10.智慧
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その十二鬼月との戦いの経緯の詳細を行冥に語ったところ、彼は涙を流しながらも静かに耳を傾けてくれていた。
まだ静聴してくれているその人物に、私は言葉を続けた。
「勿論鬼が人を食らうのは許される事ではないけれど…でも、鬼も生き延びる為に人間を喰らっているのかもと思うと、少し揺らいじゃったんだよね」
私達人間が他の種の生命を喰らうのと同様に、鬼も人間を喰らうというならば、それを咎める権利は私達にあるのだろうか。
そんな疑問が芽生えてしまい、それがずっと私の心の奥に巣食っていた。
すると行冥は、沈黙していた口をようやく開いた。
「……仏教では、我々人間も食物の連鎖の一つにすぎないと考えている」
「…というと?」
突拍子の無い大まか過ぎる話に、首を傾げる。
そんな私に対し、彼はわかり易く説明してくれた。
私達が家畜を食べるのに対し、その家畜は植物を食べる。そして植物は土から栄養を得る。
それらの種の線引きは、あくまで人間が考えたもので、仏教では全て"生命"であることに変わりはないのだそうだ。
そして人は死ぬと土に還り、やがて肉体は土を通してまた植物の栄養分となる。
そうして生命は循環し、人間は食事前に手を合わせるのは感謝を示しているのだと語ってくれた。
「…しかし鬼の場合、死ぬ時は塵となるだろう」
「うん…何も残らないね。髪も骨も」
「それ故、私は"鬼は連鎖の輪から逸脱した存在"だと捉えている。……元来、鬼も人間。人の道理から外れた者は、
言いながら、行冥はまた涙を流し合掌した。
左手にある数珠が擦れ、じゃりと音が鳴る。
彼の言葉を受け、確かにそういう考え方もあるのかもしれないと納得した。
もしかしたら、鬼と人間の大きな違いはそこにあるのかもしれない。
今まで密かに思い悩んでいた考えに折り合いがつき、私の心持ちは少し軽くなるのを感じた。
しかしそれでも、その鬼と対峙した時に我を忘れるような激昂で、捨て身の行動をとった事を反省する気持ちがまだ残留していた。
「その鬼の言葉には私の中でも踏ん切りは着きそうだけど…ただ、頭に血が昇ってめちゃくちゃな戦い方をしたのは、反省しないとだよねぇ…」
自身がどんな技を繰り出し、相手がどんな血鬼術を使ったのかすら朧気で、報告書には曖昧な表現ばかりになったのを思い出し、思わず苦笑いした。
しかし傍らにいる人物はそれを咎めず、ぽつりと零すように私に訊ねてきた。
「真尋は、その鬼に対し今までに無いくらいの怒りを感じたと言ったか…」
「うん、自分でも何であそこまでキレたのか不思議」
「……それは、君の精神面が成長したからではないだろうか」
「…え?」
"反省"ではなく"成長"と言われ、予想外なその言葉に意図が読めなかった。
戦いに
それを失っていたのに、肯定的な言葉を投げかけるなんて、どういう意味を含んでいるんだろう?
脳内では堂々巡りするばかりで、そんな悶々とする私を行冥は感じ取ったのだろう。
夏の庭と遠くの景色の方をまるで眺めるようにして、静かに言葉を続けた。
「今まで君は、自分の事で手一杯で鬼の言葉に耳を傾ける余裕は無かったのだろう。……それに今回犠牲となったのは、まだ産まれる前の赤子と母親。二人の境遇や理不尽さを考えるという、他者への"視野"が拡がった、とは言えないだろうか…」
「…視野、かぁ」
視野が拡がったというならば、やはり輝利哉様を抱っこした瞬間からが一番大きく関わっているかもしれない。
あの時に、産まれてくる新しい命の大切さに気付かされたし、それがどれだけ周囲の人々も待ち望んでいたのかも理解した。
もし乳児をこの腕で抱いていなかったのなら、あの親子が犠牲になったのを目の当たりにしても、あそこまでの怒りを抱かなかったのだろうか。
色々あれこれと考えていると、行冥は穏やかな声色で私に語りかける。
「……怒りは確かに身を滅ぼす事もある。しかし時として、それは大きな力となる可能性もある。真尋もその怒りに呑まれぬよう、そして己の力へと変えるよう励むと良い…」
「…うん」
行冥の言葉や口調は決して優しいものではないし、ましてや慰めるような甘いものでもない。
でも、否定はしないし別の観点からの話をしてくれる。
それに気休めの優しい言葉等よりも、鋭くも厳しい思いのままの言葉の方が、今の心境には有難かった。
私にとってはそれが心地良くて、新たな視点を拡げる助言に思えた。
彼の様々な視野の言葉や考えを受け、気付けば蟠っていた胸のつかえが取れて、すっかり心は軽くなっていた。