1.壮途
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(とりあえず、母の墓くらいは作るか…)
私は三節棍を手に、ゆるゆるとした足取りで山を下り、ぼんやりとそんな事を考えていた。
夜は完全に明けており、山の木々の隙間から朝日が差し込み始めている。
気怠い足を動かしようやく家に辿り着いた時、中から人の気配がするのに気が付いた。
咄嗟に手にある武器を構え、足音を立てずに近寄りそっと中を覗き込む。
そこに居たのは白髪の若い女性で、私の母の亡き骸に向かい、合掌をしている姿だった。
その様子からして敵では無さそうだと思い、私は三節棍を下ろし玄関先に姿を現す。
じゃり、と踏みしめた砂の音に、彼女ははっとした様子でこちらに目を向けた。
女性は美しい顔立ちで、息を呑むような神秘性があった。
顔をよく見れば、私とそう歳は離れていないように見えるが、不思議と大人びた雰囲気を帯びている。
その女性は静かな声色で、言葉を発した。
「羽把岐 真尋様、ですね」
「……ええ、そうですが。貴方は一体…?」
女性から私の名前が紡がれた事に、僅かに
しかし女性は表情一つ変わらない面持ちで、話を続けた。
「申し遅れました。私は鬼殺隊当主、産屋敷耀哉の妻、産屋敷あまねと申します」
綺麗な所作でお辞儀をするその人物に対し、私はその自己紹介の中で分からない単語が飛び出し、ただ困惑して立ち尽くすばかりであった。
──────
母の骸は、家近くの木の下に穴を掘り、そこに埋めた。
産屋敷あまねと名乗ったその人物は埋葬の手伝いをしてくれて、墓石代わりになりそうな拳大くらいの大きさの石と、供える花を摘んで持ってきてくれた。
穴を掘っている間、その鬼殺隊とやらについて何も分からない私に、あまねさんは世の中に蔓延る鬼とそれを討伐する組織について説明してくれた。
どうやら私の父は本当に鬼になっていたようで、本来ならばそう簡単に討伐できるものではないらしい。
しかし私はその鬼を滝壺に落とし、日が昇った今ではもうその日差しで消滅しているのでは、と話した所、微かに目を丸くして驚いている様子だった。
「予知夢の通りでした…… 羽把岐様、貴方には剣士の素質があります。どうか鬼殺隊に入隊し、私達のお力になってはいただけないでしょうか」
「いいですよ。特に行く宛ても無いですし」
悩んだり躊躇う間もなく、しれっとした軽い調子の私の返事に、あまねさんは呆気に取られた様子だった。…勿論、鬼殺隊とやらが命懸けの部隊なのだとは聞いている。
しかし両親から深い愛情を受けた訳でもなく、何も期待されず、ましてや他所に親しい人間関係がある訳でもない私にとっては、今更命が惜しいなどとは思わなかった。
勿論、そうして自身の命をどこか軽視している事も、自覚している。
それゆえの軽い返答になってしまったのだが、それを知る由もないあまねさんにとっては、想定外過ぎる反応だったのだろう。
「まあ…期待してくれるのなら、それに応えたいという気持ちは本当なので。そこは安心してください」
私がそう言うと、唖然としていたあまねさんの表情はふっと柔らかなものになり、今まで変化の無かった面には、口元に微かに笑みを称えていた。
その日が私の鬼殺隊の関わりの始まりであり、そして今までの両親というしがらみから解放され、籠から飛び立つ巣立ちの日でもあった。