗うの勿体ないよ」
「そんな勿体がらずとも、それくらいならまたしてあげるよ」
「...うん」
またしてくれるらしい。私はその言葉に乗って手を洗うのだが、水の感触や冷たさがよく分からない。
「さて、後1時間は暇だねえ」
「そっ、そうだね」
香織がにやにやと私を見る。これからどんな悪戯をしようか考えているのだろう。私は恥ずかしくなってきて、さっさと台所を出る。
「ふふ、可愛い、衣織。」
私は香織に後ろから抱き締められ、そう囁かれる。ひぅ、と自分でも聞いた事の無いような声を出してしまう。抱き締められているのだから、私の心臓がどきどき言っている事など既に伝わっているだろう。そう考えると、余計恥ずかしくなってくる。
「さて、何しようか?」
***
「好き!大好きだから!.........だから、もうこれ以上は」
「よく出来ました。」
香織は私の頬っぺたに軽くキスをする。あれからと言うもの。私達は1つのソファに2人で座った。そして、香織に、嘘をついたら罰ゲームねと言われ、私の事を好きかどうか聞かれる。私はパニックになって、
「いや、そんな訳じゃ!」
とか叫ぶ。すると香織に「ほー」とか言われ、
「好き!大好きだから!」
を言うのだった。
***
「さて、そろそろ固まったかな」
「んぅえ?」
「忘れたの?チョコレート。」
香織にされた色々のせいですっかり忘れていた。どうやら私はいつの間にか、ソファの上で押し倒されている様な体勢になっていたようで、香織が私の上から退くと、少し空間が広くなったような気がして、寂しい。
「......そんなトロンとした目で見つめられると離れ難くなっちゃうじゃない」
私は一体どんな目をしていたのだろうか。でも、寂しいものは寂しい。私は起き上がって冷蔵庫からチョコを出している香織に抱きつく。
「わっ...。」
「チョコ...これどうやって出すの?」
私は香織に後ろから抱きついたまま聞いた。香織はひっくり返してお皿の上にトントンとゆっくり打ち付けると出てくるよ、と教え、実演してくれた。
「おお、凄い」
「チョコが型から出てきた時、気持ちいいんだよ、これ」
「へええ。.........ねえお姉ちゃん」
「何?」
「チョコ、食べさせて。」
まだ抱きついたままの私は、香織の肩の上辺りから顔を出し、そう言う。香織はひとつチョコレートを自分の口に運んだ後、私に食べさせてくれる。
「...美味しい?」
「.........美味しい!お姉ちゃんと作ったからかな」
「まあ、料理は得意ですので」
私達は、今日もこうして甘い1日を過ごすのだった。ただの姉妹にしては、仲が良過ぎるというものだろう。
「お姉ちゃーん」
「……はいよ」
「ふぎゃっ」
「ふふ、変な声」
私は今、香織に後ろから抱きつかれ、頬っぺたをつねられている。最近こう言ったスキンシップが多い。嬉しいけど、ちょっと困る。
「ちょっ、痛いっ……」
「ごめんごめん。はい、次はこれね」
「うぅ……」
私は差し出された板状のチョコレートを口にする。何にも手を付けていないチョコだ。私好みである。じゃあ何故先程までチョコ作りをしていたのかと問われそうだが、そこは余り深く考えないで欲しい。ちょっとした好奇心だったのだ。ところで、香織が先程から私の口元についたチョコを拭ってくれるのだが、その時に指が唇に触れてしまい、そこから身体が熱くなるのを感じる。
「衣織?」
「なっ、何でも無い!……ね、ねぇ、お姉ちゃん」
「何?」
「あのさぁ……?」
「うん」
香織は私の言いたいことを察している様だ。私がこんな事を言って良いのだろうか。
「キスって……した事ある?ほっぺたじゃなくて口へのキス」
香織の顔を見ると、明らかに動揺していた。やっぱりそうだよね、と思う反面、期待もしてしまう自分がいる。暫く沈黙が続いたあと、香織が喋り出した。
「……えっと、したことは無いかな」
香織が嘘をついているかは分からない。でも、多分本当なんだと思う。だって、私たちは姉妹だから。相手の考えている事は、なんとなく分かるのだ。
「そっか……。」
香織は私の頬っぺたを優しく撫でながら言う。
「……してみる?」
私は少し迷った後に、小さくこくりと首を動かした。
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「……んむっ」
「ふふ、どうしたの?そんなに固くなって。もっとリラックスしなさいな」
「無理だよぉ……」
香織はキスをすると言ったものの、それは頬っぺたにであって、口にではないと思っていた。しかし、違ったようだ。いつの間にか私はソファに押し倒され、香織は覆い被さるようにして私に跨っている。じわじわと、後ろに、リビングの方に行っていることに気が付かなかった。そして、お互い目を瞑る事無く見つめ合い、ゆっくりと近づいてくる。私は思わず目を閉じると、香織が私の額にキスをした。
「えっ?」
「どう?びっくりした?」
香織はいたずらっ子の様に笑いかける。私は香織が少し遠ざかると、寂しく感じてしまう。私は香織の服を掴み、引き寄せて今度は私の方から唇を重ねた。
「……!?」
「……これでおあいこ」
「……ずるいなぁ」
私は、また一つ大人の階段を上ってしまった。
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翌日、学校にて。こんなに暑いのに何故夏課外と言うのもはあるのだろうか。夏休みくらい、しっかり休ませて欲しいものだ。
「……はよ」
「おはようございます。……あれ、元気ないですね。何かあったんですか?」
「いや別に何もないけど」
「それなら良いですけど」
私は昨日の事が頭から離れず、授業に集中出来ない。クラスの子に心配されるくらいには動揺していたのだろう。あの後、私達は特に変わった様子もなく、いつも通り過ごした。でも、私はどこか寂しさを感じていた。
***
そのまま今日はなんだかボーッとしたまま過ごしてしまった。気を紛らわす為に、昨日の残りのチョコレートをつまんでいる。でも、このままじゃあいけない。私の頭の片隅には、そんな考えがぐるぐる回っていた。
「お姉ちゃん」
「んー?」
「私、お姉ちゃんのこと大好きです」
「ありがとう。私も好きよ。」
「……。」
お姉ちゃんは、気付いてくれない。分かってくれていない。改めて言ったこの「好き」も軽く受け流されてしまった。もうすぐ、お姉ちゃんの誕生日。その時までには告白しようと思っている。きっと、喜んでくれるだろう。ただ、私は今の関係を壊したくないのだ。それに、振られたらどうしようという気持ちもある。でも、このままではいけないとも思うのだ。
「あのさ、お姉ちゃん」
「何?」
私は意を決して言った。
「私と付き合って下さい!」
「いいよ」
「……へ?」
予想に反してあっさりとした答えが返ってきた。
「だから、いいよって言ったんだけど」
「えっ?本当に?」
「うん。何回聞くつもり?」
「だって……」
香織は呆れたように溜息をつくと、「じゃあさ」と言って続ける。
「誕生日プレゼントとして受け取っても良いかしら?私からあなたへの『恋人』としてのプレゼント」
香織はそう言って微笑んだ。
「うん!もちろん!!」
私は嬉しくなって勢いよく抱き
つく。香織は「ちょっと……」と言いながらも、受け入れてくれた。
***
衣織が「付き合おう」と言ってきた時、内心とても焦った。焦りすぎて、冷たい物言いになっていないか今更不安になる。と言うのも、私が先に言おうと思っていたからだ。しかし、衣織は私よりもずっと前から考えていたようで、受け入れる言葉はすっと口から出てきた。衣織が勇気を振り絞って言ってくれたのだ。断る訳が無い。
***
衣織と付き合い始めてから、1週間が経った。今は放課後で、2人で下校している途中である。
「お姉ちゃん、手繋ご?」
「えぇ」
私、香織は差し出された手を優しく握る。すると、衣織の方からも握り返してきた。お互いの手の感触を感じながら歩いていると、ふと思い出した様に衣織が言う。
「ねぇ、お姉ちゃん。キスしてもいい?」
「良いけど、家、帰ってからね」
「分かった!」
私は、キスしたいと言われた事に対して嫌な気はしなかった。むしろ嬉しいと思ってしまったのだ。
私たちの家に着くと、どちらともなく唇を重ねる。最初は触れるだけの軽いものだったが、徐々に深くなっていく。舌を入れられそうになったので、慌てて止める。これ以上は、まだ早いと思ったからだ。衣織は少し不満そうな顔をしていたが、私は気にしない。
「……そろそろ、夕飯の準備をしよう」
「はーい」
私たちは部屋を出て、キッチンに向かう。そこで衣織の足が止まった。
そして、衣織は後ろを振り返る。
私は不思議に思って声をかける。
すると、衣織は笑顔になってこう言った。
「大好きだよ、お姉ちゃん」
❦ℯꫛᎴ❧
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