短編
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私のものよりもずっと鍛えられている、太く逞しい腕。
行冥の屋敷内の一室で寛ぎながら、私はそんな彼の腕をぼんやり眺めていた。
その腕の筋力ならば、確かにあの鉄球と鎖の付いた、見るからに重たそうな日輪刀だって軽々と扱えるはずだろう。
そんな力強さを感じるものなのに、今その人物はどうやら数珠の玉を通している糸が切れかかっていたらしく、せっせとその修理を行っている。
筋骨隆々な体格なのに、こぢんまりとした作業をしている姿が何だか妙に愛らしく感じられると同時に、見かけによらず手先が器用なんだな、などと思っていると、私のじっと向けてくる視線を不思議に思ったのだろう。
行冥はふと面を上げこちらに向くと、ぽつりと訊ねてきた。
「……真尋、私に何か用でもあるのか?」
「ん?ううん、特に何も無いけど…ただ、手先が器用なんだなーって」
彼の言葉に、私は素直に思っていた事の一部を述べた。
…さすがに"可愛らしさを感じた"という
すると数珠の糸の修繕が終わったのか、それを左手首に通して緩さの具合を確認した後、行冥は改めて私の方に向き直った。
「…それにしては、あれこれと考えていたような眼差しのようだったが」
すごいな、黙って向けていた視線だけでそこまで分かるなんて。
そう思ったけれども、もしかしたら私の
どこまで見透かされているのかは定かではないけれども、私は他に頭に浮かんでいた考えを彼に素直に話す事にした。
「まあ確かに、あれこれ考えてはいたよ。行冥の腕、太くて筋肉質でかっこいいなーって」
「………」
行冥が私からの不意の褒め言葉に弱いのは、薄々気付いている。
その証拠に、彼の表情には戸惑いと同時に照れの色が垣間見えた。
それに乗じて、私は薄らと考えていた願い事をその人物に頼み込んでみる事にした。
「それでね、ちょっとお願いがあるんだけど…」
「…何だ?」
「腕枕して欲しい!」
威勢よく言い放つこちらに対し、今度は行冥の表情に照れは無く、ただ困惑している様子である。
その表情を浮かべたまま、彼は至って冷静な声色で返答をした。
「……君が思う程、良いものでは無いと思うのだが…」
「それはやってみないと分からないよ?という事で、早速横になって。ほらほら」
「…………」
半ば強制的に行動へと移そうとする私の魂胆を悟ったのか、行冥はそれ以上は何も言わずにただ"やれやれ"といった様子で、私の指示通りに横になると右腕を横に伸ばしてくれた。
「よしっ。それじゃ早速…!」
私は期待を胸に顔を綻ばせつつ、彼の懐目掛けてころんと横になると、先程まで見つめていたばかりの腕に期待を抱きながら頭を載せた。
──しかし行冥の言った通りの感想になるなんて、まさか微塵も思いもしなかった。
まず、あまり柔くない。
筋肉質でもある程度は柔さがあると思っていたけども、行冥の場合は鍛え上げ過ぎているのか想像以上に硬い。
そして高さがあり過ぎる。
上腕の高さに対して私の頭の位置が合わない。
おかげで首が前屈し過ぎて長時間このままでいたら、首筋を痛めそうである。
彼の言った通り、思っていたよりも良いものでは無かったこの事実に、私は何と言って良いものか脳内で
「おぉっと……これはー…」
「……あまり良い寝心地では無いだろう」
「うん、正直言うと。もっとこう、柔さがあって高さも丁度良いものだと思ってた…」
つらつらと本音を語る私に対し、真横にいる行冥のその顔は見えずとも、今の彼は"だから言っただろう"と言わんばかりの表情をして呆れているのは、実際見ずとも雰囲気ではっきり分かった。
しかしそれでも、大好きな人とこうしてくっついていられる事が嬉しくて幸せに感じる想いがふつふつと湧いてくる。
多忙な日々の中で、今こうして恋人らしい時間を共に過ごせる事が、何よりも愛おしく感じた。
「…ふふっ」
「……?」
不意に笑い出す私に対し、行冥はどこか不思議がるかのように微かに身動ぎした。
私はそのまま腕枕をしてもらいながら、隣の人物へと更に身体を密着させながら話す。
「確かに寝心地はよろしくないけども…でも幸せだなーと思って」
「……………」
「んぇっ」
私の言葉を受け、行冥は少し間を置いた後、おもむろに抱き締めてきた。
枕になっている右腕と覆い被さる左腕、そして横からの厚い胸板に挟まれ、その三種の圧に思わず変な声が出た。
…この人は自分の筋肉の圧迫感がとてつもない事を自覚しているんだろうか。
しかしそれでも、ぎゅうぎゅうと圧されるこの窮屈さすら今は愛おしい。
恋人からの抱擁に様々な感情が湧いてきて、私はまたくすくすと笑い出してしまった。
「あははっ、行冥ちょっと苦しいよ」
「!……すまない…」
「ううん、このままで良いよ。…欲を言えば、キスもしてくれたら最高なんだけどなぁ」
「…………」
私の言葉に、抱き締めていた人物の身体が一瞬強張る感覚がした。
口付けならばもう何度もしているのに、まだ緊張するのだろうか。
(…いっそ私の方からしちゃおうか?)
こちらから行動するのも一つの手だな、と思っていると、行冥の抱き締める腕の力が緩んで体幹が離れる感覚がした。
ふと顔を上げて彼の顔を見ると、やはりどこか緊張した面持ちと視線がかち合った。
…いや、盲目の彼からすれば、視線も何もこちらの姿は視界に捉えてはいないのだろうが。
しかしそれでも、行冥の白の瞳はまるで見えているかのように、真っ直ぐに私に注がれていた。
何だか心の奥まで見透かされそうだな、と思っていると、その人物の左手がそっと私の頬に触れた。
それを合図に私は目を閉ざすと、程なくして唇に触れる柔い感覚がした。
優しく重ねるだけの口付けだった。
それが終わり唇から離れる感触がして、そっと瞼を開くと行冥の顔が間近にあった。
その頬にはほんのりと赤みがさしている。
その様子に私はくすりと笑いながら、その赤が滲む箇所を指先で撫でた。
「…ね、このまま一緒にお昼寝しちゃおっか」
「……どこまでも自由だな、君は…」
行冥は少し呆れたような声色で返すも、私の言葉を拒否する様子は無くこのまま腕枕をしてくれるようだった。
こちらのわがままにとことん付き合ってくれる優しさに感謝しつつ、私は甘えるように身体を擦り寄せて、少しばかり寝心地に難のある腕に頭を