短編
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任務明けの帰路、山中の道を歩いていると前方に見慣れた人物の後ろ姿を見つけた。
"南無阿弥陀仏"の字を一つずつ散らした柳色の羽織を纏ったその人が視界に映った途端、私は疲労感も吹き飛び心の内は喜色に染まる。
そして上機嫌のままにその人物に駆け寄り、大きな背中を軽く叩いた。
「行冥!どうしたのこんな所で立ち尽くして」
私の足音で近付くのは気付いていたのだろう、その人は特段驚きもせずにただ困惑した表情のまま振り返った。
「…冊子が落ちていたようだ」
どうやらこの往来で落し物を拾ったようで、行冥の手には一冊の雑誌があった。
踏んでその存在に気付いたのか、表紙には大きい足跡汚れが一つ。
しかしその表紙の表題を見た瞬間、私も一緒になって困惑してしまった。
「おおーっと、これは…」
あからさまに、性的なものを題材にしたであろう表題が。
恐らく中身は男女のまぐわう春画なのであろうことは容易に想像がついた。
恐らく男性隊士の誰かが落とした物なのだろう。
まあ、年頃の隊士も多いためそういったものに興味が湧いたり、時には欲を発散するのにそういう物が必要なのは分かる。
しかし鬼殺隊の人々が行き交う往来に落とすのは、流石に
そう思っていると、行冥は目が見えない為にこの雑誌が何なのか分かっていなかったのだろう、徐にそれを私に差し出し訊ねてきた。
「これは何の本なのか…真尋、確かめてもらえるだろうか」
「あ、私に見せちゃう?」
「…何か問題のあるものなのか?」
「いや、別に問題は無いけど…」
私の人生の中でその手のものは見聞きして知識もあるし、実際に性経験も済ませた身としては、今更紙の
ただ、この本の内容をそのまま彼に伝えるべきなのだろうか。
そんな疑問が頭に浮かんだが、ふと「行冥はこういういやらしい物を前にしたらどんな反応をするのだろうか」といった、悪戯心にも似た好奇心が湧いてしまった。
そしてその興味に負けた私は微かに期待を胸に抱きながら、その雑誌の内容を確認して中身が何なのかを目の前の人物に伝える事にした。
「いいよ、確認してあげる」
その冊子を受け取り、ぱらぱらと
やはり中身は男女が裸で睦み合う物ばかりの画で、
「あー、うん。表題からしてやっぱりねぇ」
「……一体何の本なのだ…」
「んー簡単に言うと、男女が裸でまぐわう画ばっかりの…まあ春画だね!」
「!?」
私の発言を受け、行冥は困惑混じりのひどく驚いた表情と共にぱっと顔を赤らめていた。
初な反応を見せるその人物を可愛いなと思うと同時に、私とそういう経験をしておきながらまだそんな反応するのかという感想を抱く。
未だに性的なものに免疫が付かないんだろうな、と思いつつ私は更に追い打ちをかけてみた。
「あ、これとかすごい体位。この頁に関しては画の横に文章もあるけど、読み上げようか?」
「い、いや……止してくれ…」
男女のあられもない画を前に平然とする私とは対照的に、行冥は益々恥じらった様子で片手で顔を覆っていた。
そうして私が恋人のその反応を楽しんでいると、背後から声が一つ掛かった。
「よぉ、お二人さん。ンな所で何してんだ?…っつーかお前、悲鳴嶼さんいじめてんじゃねぇよ」
軽快な口調で声を掛けてきたのは悪友、もとい宇髄だった。
そいつは私と行冥の様子を見て、まるでこちらを悪者のように咎めてきた。
「いじめてないよ!ただ行冥の反応が面白くてからかってただけで」
「いや十分いじめてんだろ」
宇髄に言い返すも、冷静にきっぱりとそう返された。
しかし自分の恋人がこんな初々しくいじらしい反応していたら、誰しもからかいたくもなるだろうに。
そう思っていると、宇髄は私の持っているその春画雑誌を見つけると、眉根を顰めた。
「何だ、お前悲鳴嶼さんいじめるのにわざわざそんなの用意したのか」
「違う違う、行冥が此処で拾ったんだって」
「拾った?……あー…恐らくアイツ、これを探してたんだな…」
宇髄は頭を掻きながら、ため息混じりにそう呟いた。
詳細を聞けば、此処に来る道中で一人の隊士が血眼になってあちこち道の脇やら茂みやらを見渡し何かを探し回っていたらしい。
その人物に声を掛けたものの、その隊士は急に冷や汗を流しながら「大したことではない」と挙動不審に返答するばかりで、何を探しているのかは頑なに言おうとしなかったらしい。
「あの野郎、相当大事なモン落としたのかと思えばこれかよ…!」
「まあまあ、その彼にとっては秘蔵のお宝なのかもしれないよ」
多少なりともその隊士を気にかけていたのだろう、宇髄は探し物がいかがわしい本と知り半ば苛立った様子で愚痴るも、私はそれを宥めた。
そしてそんな彼に"秘蔵のお宝本"を手渡し、持ち主に届けるのを託す。
「ま、女の私が届けるよりも宇髄から渡した方が良いでしょ」
「おう、ソイツに"こんな物探す暇あんなら鍛錬しろ"っつって締めてくるわ」
それを言ったら"嫁が三人もいるアンタにこの本の大切さは分からないでしょうよ!"とか逆ギレされそうだなぁ、と思いつつもそれを口には出さず、私と行冥は託されたその本を持った宇髄をその場で見送った。
残された私達は、また山中の道を並んで歩き始めた。
「いやー、それにしても行冥も中々大変な落し物拾ったねぇ」
「…他の隊士や柱に見せなくて良かったと、今更ながらに思う…」
未だに少し恥じらう様子が見られる隣の人物は、しみじみとそう呟いていた。
行冥と同じく、その手のものに免疫が無い人があの本を見たのならば軽く騒動になり、皆慌てふためいていたかもしれない。
それはそれで傍から眺める分には楽しそうだな、と思いつつも、彼の性的なものの免疫の無さについてつい言及してしまう。
「というか…行冥は私と既に"そういう事"をしたというのに、何で未だにそんなに初な反応するのかな」
「そっ……それは…」
問い掛けたところ、行冥はまた気恥しそうにしつつもぼそぼそと少し小さめの声で返答する。
「…真尋と同衾している時は君の声や反応が可愛らしく、羞恥も忘れてしまう程つい夢中になってしまっている為…とでも言おうか…」
「…ん!?」
何やらこちらまで恥ずかしくなる返答をされたぞ…!?
要するに私の様子に夢中になる余り、自身の気恥しさは二の次になっているということか。
行冥から思わぬ被弾を食らい、私は何と返せば良いのか分からずつい照れてしまって沈黙した。
そうしてお互いぎくしゃくした雰囲気のまま、山道を歩いて進む。
相手の初な反応が見れて満足、と思いきや最後はこちらも恥じらう初な反応を見せてしまった。
私の方が性的なものの話題に強いと思っていたけれど、行冥に関してだけはどうも弱い部分があるらしい。
何だか少しばかり負けたような心地になり、私は密かに何かしらの形で仕返ししようと心に誓ったのは、ここだけの話である。