9.閨事
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そうして時間潰しをしている内に夕刻となり、夕餉を共にした後お風呂もいただき、就寝の為の身支度を済ませると借りたその一室で一人待機していた。
そわそわと落ち着かない気持ちを抱え、敷いた布団の傍らに正座してみたりその上でごろごろ転げ回ってみたり、そっと襖に耳を寄せて相手が来るか伺ったりしていたが、一向に行冥がこの部屋を訪れる気配はしなかった。
おかしい、昼間は確かに向こうも意識していた筈だ………もしかして、寝た?
いや、そんなまさかとは思うものの、あの不器用な人のことだから有り得なくもない話である。
自身の欲に蓋をし自戒だ何だと言って大人しく就寝したり、私が昼間雑巾がけで暴れ回っていたのを気遣い、休ませようと考えたりは十分しそうである。
「……そっちが来ないのならば…」
残された選択肢は一つ、こちらから突撃するのみである。
そうだ、戦いに於いては"先手必勝、狩られる前に狩れ"を信条にしている私だ、今更何を怯む事があるのだろうか。
そもそも性行為もほぼ戦いみたいなものだろう。
心は既に合戦に臨む先陣を切る武将の如く、謎の気合いに満ちていた。
「いざ!!」
頭の中に鳴り響く法螺貝の音。
掛け声と共に私は襖を開け放ち、廊下を飛び出して目的の人物がいる部屋へと向かった。
廊下には月明かりが差し込み、灯りが無くても十分に歩ける明るさだった。
行冥の部屋の前まで来たが、襖越しに見える中は暗く静かだった。
やっぱり眠ってしまったのかな、と思っていた時、不意に中から声がした。
「…真尋か。何かあったのか?」
眠っていない、起きてる…!
そう思った途端、足が竦んだ。
しかし既に私の心は戦場に駆り出した武者状態である。
意を決し、私はその部屋の襖を勢い良く開け放った。
「こんばんは!夜這いに来たよ!!」
「!?」
仁王立ちで高らかに宣言する私に対し、壁際に置かれた卓に向かっていた行冥はひどく驚き、そして手元が狂ったのか、香炉に入れようとしていた粉を零していた。
「あーあ、こぼしてる」
「……誰の
他人事のように軽い調子で話す私に向かって、呆れ気味の表情を浮かべる行冥。
恐らく瞳があったのならば軽く睨まれていたかもしれない。
襖を閉めるとその人物の隣に行き、膝を抱えて座り込む。
薄暗い部屋で彼が用意していたのは、藤の香りのする香炉だった。
恐らくこの準備に時間を要していたのだろう。
「香炉を焚いてたんだ」
「ああ…君の部屋の方に持って行くつもりだった」
卓上に零した粉を片付けながら、隣の人物は静かにそう話す。
香炉からは細い煙が立ち上っており、藤の花の香りが鼻腔を燻った。
行冥はそれを部屋の前の廊下に出すと、襖を閉めた後に私の傍に来て、片膝をつきかがみ込んだ。
「……こちらから行く手間が省けたな」
「てっきり寝たものだと思って、突撃しに来ちゃったよ…」
早とちりと判明し、私は少し照れくささを感じて意気込んでいた気持ちも途端に沈下してくる。
すると、行冥は口元に少し笑みを湛えながら大人しくなった私をそっと抱き締めた。
寝衣の浴衣越しに相手の体温がじんわりと伝わり、心拍数が徐々に上がってくる。
大好きな人の温もりと匂いに包まれて幸福感と少しばかりの緊張感を覚えていると、不意に行冥の抱き締める腕の力が緩んだ。
「……真尋、こっちに」
「…うん」
傍らに敷かれてあった布団の方へ移動を促され、私は素直にそれに応じた。
その上に行くと、肩を抱かれて優しく横に寝かされ、行冥が私に覆い被さるように上に乗る。
以前押し倒された体勢と同じ状態になったが、前の時のように不思議なこわさは感じなかった。
ただ彼への愛おしさと、体を重ねる事への期待と緊張が今の私の中に満ちていた。
しかし薄暗い部屋の月明かりのみで見た彼の顔は、何処か不安げで迷いのようなものが見受けられた。
実際、押し倒したような体勢でいるものの、未だ私に手を伸ばそうとする素振りや気配は見られない。
それを不思議に思った私は、彼の頬に手を添えながら訊ねた。
「…何かあった?」
「いや………その…」
視界の頭上に映る人物は、しばし何か言い淀んでいる様子だったが、意を決したようにその言葉の続きを紡いだ。
「……今まで私は、女人と
ああ、そういうことか。つまり、初めてなので自信が無いと。
それを気にしていたのかと思うと、目の前の人物がたまらなく愛おしく感じられて、私は思わず彼の首筋に両手を伸ばすと、引き寄せるようにしてぎゅっと抱き締めた。
「…!?」
いきなり抱き締められた方は、ひどく驚いた様子で固まってしまった。
「いいよそんなこと。私が満足するとかよりも、私は行冥とこういう事ができるっていうだけで嬉しいんだから」
「………」
愛する人と肌を重ねることで、相手の事をもっと知って愛情を深めたい。私に、まだ知らない顔を見せて欲しい。
そんな意思を聞いた彼は、不安げな空気を少し和らげた気配がした。
そして私が抱き締めている手の力を緩めると、その身体を密着させた体勢のままで唇を重ねた。