10.智慧
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十二鬼月のその鬼と対峙したのは、とある街中の屋敷の中だった。
その区域では若い夫婦が惨殺されるという事件が続いており、表向きでは無差別殺人事件として警察が動いていたのだが、どうやら鬼の影があるということで鬼殺隊の方に密かに話がまわってきた、というのがそもそもの経緯にあった。
その任を受けた私は、他の隊士達と共に夜の街中を巡回していたのだが、一軒の屋敷の方から悲鳴が上がるのを聞きその場に駆けつけた。
塀を飛び越え、縁側から土足のまま上がり勢い良く襖を開く。
そこに倒れていたのは、一人の女性だった。
今しがた鬼にやられたのか、腹部を切り裂かれ
生気を失った眼からは涙が流れた跡があり、絶望を顔貌に遺していた。
…間に合わなかったか。
民間人の亡骸を前に、私は悔しさでぎり、と歯軋りをした。
しかし不意に、その遺体に違和感を感じた。
鬼にやられたにしては、身体の欠損が少な過ぎる。
比較的食みやすいであろう腕や脚は四肢全て残っており、腹部だけが切り開かれているというのも奇妙だ。
それに位置も、多数の臓器がある位置よりも下の下腹部辺りで、傍らに何かの臓器と腸管にしては細い管が─
その様子を
どうかそれはただの私の想像上だけであって欲しい。
そう願うも、それは虚しく現実となってしまった。
部屋の奥の廊下側から足音がしたかと思うと、この女性を殺害したであろう鬼が姿を現した。
「ああ、客人か!…その出で立ちからして"鬼狩り"という連中のようだな」
やけに快活とした口調で語るその鬼は、細身の背広に整髪料で整えられたであろう艶やかな髪、靴も綺麗な革靴履いており、一見すると西洋風の初老の紳士だった。
しかし口から覗く牙と瞳の数字が、人間とは異質だと物語っている。
鬼は軽快な声色で話を続けた。
「食事はもう終えたから、その遺体は君らで引き取ってくれたまえ」
「……随分と少食なんだな」
日輪刀を構え、皮肉を返す。
人を食料としか
するとその鬼は、私の静かな怒りに気付かないのか、さも愉快そうに軽く笑った後に朗々と語り始めた。
「私は美食家でね、様々な人間を喰らったが最も美味なものしか受け付けなくなってね!私を鬼にしたその者も、見目麗しい女性を主に喰らうのだが…やはり一番は産まれる前の胎─」
全て言い切る前に、私の日輪刀が鬼の下顎を吹き飛ばした。
同時に、脳裏にはお館様のご子息の輝利哉様を抱いた時の光景が過ぎった。
小さく弱々しく、そして愛おしい尊い命。
…あの臓器と思っていたのは胎盤、そして腸管と思っていたものは臍の緒。
産まれてきて祝福されるはずの小さな命を容易く摘み取ったその鬼に、今まで感じた事の無いくらいの激しい怒りが湧いた。
発音器官を損失した鬼は、すぐさまその箇所を再生し始める。
下顎部分の骨が再生するも、頬はまだ歯列が覗く状態で私を睨み付けてきた。
「……まだ話の途中だぞ、慎め女風情が」
「お前の話なんて誰が聞くか!人間の…子供の命を何だと思っている…!!」
鬼の下顎と皮膚が完全に再生するよりも前に、私は我を忘れるくらいの怒りに任せて突撃した。
そんな状態だったから、戦っている間の記憶は飛び飛びになっていた。
ただ覚えていたのは、その鬼は恐らく血鬼術で血を固めたような深紅の武器を所持して応戦し、形状は非常に細い円錐で、まるで大きな針のようなものだった。
それは何かの書物で見かけた、異国の武器の"レイピア"という物にそっくりだった。
その武器は非常にしなり、私の攻撃を幾度も受け流し中々当たらず、次第に苛立った私は自身の身を囮にして反撃を試みた。
"斬る"よりも"突く"に特化したその相手の武器を考慮し、わざと日輪刀を上段構えに位置するよう振るう。
すると胴体部分ががら空きになる為、相手は腹部を狙ってくるだろうという考えだった。
そしてその目論見通り、鬼は私の腹を目掛けて攻撃してきた。
当たる寸前に身体を捩り、臓器の負傷を避ける。
横腹にその細い刀身が突き刺さり背面まで貫通したが、不思議と痛みは無くただ冷たい感覚がしていたのを覚えている。
「…捕まえた」
私の呟きに、鬼ははっとした表情を見せていた。
しかし私の攻撃圏内に完全に入ったからには、もう逃すつもりは無かった。
三節刀を振るい、鳥の呼吸の技を繰り出す。
鬼の身体はそれらの攻撃を全てくらい、屋外へと吹き飛んだ。
中庭に落下し、それでも身体を再生を始めようとするそいつに、私は間髪入れずに頚を刎ねて最後の止めを下した。
終始攻撃の手を緩めなかった為、気が緩んだ瞬間一気に疲労感と息切れに見舞われ汗が吹き出した。
気付けば身体のあちこちに創傷があり、一番負傷の大きい腹部の貫通した傷口を止血しようと、強く横腹を抑える。
崩壊が始まったその鬼は、私を見据えながら口を開いた。
「先程、君は"命を何だと思っている"と謳ったが…私にとっては、人間も獣も等しい生命だと思っているのだよ」
「……何が言いたい」
まだ肩で息をする私は、睨み返しながらその鬼に問い質す。
つまらないその鬼の戯言を聞き流しでもしてやろうかと思っていたのだが、しかしそれは私の根幹を揺るがす言葉となった。
「我々鬼が人間を喰らうのは、君らが日常的に鶏などの畜生を喰らうのと何一つ変わらないという事だ。それとも何かね、人間は他の種の生命を奪うのは当然であり許されるいうことかね?…
「…………」
何か言い返してやろうと思ったが、言葉が出て来なかった。
確かに屠殺される家畜からすれば、人間という存在は鬼とさして変わらないのだろうかと思うと、上手く言い返せなかった。
そうして押し黙った私を見て、鬼はまるで勝ち誇ったかのように高らかに嗤い、そのまま塵となり消えた。
差程大きな負傷はせずに勝利したものの、私の心の中には大きな