10.智慧
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「…ありがとう、色々聴いてくれて。気持ちがすごくすっきりした」
「……そうか。それは何よりだ」
横に座っている行冥の声が、ふと柔らかなものになった。
それにつられて、私もつい表情が緩む。
こうして親身になって話を聞いてくれたり、時には助言をくれたりと、改めて頼り甲斐のある人物だと思い知った。
そしてそんな人が私の恋人なのだと思うと、嬉しさがじわじわと湧き上がると同時に、私には何だか勿体ないくらいな気がしてしまった。
たとえ不釣り合いだとしても、私はこの人とずっと一緒にいたい。
その想いを胸に抱きながら、私は座ったまま
突然の行動に、隣のその人物は少しばかり緊張したような気配がする。
「……どうした真尋。具合が悪いのか」
「違うよ、甘えたくなっただけ。…それと、行冥を好きになって良かったなーって」
「………」
私の発言を受けて、隣の人物は沈黙してしまった。
しかしその表情は照れたものであろうことは、実際に顔を見ずとも微かに身動ぎした事で、察しが着いた。
恋人の分かりやすい心境の変化に、思わずくすりと笑みが溢れる。
そんな様子に、益々彼を好きになる気持ちが湧くと同時に、こちらからの気持ちが些か大きすぎないかと思ってしまう。
「うーん、好きになって良かったけど……時々私からの気持ちが重すぎないか、ちょっと不安になるなぁ…」
苦笑いしながらそんなことを何気なく愚痴ると、不意に凭れ掛かっている相手は真摯な声色で返答してくれた。
「…君からの想いを疎ましく思ったことは一度たりとも無い。……むしろ、真尋が思う以上に私から君に向ける感情の方が、重たい気がするが」
「…ん?」
何だか今、聞き捨てならない事を言われた気がするが。
行冥から私に向ける感情が重たい?
今まで彼からの想いをはっきりと言葉にされたり、態度に示された覚えが無い為、思い当たる節が無さすぎる。
改めてそれがどういう意味なのか、問いただせねば…!
そう思い、私は凭れ掛けていた身体を離して座り直すと、彼の顔をきっと見上げた。
すると向こうも私が離れたのを不思議に思ったのか、こちらに顔を向ける。
「………あ、その…」
行冥の顔を見た途端、言いたい事や聞きたい事の言葉が出てこなくなってしまった。
見えていないはずのその目は真っ直ぐにこちらに向けられており、まるで私の心を見透かされるような心地がした。
視線を逸らす事も出来ずただ黙り込んでいると、徐に彼の手が私の頬に触れた。
そしてその親指が唇を柔く撫でる。
いつも口付けをする前はこの行動をするから、今もそれをするのだろう。
…でも、もし誰かに見られたりしたらどうしよう。
そんな考えが頭にありながらも抵抗は出来ずに、すっと近づいた相手の顔に私は静かに目を閉ざした。
「あー!!羽把岐様がいないッ!!!」
「っ…!!」
突如、絶叫にも近しい大声が窓の向こうからして、私達の口付けは寸前の所で中断された。
そしてその大声の後に「鳥柱様!どこ行ったんですか!!」という怒気を孕んだ声と共に、どたばたと足音が屋敷の中からする。
それらの音を聞きながら唖然としていた私達だったが、行冥は不意にぽつりと呟いた。
「……以前にも、こうして邪魔が入った気がするな…」
「あー、あの時は私の鴉だったね」
前の時は彼の屋敷でイチャイチャしようとした時に、鎹鴉が任務の報せを伝えに来たっけな、と思いつつ、私は尽く良い雰囲気には邪魔が入る事実に無性に笑いが込み上げて来てしまった。
「ふふっ、あははは!何だか上手いこと行かないものだね!」
「……そういう
少し落ち込んだ様子の彼に、笑いが止まらなくなる。
そうしてけらけらと笑っていたが、いつまでもこうして寛いではいられない。
私を探し回っているであろう隠の元へ行かないと、お説教の時間は延びる一方だ。
「さて、私はそろそろ医療係の隠から怒られて来るかな。……う"、あいたたた…」
立ち上がろうと体幹を曲げたところ、貫通した箇所の横腹がひどく痛んだ。
その部位に手をやると、汗にしてはやけに濡れている感覚が。
ふとそちらに視線を落とした時、触れた手のひらと入院着が赤く染まっていたのが見えた。
「うわっ」
…やけにじくじく痛むと思っていたが、どうやら傷口がまた開いたらしい。
そして私のその言葉に反応した隣の人物は、不思議そうに訊ねてきた。
「…何かあったのか」
「あー……その、傷口がまた開いたみたいで…」
「………」
「ごっ、ごめんなさい私が悪かったからそんな責めるような圧は止めて…!」
先程までの甘い雰囲気は
忠告も反対も押し切り散々動き回った私に対し、行冥は今にも説教を始めそうな雰囲気を醸し出している。
お説教ならば、今から受ける隠からのもので十分である。
夏の暑さによる汗とはまた違う冷や汗を流しながら、私はこの傷口を
不意に行冥がこちらに近付いたかと思うと、体が持ち上がる浮遊感に包まれた。
「え。…えっ!?」
突然の出来事に理解が追いつかなかったが、数秒後に私は彼に横抱きされているのだと分かった。
一般女性よりも上背が大きい私だけれども、鍛えられたその人物の腕なら軽々といった様子だ。
しかしこれはこれで、中々気恥しいものがある。
その為、私はどうにか降ろしてもらうよう抗議した。
「ちょ…少し開いたくらいだから大丈夫、自分で歩けるって!」
「君の"大丈夫"は信用ならない…」
「ひどい!信じてよ!」
「…あまり動くと傷に障る…」
「うぅぅ~…!!」
降ろしてくれそうな気配は一切無く、行冥は黙々と歩き始めた。
このまま屋敷内の隠達にこの姿が見られるのだと思うと、私の恥ずかしさは頂点に達し思わず両手で顔を覆った。
そうして探し回る隠の元へと、私は強制的に運ばれた。
行冥が一緒だったからか、その人物からのお小言はあまり無かったものの、再び寝台に寝かされた私は隠の代わりにその恋人からのお説教を受けることとなった。
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