短編
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近頃、私の脳内では条件反射的に結び付いている、とある行動がある。
それが、恋仲の相手である行冥からの"頬に触れてから親指で唇を撫でる"という一連の動作だ。
その行動に繋がるのが"口付け"なので、最近は頬に触れられるだけで心臓は一度大きく高鳴るし、それに妙に唇が敏感になってきている…気がする。
このままでは、何でもない時や頬に汚れ等あった際に触れられたら一人で妙に意識したり、はたまた人前で何か反応して失敗をやらかすのではないかと心配になってくる。
しかしそもそも、何故行冥はその動作をするのだろう?
そう思い、その行動の意図する事を訊ねると共に、今後私の名誉維持の為に少し控えて欲しい
とある日の昼下がり、私は任務に赴く前に行冥の屋敷を訪れいつものように居間で寛いでいた。
傍らではその屋敷の主は日輪刀の手入れをしている。
普段ならばこの緩い時間をのんびりと過ごすのだが、その人に口付け前の動作の意味を訊ねようと内心どぎまぎしながら口を開いた。
「そういえば前から思っていたけれども」
「…何だ?」
行冥は一旦手を止めて、私の方に顔を向ける。
別に聞き流してくれても構わないのに、律儀に耳を傾けてくれる所に彼の優しさを感じつつ、私は質問を投げ掛けた。
「そのー…行冥の方から口付けする時、いつも頬に触れたり唇撫でたりするの何でかなって」
「………その事か」
私の質問を受け、行冥は一瞬戸惑ったような照れた様子を見せたが、表情はまた平静を保ってその理由を教えてくれた。
「率直に言ってしまえば、唇の位置や距離感を正確に把握する為だ…」
「あー、なるほど…!」
行冥は目が見えない分、精密な距離感などを測る為には一度手で触れる必要があるのだろう。
もし勢い余っての口付けでもしたら、歯がぶつかり大惨事となり甘い雰囲気どころでは無くなるのは容易に想像がつく。
そうなると、その行動を制限するのは到底無理だろう。
仕方のない事ではあるが、それでも私なりの危惧する点を伝えておかねばと思い、言葉を続けた。
「理由は分かった…けど、不用意に頬に触れたりはなるべくしないで欲しい…かな」
「…何故だ?」
「だ、だってその行動されたら口付けされる事が、もう頭の中で結び付いているから…もし人前でそれやられたら、何か反応したりやらかしそうで…」
「……そうか、分かった」
私の言い分を聞き、相手はすんなりと受け入れてくれた。
相手の優しい人柄ゆえか、私のお願い事はすぐに受け入れてくれる事が多い点には本当に頭が上がらない。
ひとまずはこれで、人前でやらかす事で私達の関係がバレる危険性が低くなったぞ、と思っていると。
徐に行冥はこちらに近付き、そっと手を伸ばして頬に触れてきた。
やはりその行動をされてしまうと、条件反射のように心臓が高鳴り脈拍も少し早くなる。
…いや、しかし今さっきの返答は何だったのか。
「ちょ…だから止めてってば…!」
「…今は誰もいないが」
「ぐぬ…」
確かにそうだけれども。
反論出来ずに押し黙る私に対し、行冥は少しばかり楽しそうに口元に弧を描いていた。…あ、これ絶対からかっているな。
そう思い、向こうがこちらの表情が見えていないのも重々承知で、私は目の前の相手にじとっとした眼差しを向けた。
せめてもの、この恨みが籠った眼差しに
そんな視線にも気付いているのかいないのか、行冥はただ私の頬に触れただけで、その後は唇を撫でたり等はせずに、また日輪刀の手入れに戻る。
完全に彼の掌の上で転がされている事実に、益々私の不服は募るばかりだった。
何か仕返しでもしてやろうと思い立つものの、咄嗟に妙案が浮かぶ訳でもない。
このままでは私の任務に赴く時間が来るだけだ。
元来の負けず嫌いの気質ゆえか、最早大人しく引き下がる気持ちが消え失せた私は、"口付けを意味する行動"を頭に刷り込まれたその動作を、そっくりそのまま相手にしてやることにした。
「……そういえば真尋。君はこれから任務がある筈では…、?」
こちらの時間の心配をしてくれる彼だが、私はその言葉に反応する事無く相手の目の前に移動し、ぽんと相手の肩に手を置く。
その動作を行冥も疑問に思ったのか、眉根を寄せて不思議そうな表情を浮かべた。
肩に置いた手とは反対の手で、行冥の頬にそっと触れる。
そして親指で唇を柔く撫でた後、目を閉じて私のそれと重ねた。
「…!?」
途端、向こうが手入れしていた武器の鎖の部分が、床に落ちる音がする。
まさか私からその行動をされるとは思わなかったのか、行冥の息を呑む気配がするのが分かった。
ただ唇を重ねるだけの口付けだったけれども、いつもと違う行動を交えたためなのか、気恥しさと新鮮さが心の内に湧いていた。
少し間を置いて唇を離すと、行冥の先程の余裕そうな表情は消え失せて、今は困惑と照れが入り交じった表情となっていた。
しかしそれならこちらもきっと、似たような顔となっているだろう。
「……な、何か照れるね、これ…」
「…………」
気恥しさゆえか、お互い顔を背けてそのまま沈黙が流れる。
今度はこちらがからかってやろうと思ったけれども、これでは相討ちである。
向こうからされる分にはここまで気恥しさは無いのにな、と思っていると、目の前の人物は控えめな声でぽつりと呟いた。
「……真尋からされるのも、悪くないものだな…」
「…今後はもうしないからね!?」
この行動は、行冥がするからちゃんとした意味があるのであって、目が見えている私がしては何の意味も成さない。
その為きっぱりと断りの言葉を放つと、相手は些かしゅんとした様子を見せていた。
…なんと言うか、こういう彼の些細な反応が一々私の心を
到底目の前の人物には似つかわしくない"可愛い"という言葉を頭に反芻しながら、私は再び彼に顔を近づけた。
「…私からするならやっぱり、普通の方がいいかな」
そう言い終えた後、また唇をそっと重ねた。
私からする分ならば、これだけできっと十分に愛情も伝わっているだろう。
そしてそれに応える様に、相手からは私の体を抱きしめる感覚がした。