8.残滓
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ミミズクが先導するのは集落の家々から少し離れた片田舎の道ではあったものの、過去に整備されていたのか石なども少なく走りやすい道だった。
辺りは大分薄暗くなってきていたが、まだ目を凝らせば物を見分けられる程度の明るさは残っていた。
その中で、私は山の斜面を行く人影を遠目にだが確かに見つけた。
「あっ…!あそこに人がいる!」
何やら荷物のような袋を肩に担ぎ、石段を登る男の後ろ姿だった。
しかしこちらの気配か或いは声に気付いたのか、その人物は私達の方を一度振り返る仕草を見せた後、慌てた様子で駆け出した。
「え、逃げたんだけど!?」
「…鬼と関連している可能性が高い。追うぞ」
そう言うや否や、行冥は先に駆け出していた。
それを追う形で私も後に続く。
こちらは普段から鍛錬を積み鍛え上げられた戦闘員。
対して追う男の方は、一般市民の上に荷物を抱えている。
距離はあっという間に狭まって簡単に追いつき、私達が石段を登り終えた先で、男は丁度抱えていた荷物を投げ捨てる所だった。
そしてそのまま、足を止める事なく奥へと逃亡して走り去る。
どうやら辿り着いたその場所は、元々は神社があったようで今は廃神社となっている建物や、朽ちて崩れた鳥居などがそこらに存在していた。
そして拓けた場所に放り出された荷物が一つ。
麻袋のそれは、小柄な人が一人入れる程度の大きさのものだった。
「うぅっ…開けたくないなぁ…」
周囲の雰囲気も相まって、何かおぞましい物や見るも無残な遺体が入っている想像をしてしまう。
「…警戒するような物では無さそうだ」
行冥はそう言いながら特段警戒する様子も無く、すたすたとそれに近付き傍らにしゃがみ込むと、躊躇すること無く袋の口を開いた。
すると中からは、遺体でも何でもなく生きた一人の男の子が現れた。
歳は六歳程度だろうか。口には布の轡を噛まされ、後ろ手に縛られている。
「え、もしかして……きみ、辰彦くん?」
行冥がその轡と縄を解いている中、私はその子に近付いてしゃがみ込み視線を合わせながら名前を訊ねる。
するとその子は目に涙を一杯に溜めながらも一度、こくりと頷いた。
良かった、生きていた。
集落で探し回っていた夫婦が悲しむという憂いが、一つ消えた。
私は続けてその子に質問をする。
「何があったのか言える?さっきの男の人とは面識あった?」
しかしその辰彦くんは、その質問に答えるよりも前に、とうとう涙腺に限界が来たのか堰を切ったように、わんわんと大泣きし始めてしまった。
無理もない、脅されたのか唐突かは定かではないがこうして無理矢理捕縛されて袋に詰められ、こんな場所に連れてこられてしまっては、大人だって大層な恐怖心を抱くだろう。
子供に苦手意識のある行冥は、ひどく困った表情を浮かべており、助けを求めるように私の方に顔を向けた。
…仕方ない、此処は私がこの子の面倒を見ることにしよう。
「行冥はさっきの男の人を追って。私はこの子を隠に引き渡してから、後から追うから」
「…分かった、ここは任せた」
男は廃神社の裏手の方に逃げたが、盲人の彼の聴覚ならばまだ追える範疇の距離にいるだろう。
男の行方を追跡する行冥に対し、私は指笛で颯を呼ぶと彼の後を追うように指示した。
後は行冥の鎹鴉と上手く連携すれば、彼の後を追うことは可能だろう。
次いで、私の鎹鴉の冬暁は隠の人の方へと飛ばし、すぐさまこの場に来るよう指示を下した。
私は泣き続ける男の子に近付き、そっと肩を抱き寄せた。
小さな身体は恐怖でぶるぶると震え、手首には縛られた痛々しい跡が残っていた。
「もう大丈夫だよ。鬼は私達が倒すからね」
小さい背中を撫でながらそう話し掛けると、辰彦くんはようやく言葉を発せられるようになった様子だった。
その子はしゃくりあげながら、私に訊ねてきた。
「あ…あの人、鬼、なの?」
「鬼か、
そう答えた時、ふと疑問が浮かんだ。
鬼に身体のみを操られていたとするならば、何故私達鬼殺隊に助けを求めようとしなかったのだろう?
それにもし鬼が男を洗脳し操っていたとするならば、餌となるこの子供をここまで来て投げ捨てるような、そんな勿体無いような操作するだろうか?
もしかして、あの男は─
一つの可能性が浮かび上がり、私はそれが段々と真相に思えてきてならなかった。
鎹鴉を飛ばしてから暫し後に、隠の者が現れて辰彦くんを引き渡し保護させた。
そして颯を再び呼び戻し、その相棒や鎹鴉の案内で行冥の元へと急いだ。
廃神社の奥は山深くに続いており、木々や草を分け進んだ先の岩壁に辿り着いた。
その岩肌の袂には隙間があり、そこから中へと入れる様子で、行冥はその前で待機してくれていた。
「何ここ…洞窟?」
「男はこの中に逃げ込んだようだ…
そう話す行冥の足元には、使用済みのマッチの棒が数本散らばっていた。
恐らくランタンか何かでも点したのだろう。
一方で、私達は灯りとなる物は無く、ただ鬼と戦う為の日輪刀しか手にしていない。
「うーん、心許ないな……うわ、中真っ暗!」
私が先にそろそろと中に足を踏み入れると、洞窟内部は外の僅かな明るさも一切遮断される為に、何も見えなくなってしまった。
すると先に進んだ私に対し、行冥は急に慌てた様子の声色で話しかけてきた。
「待て真尋!そのまま先に進んでは…」
「え?なんか言っ たぁぁーい!?」
彼の呼びかけに対して振り返りながら進んだ所、前方上部に岩の出っ張りがあったのだろう。後頭部を強かに打ち付けた。
思わずその場にしゃがみこんでぶつけた箇所を手で抑える。
「……私は暗所でも構わず進める故、私が先に行こう…」
「いや、うん…デスヨネ…」
そうだ、行冥は盲目だから明るい場所も暗い場所も関係ないのだ。
「…せめてもうちょっと早めに教えて欲しかったな…」
「南無……」
私がぼそりと呟くと、行冥は憐れんだ声色で一言そう返した。
顔は見ずとも、今の彼がはらはらと涙を流していることは容易に想像出来た。
先頭を行く行冥の羽織の裾を掴み、私が後に続く。
足元も何も見えない一切の漆黒の中、先を進む人物は音の反響で全て判断しているのだろう、足取りに迷いが無い様子でどんどんと先を進んでいた。
行冥の視界は常にこの様な状態なのだろうかと思うと、何だか寂しさに似た感情を抱いてしまった。
目を開いても閉じても何も変わらない、一切の光が差し込まない漆黒のみの世界。
私にとって、それはひどく孤独感を与えるものに感じられた。
前を歩く人物はずっとこの世界にいるのかと考えると、今まで以上にこの人に寄り添いたいと思ってしまう。
そんな想いを抱き、私は羽織の裾をきゅっと少し強く握った。