短編
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とある日の昼下がり、私は任務に赴く夕刻前までの間、行冥の屋敷を訪れていた。
雑談をしたりして過ごす中で、途中喉が乾き水を貰おうと井戸の方に行き、そこで近くにいた雀達にも分け与えたりしていた。
午後の柔らかな陽光の中、水を飲む小鳥の姿に心和ませつつ、
突如、破裂音にも似た何かがぶつかるような大きい音が響き渡った。
その音に私の肩はびくりと跳ね、雀達も驚き逃げて行ってしまった。
驚き唖然とする中、辺りにはまた元の静寂が戻ってくる。
「……え、なに?今の音…」
音がした方向は、行冥がいる縁側の方だ。
何か壊してしまったり、或いは重たい物を床や壁にぶつけてしまったのだろうか。それともまた別の何かが起こっている?
様々な憶測が頭の中に飛び交うが、まずは彼が怪我を負っていないかの安否確認が優先である。
私は水が入った桶を放り出し、慌ててその人物がいる方へと駆けて行った。
縁側の方へと来たと同時に、息を軽く弾ませつつそこにいる人物に声を掛けた。
「今の音なに!?敵襲!?爆撃!?」
しかし目の前に広がる光景は殺伐とした惨劇などではなく、いつも通りの中庭と、縁側に座り合掌している行冥の姿がそこにあるだけだった。
ただ先程私がいた時と違う点は、彼の目からは涙が滴り落ちているという事だ。
行冥は不思議そうな表情をこちらに向けるばかりで、今しがた鳴り響いた爆音には気にも止めていない様子だった。
向こうは私の問い掛けた言葉に、益々疑問を抱いた様子で返してくる。
「……?その様な不穏な事象は何も起きていないが…」
「え…でも今さっき、ものすごい音がしたよ?」
ひとまず彼の無事を確認し安堵した私は、その人物の隣に行き並んで座る。
すると行冥は少し考えた様子の後、ふと思い当たる事があったようで、音の原因を口にした。
「…もしや、私が手を叩いた音だろうか」
「え!?いやいやいや…さっきのあの音は手を叩いて出るような大きさじゃなかったよ」
人間が手を叩いて出す音量など、たかが知れている。
そのため隣の人物の言葉に半信半疑になっていたが、行冥は「ではもう一度鳴らしてみよう」と言い、合掌していた手を離し、掌を勢いよく叩き合わせた。
その瞬間、空気が震える程の爆音が周囲に
ああ、確かにこの音だ。
さっきは井戸の方に行っていたから遮音する物が色々あったけど、今こうして目の前で聞いたら鼓膜どころか肌までびりびりするくらいの振動が来ている。
…いやそれにしても、手のひらだというのに何処からこんな大きい音が出せるのだろう?
行冥の手による一拍に心身共に衝撃を受けつつも、私は半ば呆然としながら何故唐突にその音を鳴らしたのかが気になり訊ねてみた。
「確かにその音だね……でも何で突然手を鳴らしたりしたの」
「それは…今しがた此処に猫が二匹来ていたのだが、喧嘩を始めようとしたのでそれを諌める為に大きい音で仲裁を図ったまで…」
「なるほど…?」
詳細を聞けば、その二匹の猫は取っ組み合いの喧嘩になる前に音に驚き逃げて行ってしまったそうだ。
まさか手を鳴らしただけで逃げる程とは思わず、申し訳なさと逃げられた事が悲しくて泣いていた、という事らしい…いや、それにしても。
「多分それ、猫だけじゃなくて人間に対しても有効だと思うよ…」
「……そうだろうか?」
行冥は眉を八の字にしたまま、まだ少し涙を目尻から零していた。
それから数年後、まさか本当に人間同士の喧嘩に対して使うとはこの時の私は微塵も思ってもみなかった。
確かに人間にも有効だとは言ったが、猫の喧嘩とは訳が違うのに。
(まあ、実際喧嘩は収まるわけだし大差は無いか…?)
そうして行冥の威圧感ある一拍の場面に出くわす度、私の脳裏にはつい猫同士の喧嘩をする姿が過ぎるのであった。