短編
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どうやら私は、自分が思っている以上に直情型の性格なのかもしれない。
事の発端は、とある日の任務帰りに行冥を見つけた所から始まった。
秋口の少し肌寒さが身に染みる明け方、片田舎の民家前で遠目に一人の男性がいるのと向かい合う形で、見慣れた柳色の羽織を纏った人物がいるのを視界は捉えた。
(あの家の人と何やら揉めているみたいだな…)
遠くからでも声を荒らげる男の声は、朝方の田舎の景色の中によく響き渡っている。
ここは私が一旦二人の間に仲裁に入ろうと、その元へ駆け寄った。
近付くにつれ、その家人らしき男の言葉ははっきり聞き取れるものになってきて、どうもその内容が鬼殺隊への文句だったらしい。
まあ、"助けが遅い"だの"もっと早く来てくれていれば"等と、隊への不平不満や遣る瀬無い苛立ち、大切な人を失った悲しみをぶつけてくる人々は時々いるものだ。
恐らくその男も、それらの言葉を吐いているのだろうと思いながら近付いていたのだが。
事もあろうか、その男は文句だけではなく行冥への個人的な侮辱する類いの言葉を、目の前の本人に向かって投げ掛けていた。
それがこちらの耳にまで届いた時、私の中で何かがぷつりと音を立てて切れた。そして次の瞬間─
その男の横から飛び蹴りを食らわせていた。
…それ以降は荒れに荒れたものだった。
いきなり蹴りを食らった男は当然怒り心頭で、私も私で恋人を貶されてブチ切れており、あわや乱闘が始まる寸前の所で行冥が私達を抑えてくれたので、それは辛うじて回避された。
しかしそれからがどうも大変だったようで、後から来た隠と行冥がひたすら謝ってどうにかその男には許しをもらえたようだった。
私も帰還してから反省文を書かされたりお館様から直々お叱りの文(と言っても優しく諭すものだった)を貰ったりと、多方面から叱られた。
そして飛び蹴り直後、頭に血が昇っていたので記憶が曖昧だったのだけれども。
行冥はすぐに私に「この人に謝れ」と謝罪を促していたが、それに対し私は拒否した挙句「行冥も行冥で、何故怒らないのか。貶されているのに黙っているのは、自身を大切にしていないのと同義じゃないのか」と怒りの感情のまま彼に言い放った記憶が、後々からぼんやりと蘇ったのだ。
そうして蹴りをかました男と喧嘩勃発寸前で止めが入り、行冥とも半ば喧嘩別れしたような形でその場を解散した事を、後日はっきりと思い出した。
その別れ際の、彼の困ったような苦々しさを帯びた表情が、何故かずっと私の脳裏に焼き付いて離れなかった。
──────
「……またいないかぁ」
自身の軽率な言動を猛省した私は、行冥に謝ろうと何度か彼の屋敷に訪れたのだけれども、お互い柱ということで多忙のために中々顔合わせ出来ずにいた。
おかげで不穏の空気のまま別れた後から、かれこれ一週間は経とうとしている。
爽やかな秋晴れの中、私は鬱屈した心地のまま屋敷の縁側に靴を脱いで座り、ぼんやりと空を眺めた。
昼間なので任務には行っていないだろうから、恐らく鍛錬か何か私用で出ているのだろう。
戻ってくるまでしばらくここで待たせてもらおうと思い、静かな空気の中と穏やかな日差しの中じっとそこに座っていた。
時間にすれば然程経っていなかったのだろうが、普段の自分の鍛錬や任務の忙しさから離れ、こうして落ち着いた時間をとれたせいだろうか。
気付けば私は縁側で横になっており、どうやらその場で
うたた寝していたらしかった。
(あ……まずい、寝ちゃってた…)
のそりと上体を起こすと、何かが身体からずり落ちる感覚。
その方に視線を遣ると、会いたい人物がよく唱えている言葉が一つずつ散りばめられた文字と、柳色の見慣れた羽織が、私の身体にかけられていた。
「……え」
何で行冥の羽織がここに?
そう思っていると、私が起床した事に気が付いたのだろうか。
廊下の向こうの方から足音がして、間もなくこの羽織の持ち主が現れた。
「……気候が暖かいとはいえ、そのような場所で寝ていては風邪をひく可能性がある…」
久々に見た気がするその人物は、少し心配そうな表情を浮かべながらそんな言葉を投げ掛けてきた。
ずっと会いたくてたまらなかったせいだろうか。
その姿を見た瞬間、愛おしい気持ちやら謝りたい気持ちやら様々な感情が一気に溢れ返り爆発した。
「ぎっ……行冥ーーッ!!」
無駄に瞬発力を発揮した私は、その場から弾かれたように飛び出し勢い良くその人物に抱き着いた。
ほぼ体当たりに近い状態だったが、普段から鍛えている上体格も大きい彼は全くびくともせずに、私の抱擁を受け止めていた。
「会いたかったー…あと色々とごめんね、ずっと謝りたかった…」
両手でぎゅうぎゅうと彼の胴体を全力で抱き締めながら、自身のずっと抱えていた気持ちを吐露した。
すると相手も私の背中に優しく手をまわしながら、落ち着いた声色で返してくる。
「…私の方こそ、あれから色々と考えさせられた。真尋の言葉通り、貶されても黙っているのは自身を軽視しているのかもしれない…」
「行冥が悪いことは無いよ!私が勝手にそう思っただけで…!」
後々から考えて気が付いたのだが、侮蔑されても沈黙するのは、彼が自身をぞんざいにしている訳でもなく「たとえ傷付いても自分が黙っていることで、相手も満足して円満に物事が終わる」と思っているからなのではと考え至った。
それはこの人の優しすぎる性格故に、その選択をしてしまうのだと気が付いた時、私の軽率過ぎた言葉に対し益々申し訳ない気持ちが強まった。
そして、誰かを傷付けたり怒らせたりするよりも、自分の心が傷付く方を選んでしまうこの人の心を、守りたいとも思った。
そんな私の想いを知ってか知らずか、行冥は静かに呟く。
「私は他者の為に、怒りの感情を向ける事は出来るが……どうも、自身の為に怒る事は苦手なようだ…」
「…うん、それでいいと思うよ。それが行冥らしさでもあるんだし」
密着していた上体を少し離して彼の顔を見上げれば、その人物の目からはぽろぽろと雫が零れ落ち始めていた。
悲しさの中にどこか申し訳なさすら感じるその表情を見て、私はくすりと笑って片手を伸ばし、指先で流れる涙を拭う。
「もしまた行冥を馬鹿にする人がいたら私が代わりに怒るから、安心してよ」
「……だからと言って、暴力は良くない…」
「う"……そ、それは反省してるし、今後はそうならないように気をつける…」
気まずそうに返事をする私の様子に、向こうもようやく少し笑える元気が出たのだろうか。
口角がほんの少しだけ上がり、口元に微かな笑みを浮かべていた。
私に無いものを行冥が持っていて、逆に彼が持っていない部分を私が補う。
そうやってこれからも、お互い支え合って行けたら。
そんな先への希望を抱きながら、相手の体を抱き締めていると、不意に彼の手が私の頬に触れて少し顔が近づいた。
その行動が意図するものを察した私は、また愛おしさが胸の内に滲むのを感じながら、背伸びをしてこちらからも顔を近付けると、どちらからともなく口付けを交わした。