短編
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年の瀬にかけて、世間では人々の動きが激しくなる。
新たな門出に向け年内に様々な物事を終わらせようと、各個目的を持った人が忙しなく往来を行き交う。
そうして人の心に隙が生まれやすい頃に伴い、鬼の動きも活発になる。
それ故に、師走は鬼殺隊も活動が忙しなくなり柱は勿論のこと、一般隊士も隠も全員が多忙を極めていた。
──────
大晦日の夜、私は平時と変わらず任務へと赴き鬼の頚を狩っていた。
鬼殺隊に入ってからというものの、年末は除夜の鐘を聞きながら戦いに明け暮れる、といったことは
そうして新たに迎えた年の明朝も、血生臭い殺伐としたものだった。
屋敷へと戻る最中の、新たに迎えた冬の朝の空気は澄み切っており、また元日になったからか往来に人々の気配も無く、閑静な住宅地は一際しんと静まり返っていた。
自身の日輪刀は市街地戦には不向きな物のため、普段はこの区域の任務に当たることはそうそう無いのだが、この時期に限っては人が夜間でも動くので、鬼の出没地も居住区辺りがどうしても多くなる。
それ故、年の暮れは自分もこうした地区に特別に赴く事があった。
あまり訪れる場所では無いため、歩き慣れない住宅街の中の道を新鮮な気持ちで進んでいると、背後から聞き馴染みのある足音が一つ、こちらに駆け寄って来ているのに気が付いた。
何度も聞いている彼女の独特なその靴音は、今となっては不思議と安心感すら感じる。
そしてこの後の行動は「背中を叩かれる」か「背後から思い切り抱き着かれる」の二択であろう事は、概ね予測が着いた。
「行冥!お疲れー!!」
いつになく気分が高揚しているのか、真尋は元気に満ちた声で背中を軽く叩いてきた。
「……前者だったか…」
「ん?何が?」
「いや、こちらの話だ…」
予想が当たり思わずぽつりと呟いたのだが、背後にいる人物は何がなんだか分からず、ただ不思議そうにしている雰囲気を帯びているのが分かった。
そうして彼女と合流した後は、各々の屋敷へと戻る道中を共にする事となった。
「やっぱり年末は鬼も活発になるねー、私なんか昨晩で十体近くは狩ったよ」
「それだけ人の動きもあるということだ…加えて、冬期は夜間の方が時間も長い点もあるだろう」
呆れたようにぼやく真尋と共に、そんな雑談をしながら市街地の道を歩く。
それだけの鬼を狩ったとしても、彼女は怪我をした様子も無い点からして
新年から負傷する事もなく、無事にこうして共にすることが出来ていることに、内心安堵する。
「…しかし元日となった故、市井の人々の外出も減るため、今日の夜は鬼の出現も減少するだろう」
「だといいんだけど……あー何か新年らしさを感じるものが"鬼の出現率"とか嫌だなぁ。もっとお正月感のある雰囲気を味わいたいというかさ」
確かに元旦らしさが鬼絡みというのも、些か風情に欠ける。
果たして何か彼女に提案出来そうな"元旦らしさ"の物事があるだろうかと考えていた時だった。
「あ。……ね、ちょっと寄り道しても良い?」
「…?」
傍らで、何かを見つけたらしい真尋は私の袖を軽く引っ張りながらそう話す。
彼女の視線の先には一体何があるのかは定かではないが、その申し出を断る理由も無く、共に寄り道をすることにした。
屋敷へと戻る道から外れて立ち寄ったのは、住宅地の中にありながらも木々が茂る、広々とした場所だった。
「…此処は」
「ふふ、神社だよ。一緒に初詣してから戻ろ?」
初詣にしては、人の気配も無く閑散としている。
御利益や縁起を担ぐのならば、もっと有名な大きい神社の方が良いのではないだろうか。
そう思い、先を歩き出した彼女に声を掛ける。
「…真尋はこの神社で良いのか?」
「うん、特に拘りとかは無いからね。…というか、行冥と一緒ならどこでも良いと言うか…」
前を行く人物は、言葉の後半からは照れた雰囲気で次第に口篭っていた。
その様子が何だか可愛らしくも愛おしく感じられ、つい表情が緩んでしまいそうになる。
「と、とにかく一緒にお詣りすることに意義があるということで!ほら、こっちこっち!」
手水舎の前に辿り着いた真尋が私を手招く気配がし、彼女の隣に移動すると作法に
そして拝殿の前に行き、参拝の直前でふと思った事を隣の人物に訊ねた。
「…ときに、真尋は神社の参拝する作法を知っているのか…?」
先程の手水舎でも、じっと私の方を見つめる気配がしており、遅れて彼女も手などを清め始めていた。
もしやと思いそう問いかけたところ、相手の気まずそうな声が返ってきた。
「じ……実はちょっと、あやふやな部分が多くて…できれば教えて欲しいなーって…」
真尋からすれば、自分から初詣を言い出したのに作法も曖昧なんて、と思っていたことだろう。
しかし知ったかぶりをする事も無く、素直に教えを乞う態度は好感を持てる。
分からない事は学ぼうとする彼女の様子に、ふと自身の口元が緩く弧を描く感覚がした。
「…分かった、では最初の手順から教えよう」
「!ありがと、よろしくお願いしますっ」
真尋の声色が、ぱっと明るくなる。
その声の雰囲気からして、きっと彼女の今の表情も屈託なく笑っているのだろう。
そうして神社の参拝する作法を教えながら"二礼二拍手一礼"の段階まで説明し終えると、後は各々感謝や願いを願掛けする事となった。
─鬼殺隊皆の無事と、市井の人々がこれ以上鬼からの被害に合わないように。
そんな願い事を、偶々訪れた神社の神へ願掛けをした。
隣の人物とは、その所作はほぼ同時に行った筈なのだが。
私が合掌を終え一礼し面をあげると、横にいる彼女はまだ何か願い事を祈っている様子だった。
それからしばらくして、漸く彼女の長い願掛けは終わった様子だった。
神社を後にし、再び帰路への道を歩き出すものの、先程のやけに長い彼女の祈りが気になり、つい訊ねてみた。
「随分と強く願掛けしていた様子だったが…一体何を願ったのだ…?」
「ん?うーんと…まず、無惨を倒す事と鬼殺隊士の無事とお館様の健康と、それから市民の無事でしょ。あと鬼の被害が減るようにってお願いと、ついでに私の活躍で色んな人から褒めてもらえますようにって」
「…………願い事を頼み過ぎだ…」
彼女の祈る時間が長いことに合点がいった。と同時に、呆れつつもつい苦笑してしまった。
「だって、神社の参拝って中々来ること無いから…!ここぞとばかりに願い事しておかないと!」
「…あの神社の神も大変だな…」
ふんふんと意気込んでいる様子の真尋に、まだ少し笑いを堪えつつ、願いを受け入れるあの神社の神を労わずにはいられなかった。
ふと、傍らで彼女がぽつりと呟く。
「…あ、私お願い事まだ一つしてた」
「……まだあったのか」
果たして最後はどんな願掛けをしたのだろう、と思っていると、真尋はその最後の一つを中々答えようとしない様子でいる。
「…何か答えづらい願い事なのか?」
「いや、答えづらくは無いけれども…そのー…」
どこか落ち着かない素振りすら窺える様子で、彼女は何やら言い淀んでいたが、意を決した雰囲気になると小声で最後の願い事を教えてくれた。
「ぎ……行冥と一緒にいる時間が増えて、もっとイチャつけますように…って」
「…………」
恋人らしい、何とも可愛らしい願い事だと思った。
いじらしさすら感じるその願いならば、どうやらこちらの返答次第で簡単に叶えられそうである。
「…私の屋敷へ来るか」
「え!いいの?疲れてない?」
「ああ…元日くらいは共に過ごそう」
「やった!えへへ、それじゃあお言葉に甘えて」
嬉しそうに笑う彼女の声につられ、こちらも表情が和らぐのを感じた。
すると徐に彼女の手が、私の空いていた手のひらに伸びてきてどちらからとも無く繋ぐ。
これからまた一年、彼女と共に過ごす日がこうして穏やかなものである事を祈りながら、その手の温かさから伝わる幸せを噛み締めた。