短編
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その日は生憎の雨で、恋仲相手の家を訪れていた私はいつも座る縁側ではなく、建物内へと上がり込み一室で雑談に興じていた。
今回主に話題にしていたのは、西洋の文化のについてである。
今や和洋折衷の文化が入り交じるこの時代の街中は、様々な異国文化やそれに因んだ物で溢れ返っている。
私はそんな街で見聞きした異国ならではのものについて行冥にあれこれ教えたり逆に教わったりする中、どうやら一つの話題が相手の好奇心を刺激したようだった。
「そうそう、日本ではまだ普及していないけど、海外だと誕生日を祝う文化があるらしいよ」
何処で聞いたのかは今となっては忘れてしまったが、誰かから得たその情報を口にしたところ、今まで相槌を打ったり傾聴してくれていた行冥は、少し興味がそそられた様子でその事について訊ねてきた。
「祝う……とは、何か催すのか?」
「うん、そうみたい。確かケーキを食べたりだとか、相手の欲しいものを贈ったりするって聞いたなぁ」
過去の記憶を思い出しながらそう答えると、相手は私の方にじっと顔を向けながら言葉を紡いだ。
「…誕生日ならば、君の日付けが近いだろう」
「あ、言われてみれば確かに」
柱となっては何かと忙しく、自身の誕生日など意識したりどころか忘れる事の方が多い。
それを踏まえると、西洋文化の"誕生日を祝う"というのは、自身の生まれた日を意識付けするのにはとても有用なのかもしれない。
異国文化についてそう色々考えていると、傍らにいる人物は静かな声色で訊ねてきた。
「……真尋は何か、欲しいものはあるのか」
「え?」
突然そんな事を言われても、咄嗟に思い浮かばないものである。
そもそも何故行冥がそんな質問を、と思ったが、今までの話題からして恐らく私の誕生日に贈り物をしてくれるという事なのだろう。
好きな相手から祝ってくれる事はとても嬉しいし、ましてや欲しい物を贈ってくれるとなると、それは思い出に残るような宝物になるかもしれない。
私はその人物からの心遣いだけでも十分に満たされた心地になった。
「何かくれるの?」
「ああ…そういった切っ掛けがあった方が、何かと物を贈りやすい…」
「えへへ、嬉しい。でもその気遣いだけで十分だよ、ありがと」
自然と笑みを溢しながらそう答えたところ、何故か行冥は少し困った様な表情を浮かべていた。
何か問題があるのだろうかと考えていると、こちらの不思議そうな気配を察したのか相手は少し歯切れの悪い言葉で説明をする。
「何かしら物を渡しておいた方が……その、君に近付こうとする者がいた場合の牽制にもなる…とでも言うのだろうか…」
「牽制……つまり、私との恋仲をそれとなく示唆する、みたいな…?」
「………そういうことだ…」
そうぽつりと答えると、行冥は照れた様子で私から少し顔を逸らした。
相手が初めて見せたそのささやかな独占欲に、私は嬉しいやら気恥しいやらでどんな反応をして良いのか分からず、ただ黙り込んでしまった。
行冥は今までそういった感情を態度に滲ませた事が無く、私だけが勝手にやきもきしたり稚拙な感情を抱いているものばかりだと思っていたけれど、どうやら向こうも似たような想いは少なからず感じていたらしい。
そうしてお互い沈黙してしまい室内に静寂が訪れ、襖の向こうの雨音だけが聞こえていた。
そんな初々しさすらある甘酸っぱい空気感を打破しようと、私は元気な声をわざと発する。
「そっ、そうそう!元々は私の欲しい物についての話だったよね!えっと、私の欲しい物はー、………?」
勢いで言葉を発したは良いが、そもそも私が希望する物自体何一つ思い浮かんでいなかった事を思い出す。
街中に溢れ返る様々な品々を思い出してみたりするものの、せいぜい"欠けた茶碗を買い直す"だとか"布団を新調する"といった、ありふれた日用品のものくらいしか思いつかない。
しかしそれを祝いの品にしてしまっては、あまりにも特別感や色気が無さすぎる。
というより、それは最早引越し祝いの類いになってしまう可能性が高い。
本当ならば髪飾りや装飾品が理想的なのだろうが、生憎私の髪は短くて結う程の長さは無いし、装飾品についても身に付ける習慣は無い。
ぱっと思い付く物が浮かばす、腕組みをして首を傾げ考え込んでしまった。
「うーーーん…」
「…君の望むものならば、何でも構わないが」
何でも良い、と言われたら益々迷ってしまう。
行冥にしては軽い助言つもりなのだろうが、私はその一言で更に頭を悩ませていた。
しかしそこでふと、私の中にある悪戯心がつい芽生えてしまった。
どうせなら、行冥が戸惑う"贈り物"を答えてみようか。
そう思いつき、顔や態度には出さずに内心でにやりと笑った。
「一つ思いついたけど…あれはちょっと、簡単に用意出来るものじゃないからなー」
「……何だ?」
「うーん、すぐ出来るものじゃないよ?」
「言ってみると良い…」
「赤ちゃん」
「…!?」
案の定、行冥は照れと戸惑いと驚きが入り交じった表情を見せてくれた。
予想を超えた良過ぎる反応を目の当たりにし、私はつい吹き出してしまいお腹を抱えてげらげらと笑い転げる。
「あっははは!すごく良い反応!」
「………」
遠慮なく笑い声を上げる私とは対照的に、行冥は口を閉ざしじっと沈黙していた。
あまりからかうのも悪いなと思い、まだ少し笑いが込み上げつつも私は起き上がって座り直しつつ謝罪した。
「ごめんごめん、ついからかいたくなっちゃって………って、あれ。行冥?」
こちらの言葉がまるで聞こえていないかのように、何やら考え込んでいる相手の様子に思わず彼の名前を呼んでみる。
しかし呼ばれた人物は顎に手をやり、真剣な面持ちで何か思慮している様子だった。
何か変な地雷踏んだかな、と内心不安を感じていると、逡巡するのを終えたその人物は何処か決心した様子ですくっと立ち上がった。
そして徐に、私を肩に担ぎあげる。
「わっ!?何なに!?」
「……真尋が子供を授かるよう、私も努力しよう…」
子供を授かる、とはつまりまあ、そういう事である。
しかしそういう行為をしたからといって子供は必ずできるものでは無いし、半ば天運のようなものだと考えている私にとって、"欲しいもの"の回答にしてはほんの冗談のつもりだった。
「ちょっ、待って待って!そう答えたのは行冥を少しからかおうとしただけであって…!」
焦る私に対し、相手は構わずずかずかと歩きだし襖を開く。
あ、これはこのまま行冥の部屋に連れていかれるやつだ。
こうして彼の肩に担ぎあげられてしまっては、最早抵抗する術も無い。
まだ昼間だというのに、という考えと共にほんのりとした羞恥心を抱いた私だが、大人しく彼の部屋へと連れ込まれる事を受け入れるしか選択肢は無かった。