ありふれた生活
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あれから1週間経った放課後。
「そう言えばさ、日曜日、空いてる?」
「?空いてるよ」
「えっと...その、折角 恋人同士になったんだし......どこかに遊びに行きたい、です」
私は何故か敬語で提案をする。今日は木曜日だ。先週の土日は香織の部活が本当に忙しくて、お出かけなど到底出来なかった。しかし、香織は昨日作品を完成させてくれたのだ。その完成させた当日に約束を持ち掛けられないあたり、なんとも私らしい。
「あー、先週無理だったからね...ごめん。、、うん!一緒にデートしよう!どこ行く?」
「で、でえと.......あ、えっと、どこ行こうか」
デート、と言う言葉に改めて私達は恋人同士になったと気づき、なんだか照れくさい。
「何照れてんの。こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃない」
流石、香織は何でもお見通しだ。それにしても、どこに行こうか。今までの私達と言えば、
「ねー、何話す?」
「何話そうか」
「そもそも私、会話下手くそだからなあ」
「もう話題が無さすぎて#話題募集!って付けたい」
こんな会話ばかりしていた。当然、そんな私達に行きたい場所と言われてもパッと出てくる訳もなく。
「どこ行く?」
「どこ行こうか」
「そもそも私、この辺に何があるかよく知らないからなあ」
「ネットで検索したら出てくるかも?」
なんて会話をしながら、私達は百均で買ったカードゲームで遊ぶ。
「うーん、映画は別に見たいものとか無いしなあ」
「もう普通に服でも見に行く?」
「でも、それじゃあ友達と変わらない気がする」
「友達と行くのと恋人と行くのじゃ違うかもよ...と言ってみる」
「あー...なるほど?」
***
さて、本日は私が待ちに待った日曜日である。昨日はずっとそわそわそわそわしてして、香織に笑われてしまった。でも仕方ないと思う。なぜならば何ヶ月、いやもしかしたら何年も思い続けて来た人との初デートなのだから。
「おお、イ〇ンだ!」
「えっ、そんなに、はしゃぐ事かな......」
確かに、私はこのお店に何度も来たことがあるし特段はしゃぐところでは無い。つまりは、それだけ浮かれているのだろう。しかし、それに気づかない#香織#もいかがなものか。
「......浮かれてるんだよっ」
「ふふっ、知ってる~」
私が態とらしく拗ねると、#香織#はまた、からかってくるような声色で返事をする。これは、もしかしたら私の反応を見て遊んでいるのかもしれない。そう感じた時。
「#衣織#、昨日からずーっとソワソワしてたんだもん。......楽しみだったんだよね~♪ホント、わかりやすいんだから!」
あ、こいつ確信犯だ。私はそう、確信した。#香織#が私の顔を覗き込んでくる。羞恥心でどうにかなってしまいそうだ。お願いだからやめてくれ。......でもまあ、もし私と#香織#の立場が反対だったら私も同じことをするだろう。恥ずかしがっている#香織#はきっと可愛い。なんてことをやや放心しつつ考えていると。
「えっと、ごめんね?だからさ、上、向いて......よ.......」
「......可愛いから許す」
謝られてしまった。別に私に非はないと思うのだが、#香織#に謝らせたとおもうと、心が痛い。......私たちの会話を聞いていた誰かに許した理由を突っ込まれそうだが、実際、可愛いから仕方ないのだ。そんな可愛い彼女の顔を見ようと、私は上を向く。
「やっと、上向いてくれた」
「私もごめん......」
私は何故か、謝る。香織が、本当に申し訳なさそうな表情だったからだ。別にそこまで酷い事された訳じゃないのにな。まあ、終わった話なのだからそれは一旦置いておいて、店を見渡す。この店は、色んな店が集まって出来ている店なのだ。まず目に入るのは、手芸店。布やらフリルやら、果てにはレジン道具やスパンコールなんかも置いてある。
次に目に映るのはアクセサリーショップ。ピアスやイヤリング、指輪などが売られている。そして、服屋さん。マネキンが着飾っており、可愛らしいワンピースやスカートなどが置かれている。
「あ、これ可愛い」
「んーどれ?」
私が手に取ったのは、淡いピンクのブラウスと黒いフレアスカートだ。ブラウスは胸元でリボン結びが出来るようになっており、スカートは膝丈のもので、腰の部分にベルトが付いているタイプだ。
「へぇー!良いじゃん!絶対似合うって!」
「そ、そうかな?」
香織に褒めて貰えるのは純粋に嬉しいものがある。私にしては珍しくお世辞を真に受けた。
「あっ、今、絶対お世辞だとか考えたでしょう!」
ぎくぅっ。バレていたか。お世辞などでは無いと頭の片隅では分かっているのだが、どうにもこのネガティブ思考を辞められない。デートに誘うのすら1日置いた私なのだ。察して欲しい。
「本当だって!ほら、試着室行こ!早くしないと売り切れちゃう」
「えっ、あ、うん」
私は香織に手を引かれ、試着室まで連れていかれる。なんだか、いつもより強引な気がするが、何かあったのか。......いや、何か、とはもう分かりきっていることだろう。
「それにしても、これ買うの......?」
「えっ」
なんとなく、手に取っただけのものだったのだ。まさか試着まで行くとは。
「あっ......私好みの服だったから、つい」
「......」
︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎私好み”
このたった5文字を聞いて、私は黙って香織の裾をつまみ、試着室へと向かう。いやはや、私もチョロくなったものだ。だが、それも悪くないと思っている自分がいる。
「え、ちょっ……衣織!?」
「いいから」
「……はい」
素直な香織は可愛い。普段から、この位は素直になってくれれば良いものを。......私も、香織の事を言えた義理ではないけれど。
「じゃあ……着替えるね?」
「はいよー」
私は、試着室に入ろうとして......やめた。……少しだけ、悪戯をしたくなるのは、何故だろうか。私は無防備な香織の背後に忍び寄り、抱きつく。
「ひゃぁっ……!!何すんのさ!」
「ふふん♪可愛い反応してくれるねぇ~!」
......楽しい。私は香織の賑やかな表情を見れて満足したので、大人しく試着室へ入る。店員さんの生暖かい目に少し恥じらいを覚えるものの、後悔はしていない。むしろ、清々しい気分である。
「よし……」
鏡の前で一息ついてから、ブラウスを手に取り袖を通す。すると、ちょうど良いサイズ感で、私の体にフィットする。次に、スカートを履いてみる。やはりこれも、ウエスト周りがぴったりだった。……こんなに自分の体型が分かるものなのか。私は、恐るべし、と独り事を言いながら、恐る恐るカーテンを開ける。
「どう、かな?」
「……」
「香織?ちょっと……?」
私は目の前の光景に唖然とした。香織が、顔を真っ赤にして固まっているのだ。私は心配になり、彼女の肩に手を置くと、ビクッ!と体が跳ねた。これはまずいと、私は思う。
「可愛い......」
香織の口から漏れたその一言は、私を照れさせるのには十分な程で。
「ありがとう......」
私にすら、お世辞では無いと分かる。二人して固まっていると、店員さんが生暖かい目を向けて
「......どうですか?」
と聞いてきたので、本当に恥ずかしい。もっといい表現は無いのかと言われそうだが、こんな感情は初めてなので、どう言い表せばいいのかがさっぱり分からないのだ。
「あっ、えーと、どうしよう。このフレアスカート、気に入っちゃったんだよね......生地も良いし......」
(折角だし、買おうかな)
それに、わざわざ試着までさせて頂いているのに何も買わないというのもなんだか申し訳ない。
◆◆◆
結局、フレアスカートを購入。ブラウスはまた今度買いに来るという事で。そして今は、アクセサリーショップにいる。ネックレスやイヤリング、ブレスレットなど、様々な物が置いてある。身に付けるもの以外で見るものは無いのかと突っ込まれそうだが、ショッピングと言うものはそんなものだ。そしてなにより、生まれて初めて出来た彼女にはどんなものが似合うだろうとキャッキャし合うのがとても楽しい。
「あっ!これ可愛い!」
「どれ?」
「んーっとね、この辺のヘアピン一帯……あ、これとか!」
そう言って彼女が指差したのは、小さな花のチャームが付いたシンプルなシルバーのヘアピンだ。確かに可愛らしいのだが、如何せん値段が高い。高校生のお小遣い事情を考えて欲しい。
「あー……でも高すぎるなぁ」
「うぐっ……。そっかぁ……残念」
分かりやすく落ち込む香織。こういう時は、決まって……
「ま、まあまあ!今日はとりあえず我慢して、他のところ見ようか!」
「う、うん。……ごめん」
ほらやっぱり。
「謝らないの!それに、お金なら大丈夫だよ」
「えっ?」
私はバッグの中から財布を取り出し、中身を見せる。そこには諭吉があった。高校生にしては、大金である。いや、高校生じゃなくても大金なのかもしれない。
「ど、どうして……」
「バイト頑張ってるからね」
「い、いいよ別に。私が勝手に買おうとしただけだもん」
私は香織の頭を撫でる。彼女は俯いて黙ってしまった。……怒らせてしまっただろうか。私は不安になる。
「……衣織」
「はい」
「私ね、衣織の事大好きだから」
「えっ」
突然の告白。まさかここで言われるとは思わなかった。私は驚きのあまり、手に持っていたヘアピンを落としてしまう。幸い、ヘアピンは置いてあった棚の上に落ちた。床に落とさなくて本当に良かったと思う。
「わ、分かったから……そういうのは言わなくて良いから……」
私は恥ずかしくて死にそうになる。しかし、香織は止まらなかった。
「衣織は?」
「へっ!?」
「衣織は、私の事好きじゃないの……?」
私は答えられなかった。勿論好きだし、愛している。だが、それを言葉にするのが難しいのだ。
「ねぇ……」
「す、きだけど……」
「けど?何?」
「は、恥ずかしいから……」
すると、香織はニヤリと笑って、こう言った。
「じゃあさ、今度のデートの時に聞かせてよ!」
私はその発言に面食らう。つまり、次回、私の気持ちを伝えろという事だろう。私は香織に言われた言葉を反芻する。
「む、無理だって……」
「良いじゃん!絶対聞かせてね!」
私が言う答えなど、香織だって分かっているだろう。私だって、言いたいことなど決まっている。なのに、言えないのだ。私は香織を素直じゃないと言うが、私も大概素直じゃない。
「......まあ、兎に角!私は衣織が好きなんだから、その好きな人に無理して欲しくないの!だから、お金とか、そういうのは無し!」
「そっか、そうだね!」
本当に、好きになったのがこの人で良かったと思う。こんなに優しい人、他にいないんじゃないか?とすら思う。しかし、それは流石に盲目が過ぎるだろうか。......いや、盲目なくらいが良いのかもしれない。恋は人を馬鹿にするというが、まさに今の私達がそうだ。
香織はその後、何か考え事をしていた様だったが、アクセサリーショップを出てからはいつも通りに戻った。その後は色々な店を回って、回って、回り尽くした。そして今は、カフェで休憩中。目の前には美味しそうなケーキがある。
「んー!おいひぃ!」
(幸せだなぁ)
そんなことを思いながら、ケーキを頬張っていると、隣に座っている香織に声を掛けられた。
「あのさ、衣織」
「ん?」
「この後って、どうする?」
時計を見ると、まだ夕方と言える時間だった。これから何処かに行くのも良いが、疲れているし、明日は学校がある。
「んー……。今日はもう帰ろうかな」
「そっか。明日も学校だしね......じゃあ、帰ろうか。......それにしても、一瞬だったね」
「そうだね......あーあ、もうちょっと一緒に居たかったのになあ」
「......帰ってからも一緒でしょう」
「や、これは失敬」
私たちはそんな馬鹿話をしながら私たちの住んでいる場所、寮へと向かうのだった。
❦ℯꫛᎴ❧
一応これで完結ですが、リクエストがあれば続きを書きますよ
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「あー、先週無理だったからね...ごめん。、、うん!一緒にデートしよう!どこ行く?」
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「ねー、何話す?」
「何話そうか」
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「どこ行く?」
「どこ行こうか」
「そもそも私、この辺に何があるかよく知らないからなあ」
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「うーん、映画は別に見たいものとか無いしなあ」
「もう普通に服でも見に行く?」
「でも、それじゃあ友達と変わらない気がする」
「友達と行くのと恋人と行くのじゃ違うかもよ...と言ってみる」
「あー...なるほど?」
***
さて、本日は私が待ちに待った日曜日である。昨日はずっとそわそわそわそわしてして、香織に笑われてしまった。でも仕方ないと思う。なぜならば何ヶ月、いやもしかしたら何年も思い続けて来た人との初デートなのだから。
「おお、イ〇ンだ!」
「えっ、そんなに、はしゃぐ事かな......」
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「......浮かれてるんだよっ」
「ふふっ、知ってる~」
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「#衣織#、昨日からずーっとソワソワしてたんだもん。......楽しみだったんだよね~♪ホント、わかりやすいんだから!」
あ、こいつ確信犯だ。私はそう、確信した。#香織#が私の顔を覗き込んでくる。羞恥心でどうにかなってしまいそうだ。お願いだからやめてくれ。......でもまあ、もし私と#香織#の立場が反対だったら私も同じことをするだろう。恥ずかしがっている#香織#はきっと可愛い。なんてことをやや放心しつつ考えていると。
「えっと、ごめんね?だからさ、上、向いて......よ.......」
「......可愛いから許す」
謝られてしまった。別に私に非はないと思うのだが、#香織#に謝らせたとおもうと、心が痛い。......私たちの会話を聞いていた誰かに許した理由を突っ込まれそうだが、実際、可愛いから仕方ないのだ。そんな可愛い彼女の顔を見ようと、私は上を向く。
「やっと、上向いてくれた」
「私もごめん......」
私は何故か、謝る。香織が、本当に申し訳なさそうな表情だったからだ。別にそこまで酷い事された訳じゃないのにな。まあ、終わった話なのだからそれは一旦置いておいて、店を見渡す。この店は、色んな店が集まって出来ている店なのだ。まず目に入るのは、手芸店。布やらフリルやら、果てにはレジン道具やスパンコールなんかも置いてある。
次に目に映るのはアクセサリーショップ。ピアスやイヤリング、指輪などが売られている。そして、服屋さん。マネキンが着飾っており、可愛らしいワンピースやスカートなどが置かれている。
「あ、これ可愛い」
「んーどれ?」
私が手に取ったのは、淡いピンクのブラウスと黒いフレアスカートだ。ブラウスは胸元でリボン結びが出来るようになっており、スカートは膝丈のもので、腰の部分にベルトが付いているタイプだ。
「へぇー!良いじゃん!絶対似合うって!」
「そ、そうかな?」
香織に褒めて貰えるのは純粋に嬉しいものがある。私にしては珍しくお世辞を真に受けた。
「あっ、今、絶対お世辞だとか考えたでしょう!」
ぎくぅっ。バレていたか。お世辞などでは無いと頭の片隅では分かっているのだが、どうにもこのネガティブ思考を辞められない。デートに誘うのすら1日置いた私なのだ。察して欲しい。
「本当だって!ほら、試着室行こ!早くしないと売り切れちゃう」
「えっ、あ、うん」
私は香織に手を引かれ、試着室まで連れていかれる。なんだか、いつもより強引な気がするが、何かあったのか。......いや、何か、とはもう分かりきっていることだろう。
「それにしても、これ買うの......?」
「えっ」
なんとなく、手に取っただけのものだったのだ。まさか試着まで行くとは。
「あっ......私好みの服だったから、つい」
「......」
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このたった5文字を聞いて、私は黙って香織の裾をつまみ、試着室へと向かう。いやはや、私もチョロくなったものだ。だが、それも悪くないと思っている自分がいる。
「え、ちょっ……衣織!?」
「いいから」
「……はい」
素直な香織は可愛い。普段から、この位は素直になってくれれば良いものを。......私も、香織の事を言えた義理ではないけれど。
「じゃあ……着替えるね?」
「はいよー」
私は、試着室に入ろうとして......やめた。……少しだけ、悪戯をしたくなるのは、何故だろうか。私は無防備な香織の背後に忍び寄り、抱きつく。
「ひゃぁっ……!!何すんのさ!」
「ふふん♪可愛い反応してくれるねぇ~!」
......楽しい。私は香織の賑やかな表情を見れて満足したので、大人しく試着室へ入る。店員さんの生暖かい目に少し恥じらいを覚えるものの、後悔はしていない。むしろ、清々しい気分である。
「よし……」
鏡の前で一息ついてから、ブラウスを手に取り袖を通す。すると、ちょうど良いサイズ感で、私の体にフィットする。次に、スカートを履いてみる。やはりこれも、ウエスト周りがぴったりだった。……こんなに自分の体型が分かるものなのか。私は、恐るべし、と独り事を言いながら、恐る恐るカーテンを開ける。
「どう、かな?」
「……」
「香織?ちょっと……?」
私は目の前の光景に唖然とした。香織が、顔を真っ赤にして固まっているのだ。私は心配になり、彼女の肩に手を置くと、ビクッ!と体が跳ねた。これはまずいと、私は思う。
「可愛い......」
香織の口から漏れたその一言は、私を照れさせるのには十分な程で。
「ありがとう......」
私にすら、お世辞では無いと分かる。二人して固まっていると、店員さんが生暖かい目を向けて
「......どうですか?」
と聞いてきたので、本当に恥ずかしい。もっといい表現は無いのかと言われそうだが、こんな感情は初めてなので、どう言い表せばいいのかがさっぱり分からないのだ。
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「あっ!これ可愛い!」
「どれ?」
「んーっとね、この辺のヘアピン一帯……あ、これとか!」
そう言って彼女が指差したのは、小さな花のチャームが付いたシンプルなシルバーのヘアピンだ。確かに可愛らしいのだが、如何せん値段が高い。高校生のお小遣い事情を考えて欲しい。
「あー……でも高すぎるなぁ」
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「えっ?」
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「バイト頑張ってるからね」
「い、いいよ別に。私が勝手に買おうとしただけだもん」
私は香織の頭を撫でる。彼女は俯いて黙ってしまった。……怒らせてしまっただろうか。私は不安になる。
「……衣織」
「はい」
「私ね、衣織の事大好きだから」
「えっ」
突然の告白。まさかここで言われるとは思わなかった。私は驚きのあまり、手に持っていたヘアピンを落としてしまう。幸い、ヘアピンは置いてあった棚の上に落ちた。床に落とさなくて本当に良かったと思う。
「わ、分かったから……そういうのは言わなくて良いから……」
私は恥ずかしくて死にそうになる。しかし、香織は止まらなかった。
「衣織は?」
「へっ!?」
「衣織は、私の事好きじゃないの……?」
私は答えられなかった。勿論好きだし、愛している。だが、それを言葉にするのが難しいのだ。
「ねぇ……」
「す、きだけど……」
「けど?何?」
「は、恥ずかしいから……」
すると、香織はニヤリと笑って、こう言った。
「じゃあさ、今度のデートの時に聞かせてよ!」
私はその発言に面食らう。つまり、次回、私の気持ちを伝えろという事だろう。私は香織に言われた言葉を反芻する。
「む、無理だって……」
「良いじゃん!絶対聞かせてね!」
私が言う答えなど、香織だって分かっているだろう。私だって、言いたいことなど決まっている。なのに、言えないのだ。私は香織を素直じゃないと言うが、私も大概素直じゃない。
「......まあ、兎に角!私は衣織が好きなんだから、その好きな人に無理して欲しくないの!だから、お金とか、そういうのは無し!」
「そっか、そうだね!」
本当に、好きになったのがこの人で良かったと思う。こんなに優しい人、他にいないんじゃないか?とすら思う。しかし、それは流石に盲目が過ぎるだろうか。......いや、盲目なくらいが良いのかもしれない。恋は人を馬鹿にするというが、まさに今の私達がそうだ。
香織はその後、何か考え事をしていた様だったが、アクセサリーショップを出てからはいつも通りに戻った。その後は色々な店を回って、回って、回り尽くした。そして今は、カフェで休憩中。目の前には美味しそうなケーキがある。
「んー!おいひぃ!」
(幸せだなぁ)
そんなことを思いながら、ケーキを頬張っていると、隣に座っている香織に声を掛けられた。
「あのさ、衣織」
「ん?」
「この後って、どうする?」
時計を見ると、まだ夕方と言える時間だった。これから何処かに行くのも良いが、疲れているし、明日は学校がある。
「んー……。今日はもう帰ろうかな」
「そっか。明日も学校だしね......じゃあ、帰ろうか。......それにしても、一瞬だったね」
「そうだね......あーあ、もうちょっと一緒に居たかったのになあ」
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