短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日は冬の強い寒波が訪れていたようで、鬼殺隊が拠点を置く山々は一層寒さが強まっていた。
任務を終えた私は、夜が明けた曇り空を見上げながら白い息を吐き出す。
この寒さがまだ数日続くようならば、もしかしたらここらの山には薄雪が積もるかもしれないな、と思いながら虚空に溶ける冬の吐息を見つめていた。
こんな日は熱めのお風呂に入って、温かい味噌汁でも飲みたい。
任務終えた際、鎹鴉を飛ばして屋敷管理担当の隠にそれらを事前に準備してもらったので、帰宅したら早々にそれらを有り難くいただこう。
そう思い、夜間は余計に冷え込むことを予測し適当に見繕った羽織りの襟を整えながら、足早に自身の屋敷へと向かっていた。
時折空っ風が吹き荒び、冷たい風が頬を撫でて行く。
その度に
「真尋、今屋敷に戻る所か」
「!」
その声にはっとして顔を上げ振り返ると、恋仲相手である行冥がそこに居た。
私よりも歩幅が大きい分、こちらの歩みに追い付いてきたのだろう。
しかしその人物の姿を視界に捉えた途端、私の胸にはぽっと温かさが灯る心地がした。
「行冥も今戻るとこ?確か担当地区の見廻りって言ってたよね、お疲れさま」
「ああ。…真尋は任務だったな、息災で何よりだ」
「うん、今日も無事に怪我無し!元気!」
笑顔で話す私のその言葉を受け、相手は口元に微かに緩く弧を描いた。
そうして各々の屋敷までの道を、二人で並んで歩き出す。
歩きながらの私達の会話は、なんて事ない日常のありふれた雑談が主なものだ。
話す割合も私の方が大半で、行冥はそれに耳を傾け時折相槌をうってくれる。
鬼との戦いに明け暮れ殺伐とする日々の中で、私は恋人と過ごすその時間がたまらなく好きだった。
そしてその気持ちが行動に現れたのか、つい無意識のうちに足取りが少しゆっくりとしたものになってしまっていた事に、ふと気が付いた。
先程まで、早々に屋敷へ戻るべく足早に歩みを進めていたというのに。
しかし隣を歩く人物は、それに対し何を言うでも無く、黙ってこちらの歩調に合わせてくれている。
そんな私の行動に対し、何も言わずに応じてくれる彼の優しさに気付いた時、私の胸の内にまた温かさが灯るようだった。
だが冬の寒さは、そんな私の幸せな心地を打ちのめすかの如く、容赦なく現実を突きつけてくる。
今にも雪がちらつきそうな鉛色の空からは、冷たい一陣の風が吹き抜けて行き、思わず肩を
「うぅっ、寒ーい…!」
「…じきに雪が降るかもしれないな…」
先程までしていた雑談も途切れ、その寒さに各々呟く。
しかし左横を歩く人物は、今一つ寒さに堪えている様子があまり見受けられず、割と平然としているようだ。
それならば体温を少しばかり拝借しようと、私は冷え切っていた左手を彼の腕に伸ばした。
「失礼!」
幸い屋敷へのこの道に人影はなく、私はここぞとばかりにその人物の逞しい腕に、自身のそれと絡ませて身を寄せた。
腕を組んで密着すると、その人物の体温がじんわりと伝わり思わず顔が緩んでしまう。
「ふふ、温かーい…」
好きな人の温もりに、ついつい顔だけでなく気持ちも蕩けてきてしまった。
しかし行冥はそんな私の表情などとは正反対に、触れた指先の冷たさに驚いた様子だった。
「君の手がここまで冷えていたとは…」
「この時期は大体いつもこんな感じだよ」
「…少し、手を」
その場で足を止めると、行冥は私の組んでいた腕の手を取り、自身の両手のひらで挟むようにして温めてくれた。
大きな彼の手は私の手をすっかり覆い隠す程で、戦闘時に日輪刀を振るう時はあんなにも力強いのに、今のこの手は優しさに満ち溢れていた。
「行冥の手、温かいね。体温高めなのかな?」
「…恐らくそれもあるだろうが、寒さには滝に打たれている故か慣れている…」
「ああ、なるほど!」
日常的な訓練の中で鍛えられていると分かり、納得した。
更に言えば、訓練の中には丸太を担ぎながら火炙りという事もしているようで、行冥は熱さにも寒さにもどちらも耐性がある可能性が高い。
改めてこの人物は凄い人だなぁとしみじみ思っていると、温めてもらっていた手が不意に解放された。
彼から体温を分けてもらったかのように、左手はすっかり温かくなっている。
「えへへ、ありがと。おかげですごく温かくなった!」
「…右手は」
「ん、大丈夫だよ。さすがに両手とも温めて貰うのは申し訳ないなって…」
言いながら、私は両手を擦り合わせて摩擦で反対の手も温めようとした。
しかし目の前の人物は何か思案したような表情の後、
そして今度は先程のように重ね合わせて温めるでも無く、手を取ったまま歩き出した。
「ん…?」
先程と異なる行動に疑問を抱きつつも、そのまま手を引かれて大人しく歩いていると、行冥はこちらに振り返らず前方を向いたまま、どこかぎこちない声色で話す。
「……その…"君の手を温める"という事で、このままで歩いていても構わないだろうか…」
彼のその言い分に、唖然としてしまった。
不器用故なのか、今まで向こうから起こした恋人同士らしい行動は数える程しか無いため、こうして口実付きながらも"手を繋いで歩く"といった行動を相手側からしてもらう事は、初めてのことだった。
思わず彼の顔を見上げてみると、やはりこちらへは一瞥もくれずただ前方を向いている。
しかし斜め後ろから見上げるその人物の耳に、ほんのりと赤みがさしているのに私は気が付いた。
途端、嬉しさと愛おしさが込み上げてきて、思わず破顔する。
「ふふっ、もちろん!」
きっと今の彼の表情はひどく照れたものなのだろうと思うと、益々愛おしさが増してくる。
その気持ちを乗せて、繋いだ右手に少し力を込めて握り返した。
大きく無骨なその手は、私の手と胸の内を蕩けさせ、冬の寒さも忘れる程に温かかった。