短編
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大丈夫、私は"普通の女性"よりも強いのだから。
幼い頃から背丈も大きく運動神経に恵まれていた私は、いつしかその言葉が自分自身を励ますものであり、それが普通なのだと思っていた。
だから今この状況だって、他の子が優先されるべきなのだと、無意識のうちにそう判断していた。
とある日の未明。
鬼との戦いを終えたその場所は、私も含め複数の怪我人が出ていた。
負傷した隊士の中には、私よりも年下の女の子がいたりして、怪我の具合もこちらより深手を負っている様子だった。
後始末などの為に派遣されて来た隠達は、各々の持ち場へつき、それぞれ対処に当たっている。
その中の一人の隠も、傷を負った私に声を掛けてきた。
「羽把岐様も手当を致しますので、こちらに」
「ああ、私ならかすり傷程度だから大丈夫だよ。それよりも、あの子の方を優先してあげてくれるかな」
言いながら私が指し示したのは、治療を受けている深手を負った女性隊士の方だった。
一人の隠が治療に当たっているものの、忙しなく手を動かしたり挙動が焦っている素振りからして、人手が足りていない様子は明らかである。
「で、ですが…」
「私なら大丈夫だよ、治療道具だけ貰えれば自分で対処するからさ」
負傷した傷の痛みを隠しつつ笑顔でそう答えると、私の治療に当たろうとしていた隠は心配そうにしながらも「分かりました」と答え、道具の一式を渡してくれた。
「それじゃあ、ここの後始末は頼んだよ。よろしくね」
「はいっ!」
破壊された建物の瓦礫を片付けたりしている隠らに声を掛け、私は颯爽とした足取りでその場を後にした。
その間も片足に負った傷口はずきずきと痛み、まだ出血も止まらない感覚が続いていた。
──────
隊士や隠達がいる場所から離れ、人気の無い道を歩く。
…そろそろこの辺りで良いか。
余計な心配をかけさせないよう、他の人達が来ない場所で怪我の治療しようと、私は適当に座れそうな場所を探して周囲を見渡す。
ふと少し離れた場所に石段の階段を見つけ、あそこで良いかと思い移動しようとした時だった。
「…真尋!」
「うわっ!?びっくりした、行冥かぁ…」
突然背後から声を掛けられ、びくりと肩が跳ねた。
振り向いて確認すると、心配そうな表情を浮かべている人物がそこにいた。
私は怪我をしている事を悟られないよう、至っていつも通りの笑顔で返答をした。
「偶然だね、こんな所で会うなんて」
「偶然ではない…鬼の出没地区への召集がかかり向かったのだが、君が既に討伐したと聞いた」
彼の話を聞くに、どうやら行冥も巡回地区から然程遠くない位置にいたようで、合流し共闘するよう指示が下ったそうだ。
しかし辿り着く前に私がその場を治めており、到着した時には全ての事が済んでいた、とのことだった。
そして私が負傷した事も隠から聞いたようで、先に場を離れたこちらの身を案じて追いかけてきてくれたらしい。
「その痛みを堪えている声の調子からして、まだ手当てをしていないのだろう…傷を見せてみろ」
怪我を放置している現状は、どうやら視覚には映らずとも行冥にはお見通しのようだった。
しかしそれでも程度までは分からないだろうと思い、そのままいつもの雰囲気を保ちつつ口を開いた。
「大したことは無いよ、自分で処置出来るから行冥は先に戻っていても…」
「…………」
へらりと笑ってそう話すも、目の前の彼は訝しむような、どこか怒っているような険しい顔をして、じっと私を見据えているのを目の当たりし、思わず言葉が途切れた。
その瞳は私の事が見えている筈は無いのに、何だか隠そうとしているこちらの心持ちまで見透かされているような気分になってしまう。
その圧にいよいよ耐え切れなくなった私は、早々にはぐらかすのを諦めた。
「う……分かった、大人しく見せるからその無言の圧止めて…!」
「…む……」
圧をかけている事は、向こうは完全に無意識だったらしい。
はっとした表情の後、いつもの少し悲しげで心配そうなものへと戻っていた。
階段の石段に座り、左脚の袴をたくし上げる。
大腿部を負傷していたが、どうも思っていた以上に深かったらしい。
傷口がぱっくりと開き、未だに血がとめどなく溢れていた。
「…このような深手を負い、何故その場で直ぐに処置を受けなかった」
「うーん…傷も大きくない感覚がしていたから、多少放っておいても平気かなって思ってたんだけどね」
傷口周りの血を拭い、布を充てた後にきつめに包帯を巻き始める行冥。
その手つきを見つめながら、私はぽつりと呟く。
「…まあ、私は他の女の子達よりも強いから大丈夫だよ」
その言葉に、一瞬行冥の手がぴくりと反応して止まった。
しかし直ぐに処置の手の動きは再開する。
その作業を黙々と進めながら、彼は冷静な声で言葉を紡いだ。
「…真尋は自身の事を強いと話すが、"強い弱い"以前に怪我をしたのならば、心配するのは当たり前の事だろう……それが親しい者や恋仲にある相手ならば、尚更だ」
その言葉は、私の強さを否定するでもなく、だからと言って弱いと示唆するものでもなかった。
ただ、純粋に相手を想う気持ちが籠った、行冥の心からの言葉だと感じた。
「それと君は、もう少し他者に甘えるという事をした方が良い…」
「甘える、ねぇ…」
包帯も巻き終わり、袴を元に戻して立ち上がる。
先程までの痛みは和らぎ、きつめに巻いた包帯も支えとなって大分立ち歩きしやすくなった。
処置に使った道具をしゃがんで片付けている行冥の傍に立ち、私は彼が言った言葉についてぼんやり思った事を、少し照れくさく感じつつもそのまま伝えることにした。
「甘える事についてちょっと考えたけど…やっぱり誰かに甘えるんだったら行冥一人だけが良いな、私は」
「………そうか」
たった一言の返答ではあったものの、眼下の人物の耳先がほんのりと赤く染まったのを、私は見逃さなかった。
嬉しさや照れをあまり
気持ちが赴くまま、私はえいっと声を掛けながら行冥の背中に覆い被さるように抱き着いた。
「ということで、早速甘えさせてもらおうかな!」
「……屋敷まで背負って行け、ということか」
「ふふ、ご名答」
「…仕方ない」
少しため息混じりの返事だったものの、苦笑いした声色をしていたので困ったり嫌がっている様子では無さそうだった。
徐に、抱き着いているこちらを支えるよう手をまわして、すっと立ち上がる。
そうして私を背負ったまま、行冥は人気の無い道を歩き出した。
「何だか前にもあったよね、こうして怪我した私を背負ってくれたこと」
「…ああ、確かあの時の君は泣いていた気が…」
「ちょっ…その時はもう泣き止んでたし!記憶を
「ふ、そうだったか」
行冥の背中でわあわあと騒ぎ立てる私に対し、背負っている人物は少し笑っている様子だった。
あの時はこの人への恋心を自覚したけれども、今はちょっと違う。
甘えてそれを受け止めてくれる優しさに、愛おしさを感じている。
この人の前だけでは"弱い私"でも許してくれるような、そんな心地だった。
いつも気を張って"格好良く強い鳥柱の羽把岐 真尋"でいる中、今この僅かな時間だけでも甘えさせて欲しい。
胸に灯ったこの温かな気持ちをまるで表すかのように、東雲色の空には朝日が顔を覗かせていた。