短編
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無意識というものは恐ろしい。
自分が意図しない挙動を知らぬ間にしてしまい、そしてそれを誰かに指摘されるなんて事があった日には、面目丸潰れでその人に顔向け出来なくなるかもしれない。
だが、私はその"無意識の動作"を意識下に収め、節度のある範疇内で挙動を行うよう努めている。
そしてその挙動というのは、恋仲関係にある行冥を遠くからじっと眺めることだった。
─────
とある日の昼下がり。
私は鳥舎の屋根に上がり、鎹鴉の雛とその親鴉とで飛び方を教える様子を見守っていた。
基本的に鴉達の間柄の関係には口を出さないのだが、その二羽に限っては義理の親子関係にあった為、途中親鴉が育児を放棄しないか心配で、合間を見つけては傍で見守らせてもらっていた。
しかし親代わりになったその鴉は根気よく雛に羽ばたき方の羽の動かし方を教えており、どうやら私の心配も杞憂で終わりそうだった。
(これなら私が見守らなくても平気かな…)
そんな事をぼんやりと考えながら、屋根の上から周囲の景色をぐるりと見回す。
暖かな日差しの中、遠くに望む淡い緑の山並みの景色と青い空が、鬼との戦いの
その景色の中に、鬼殺隊の隊士達の姿を遠目に見つけた。
その中に、見慣れた羽織りを纏った姿が一つ。
(あ、行冥がいる)
これから日没に向け、任務に赴くための動向を話し合っているのだろう。
柱が主体となり、階級が下の隊士はその指示に従う。
話し合う皆のその姿は、行冥一人だけが飛び抜けた身長差のおかげかまるで親子のように見える。
行冥が親鳥で、隊士達は雛といったところか。
傍らに鎹鴉の親子もいるせいか、そんな事を考えていたら少し笑いが洩れた。
そうして屋根からぼんやりとその人物を眺めていたが、いつまでも一人に視線を送っているこの姿を誰かに目撃されてしまっては、不審に思われてしまう。
彼らから視線を外し、空を仰いだり山並みの方など余所に目を向けたりするも、時折やはりその恋人がいる方を盗み見てしまっていた。
すると話し合いが終わったのか、隊士達と行冥はそれぞれ動き出した。
隊士達の姿は遠ざかるのに対し、柳色の羽織りを纏ったその人物は、真っ直ぐにこちらに向かって歩いて来ている。
その足取りはまるで、私の居場所がはっきりと分かっているようで。
(…いや、これ確実に私に向かって来ているな)
向こうは目が見えていない筈なのに何故私の居場所がわかるのだろうと思っていると、程なくして建物下から行冥の声がした。
「真尋。…少し良いだろうか」
「うん。今降りるね」
恋人から声を掛けられて、抱いていた疑問も頭から簡単に吹き飛び内心ウキウキで屋根からひらりと飛び降りる。
その浮き立つような気持ちがまるで現れているかのように、地面に降り立つ足音も軽やかなものだった。
「何なに?私に用事でもあった?」
ついつい顔を綻ばせながらその人物に近付いたところ、相手は何故か少し困惑したような表情を浮かべたままその場に立ち尽くしていた。
「いや、用事と言うより……君は少し、私に熱烈な視線を向け過ぎだ…」
「…え!?」
そんな、遠くから眺めていただけなのに!?
驚愕のあまりその言葉が紡げずにいる私に対し、行冥はこちらが言わんとしている事を察したのか、いつも私が向けている視線について説明してくれた。
「私は視力を失っている分、他の感覚が昔から鋭い…それ故か、他者の考えや視線などは概ね把握出来るのだが……真尋の場合はその視線の強さが、他者よりよっぽど強いのだ…」
「えぇ…私、そんな知らない間に行冥に熱視線送ってたんだ…」
なるほど、私の熱すぎる視線のおかげでこの場所が分かったたという事か。
しかしその事を改めて指摘され、少々気恥しくなってしまった。
だが、その視線を送るのは到底辞められそうにもない。
恋人の姿は他の誰よりも輝いて見えるものでつい視線を向けてしまうし、見れば見るほど新たな発見があったり、自身の相手への好意の気持ちを再確認できるからだ。
そんな様々な理由があるとは向こうは知る由もなく、ただ純粋な疑問を抱いたように、不思議そうに訊ねてくる。
「一体何ゆえ、そこまでの視線を私に向けるのか…」
「んー……まあ一言で言うなら、行冥がかっこいいから、かな?」
「…………」
私の返事を受け、相手は照れた様子で少し眉根を寄せた。
沈黙しつつも僅かに喜色が滲んだその様子を見て、つい笑みが零れてしまう。
「ふふ、自分の好きな相手の姿はいつ何時も眺めていたいものなんだよ」
「……そういうものなのか…?」
「そ。あと、あわよくば触れ合いたいなーって…!」
「…これから任務に出る所に、それは止してもらいたい…」
いなくなる前に抱擁したり色々イチャついてやろうと、両手を広げてにやりと笑いにじり寄る私に対し、向こうはやんわりとそれを断った。
まあ時間も無いことだろうし、任務に向けて気持ちを引き締めたばかりなのに、こんな所で早々に気を緩ませる訳にはいかないのだろう。
「そっか、残念」
相手の立場を考慮し、私は苦笑いして広げていた手を自身の腰に当てた。
すると行冥は困ったように少し微笑むと、私の頭にぽんと手を置き優しく撫でてくれた。
大きく無骨なその手からは、私に対する愛情が籠っているのをひしひしと感じる。
「…任務に赴く前に、君と話せて良かった」
「ん、気をつけてね。早く戻ってきて、そして沢山イチャつこ!」
恋人らしく睦まじくしたい旨を正直に言葉にすると、相手はやはり困ったような少し照れたような表情を浮かべるばかりだった。
そうして任務先へと向け歩き出した行冥を送り出し、私はその背に手を振る。
恋仲相手の姿を眺めるのは好きだ。
ただ、この時の姿を眺めるのは嫌だった。
もしかしたら、その姿が最期になる可能性だってあるからだ。
鬼殺隊として鬼と戦う以上、命の保証は無い。
いくら柱で強い人物だと言っても、必ず生きて無事戻るとは限らないのだ。
─どうか無事で、怪我も無く此処に戻ってきて欲しい。
そんな祈りにも似た想いを抱きながら、遠ざかって行く彼の後ろ姿を、私はずっと見つめていた。